本日はアート・ファーマーのプレスティッジ盤をご紹介します。ファーマーについては本ブログでも何度か紹介しましたが、1960年代以降はフリューゲルホルンを主楽器として、どちらかというとソフトなジャズ路線で人気を博しました(「インターアクション」参照)。ただ、1950年代半ば頃のファーマーのスタイルはあくまでハードバップで、バリバリトランペットを吹いていました。1956年11月23日録音の本作「ファーマーズ・マーケット」はこの頃のファーマーの代表作の一つです。メンバーはハンク・モブレー(テナー)、ケニー・ドリュー(ピアノ)、双子の弟アディソン・ファーマー(ベース)、そしてエルヴィン・ジョーンズ(ドラム)です。
全6曲。1曲だけアーサー・シュワルツの”By Myself”はスタンダードですが、後はジャズ・オリジナルです。1曲目”With Prestige”と2曲目”Ad-dis-un”はドリュー作で出来はまあまあといったところ。3曲目のタイトル曲”Farmer’s Market”はファーマーがワーデル・グレイのバンドにいた時に書いた曲で、「ワーデル・グレイ・メモリアルVol.2」にも収録されていますが、本作の方がより素晴らしい出来です。冒頭のテーマ演奏の後、ドリューが目の覚めるようなピアノソロを2分近くに渡って披露し、続いてファーマー→モブレーがドライブ感たっぷりのソロを繰り広げます。4曲目”Reminiscing”はジジ・グライス作のバラード。モブレーが抜けたワンホーン演奏ですが、ここでのファーマーのバラード演奏も見事です。後年のようなくすんだ音色ではなく、力強く情熱的に歌い上げています。5曲目”By Myself”はファーマーがカップミュートでマイナー調のバラードを哀愁たっぷりに演奏しますが、個人的にはイマイチ。ラストの”Wailin’ With Hank”はタイトル通りモブレー作の典型的ハードバップで、モブレー→ファーマー→ドリューが快調にソロを取ります。なお、特にこの曲では前年デトロイトからニューヨークにやってきたばかりのエルヴィン・ジョーンズが圧倒的なドラミングを披露しており、後年の飛躍を予感させます。