モダンジャズにおいて、トロンボーンは常に脇役的な存在でした。ビッグバンドでは欠かせない楽器にもかかわらず、スモールコンボ主体のビバップではトランペットやサックスに比べ高速アドリブに適していないというのがネックになったのでしょう。そんな中、唯一スタープレイヤーと呼べる存在がJ・J・ ジョンソンで、ビバップ隆盛以降10年以上にわたって彼の1強状態でした。そこに殴り込みをかけたのがデトロイト出身のカーティス・フラー。1957年にニューヨークにやってきたフラーは瞬く間にハードバップ・シーンの寵児となり、多くのセッションに引っ張りだこになりました。今日ご紹介する「ニュー・トロンボーン」はそんなフラーが1957年5月にプレスティッジに残した記念すべき初リーダー作です。50年代のフラーと言えば、ブルーノートあるいはサヴォイを思い浮かべますが、初リーダー作がプレスティッジなのは少し意外です。
このアルバム、まずジャケットがいいですね。楽器のケースを片手に田舎の駅のプラットホームで列車を待つフラー。「おら、ニューヨークで一旗揚げるだ」とでもキャッチコピーを付けたくなるような一枚です。メンバーも面白いですよ。リーダーのフラーをはじめ、ソニー・レッド(アルト)、ハンク・ジョーンズ(ピアノ)、タグ・ワトキンス(ベース)、ルイス・ヘイズ(ドラム)と全員デトロイト出身です。「ジャズメン・デトロイト」で述べたように当時のニューヨークにはデトロイト出身のジャズメンがたくさんいましたが、それにしても偶然とは思えない顔ぶれです。おそらくニューヨークに出てきたばかりの若者フラー(当時25歳)を同郷の先輩たちがサポートしてあげたのでしょう。
前半3曲"Vonce #5""Transporation Blues""Blue Lawson"はフラーのオリジナル。これぞ名曲!と特筆すべきような曲はありませんが、全体的によくまとまったハードバップです。フラーはリーダーだからと言ってことさら自己主張するわけでもなく、滑らかなトーンであくまでクインテットの一員として演奏しています。ややジャッキー・マクリーンに似た感じのソニー・レッドのアルト、ベテランならではの落ち着きで演奏に安定感をもたらすハンク・ジョーンズのピアノも光っています。後半は一転してバラードが多く、ジーン・デポール作曲のスタンダード”Namely You”、自作曲の”Alicia”でフラーの暖かみのあるバラードプレイを味わうことができます。本作を皮切りにフラーは1957年だけでブルーノートから3枚のリーダー作、その他でもコルトレーンの伝説の「ブルー・トレイン」に参加するなどまさに破竹の快進撃を告げます。そんなフラーの記念すべき第一歩を記した作品です。