本日はマイナー・レーベル、ジャズラインからいわくつきの1枚をご紹介します。ジャズラインは先日デイヴ・ベイリーの「バッシュ」でご紹介しましたが、わずか数枚のレコードを残して1年で倒産した超マイナーレーベルです。本作は1961年8月2日にウィリー・ウィルソンというトロンボーン奏者をリーダーとして録音されたもので、参加メンバーはフレディ・ハバード(トランペット)、ペッパー・アダムス(バリトン)、デューク・ピアソン(ピアノ)、トーマス・ハワード(ベース)、レックス・ハンフリーズ(ドラム)となかなかの豪華メンバーです。ただ、そこはマイナーレーベルの悲哀か、発売前にジャズラインが倒産し、お蔵入りとなってしまいました。
その後、1966年にオランダのフォンタナ・レコードが音源を買い取ってようやくリリースしたのですが、残念なことに本来のリーダーであるウィリー・ウィルソンはこの時点で既に死亡していました(何でも本セッションが最初で最後のレコード収録だったそうです)。無名でなおかつ故人の作品を発表しても売れないと判断したのか、当時一番有名だったフレディ・ハバードをリーダーに冠し、ジャケットもキャッチーにして発売したのが本作「グルーヴィ」と言うわけです。ちなみに本作はその後プレスティッジが音源を買い取り、1970年にデューク・ピアソン「デディケーション」と言う名前で再発売したり、他にも手を変え品を変え色々なタイトルで発売されているようです。
次々と音源が売られているということは一見雑な扱いを受けているように見えますが、一方でたびたびリイシューされるほど根強い需要があるということでもあります。実際、アルバムを聞いてみると内容的には隠れ名盤と言っても差し支えないと思います。冒頭"Mishap"の3管による力強いオープニングを聞いた瞬間、ハードバップ好きなら心を鷲摑みにされること間違いなしです。トミー・フラナガン作で名盤「ザ・キャッツ」に収録されていた曲ですが、オリジナルに負けない出来だと思います。その他ではドラマーのレックス・ハンフリーズに捧げた5曲目"Lex"(こちらはドナルド・バード「バード・イン・フライト」がオリジナル)も痛快無比の熱きハートバップですし、7曲目のペッパー・アダムス作"Apothegm"(「ジャズメン・デトロイト」がオリジナル)も会心の出来です。他では2曲目ウィリー・ウィルソンの自作曲"Blues For Alvina"も彼の良く伸びるトロンボーンソロが印象的です。一方、2曲あるスタンダード曲”The Nearness Of You””Time After Time”はウィルソンのワンホーンによるバラード演奏ですが、出来は平凡で、正直飛ばしても良いかも・・・
ハバードはこの頃ブルーノートで次々とリーダー作を発表していた充実期で、本作でもブリリアントなトランペットを存分に聴かせてくれます。気鋭のピアニストして売り出し中だったデューク・ピアソン、いつもながらブリブリと重低音を響かせるペッパー・アダムスのバリトンも良いアクセントを加えています。本来のリーダーである謎のトロンボーン奏者、ウィリー・ウィルソンも上記の名手たちと堂々と渡り合っており、なかなかの実力の持ち主だったことが伺えます。以上曲良し、演奏良しでハードバップ好きなら気に入ること間違いなしの名盤です。