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30年間の思い出を語る北原訪弥さん(左)と妻の槙子さん=国分寺市で
(東京新聞)
中央線有数の学生街で若者のおなかも心も満たしてきた定食屋が三十日、三十年の歴史に幕を下ろす。ボリュームのある料理と、店を切り盛りする夫婦の人柄で親しまれた国分寺駅前の「キッチンきたはら」。北原訪弥(たずや)さん(82)と妻の槙子(まきこ)さん(68)は「もうからなかったけど、やりたいことができて幸せだった」とこれまでの歩みを振り返った。 (石井紀代美)
JR国分寺駅から線路沿いに歩いて五分。五、六人が座れるカウンターに、テーブルが三つ。どの席に座っても、キッチンにいる夫婦の顔が見える。
唐揚げ、しょうが焼き、肉野菜炒め-。ホワイトボードに書かれたメニューは開店の時から変わらない。ご飯は、大きめの茶わんに山盛りにするのが信条だ。
「今の子は仕送りが少ないし、みんな自炊。十年前の学生よりもずっと厳しい」と訪弥さん。ここ二、三年で客足が減り、体調が不安なこともあり、今月に入って閉店を決意した。
福岡県出身の訪弥さんは十八歳のとき、歌手を夢見て上京し、新宿区四谷にアパートを借りて歌やダンスを勉強した。お金がなく、食事を抜く日もあったが、アパートそばにあった定食屋のおばさんが、付け払いで食べさせてくれた。
疲れと空腹で、へとへとになって帰ってきても、定食を食べると、また元気が湧いてくる。白いご飯をかき込みながら、「いつか自分も、若い人に腹いっぱい食べさせてあげられる店を開きたい」と思った。三十代半ばで芸能界への道を見切り、不動産会社などで働いて開店資金をためた。
夢をかなえたのは五十歳を過ぎてから。下見で、学生が一番多く歩いていた国分寺に場所を決めた。
「きたはら」の定食は、親元を離れて一人暮らしをする学生たちの心も満足させた。屈強な体格をしたアメフット部の一団が来ると、ご飯を多めに盛り付けた。「『日本昔話に出てくるご飯みたいだー』って喜ばれてね」と、槙子さんはうれしそうに振り返る。
大学二年生のころに失恋し、落ち込んでいた時に食べに来たという女性会社員(33)は「すぐに立ち直れないぐらい傷ついていたが、二人に笑顔で迎えられ、救われたことを今も覚えている。『もっといい男性が現れるよ』と励ましてくれた。熱々のみそ汁も心に染みた。閉店するのはさみしい」と惜しんだ。
訪弥さんは「若い子がおいしそうに食べて、元気に帰って行く姿を見るのが好きだった。毎日楽しかった」と晴れ晴れとした表情を見せた。』
『「今の子は仕送りが少ないし、みんな自炊。十年前の学生よりもずっと厳しい」と訪弥さん。』は、今の下宿生活をしている学生の現実を直視している発言です。北原さんご夫婦の笑顔には、誰も叶いません。
長い間本当にお二人ともお疲れ様でした。
ご健康のご回復を心からお祈り申し上げます。
30年間の思い出を語る北原訪弥さん(左)と妻の槙子さん=国分寺市で
(東京新聞)
中央線有数の学生街で若者のおなかも心も満たしてきた定食屋が三十日、三十年の歴史に幕を下ろす。ボリュームのある料理と、店を切り盛りする夫婦の人柄で親しまれた国分寺駅前の「キッチンきたはら」。北原訪弥(たずや)さん(82)と妻の槙子(まきこ)さん(68)は「もうからなかったけど、やりたいことができて幸せだった」とこれまでの歩みを振り返った。 (石井紀代美)
JR国分寺駅から線路沿いに歩いて五分。五、六人が座れるカウンターに、テーブルが三つ。どの席に座っても、キッチンにいる夫婦の顔が見える。
唐揚げ、しょうが焼き、肉野菜炒め-。ホワイトボードに書かれたメニューは開店の時から変わらない。ご飯は、大きめの茶わんに山盛りにするのが信条だ。
「今の子は仕送りが少ないし、みんな自炊。十年前の学生よりもずっと厳しい」と訪弥さん。ここ二、三年で客足が減り、体調が不安なこともあり、今月に入って閉店を決意した。
福岡県出身の訪弥さんは十八歳のとき、歌手を夢見て上京し、新宿区四谷にアパートを借りて歌やダンスを勉強した。お金がなく、食事を抜く日もあったが、アパートそばにあった定食屋のおばさんが、付け払いで食べさせてくれた。
疲れと空腹で、へとへとになって帰ってきても、定食を食べると、また元気が湧いてくる。白いご飯をかき込みながら、「いつか自分も、若い人に腹いっぱい食べさせてあげられる店を開きたい」と思った。三十代半ばで芸能界への道を見切り、不動産会社などで働いて開店資金をためた。
夢をかなえたのは五十歳を過ぎてから。下見で、学生が一番多く歩いていた国分寺に場所を決めた。
「きたはら」の定食は、親元を離れて一人暮らしをする学生たちの心も満足させた。屈強な体格をしたアメフット部の一団が来ると、ご飯を多めに盛り付けた。「『日本昔話に出てくるご飯みたいだー』って喜ばれてね」と、槙子さんはうれしそうに振り返る。
大学二年生のころに失恋し、落ち込んでいた時に食べに来たという女性会社員(33)は「すぐに立ち直れないぐらい傷ついていたが、二人に笑顔で迎えられ、救われたことを今も覚えている。『もっといい男性が現れるよ』と励ましてくれた。熱々のみそ汁も心に染みた。閉店するのはさみしい」と惜しんだ。
訪弥さんは「若い子がおいしそうに食べて、元気に帰って行く姿を見るのが好きだった。毎日楽しかった」と晴れ晴れとした表情を見せた。』
『「今の子は仕送りが少ないし、みんな自炊。十年前の学生よりもずっと厳しい」と訪弥さん。』は、今の下宿生活をしている学生の現実を直視している発言です。北原さんご夫婦の笑顔には、誰も叶いません。
長い間本当にお二人ともお疲れ様でした。
ご健康のご回復を心からお祈り申し上げます。