60年代に入って、ジャズはそれまでのハードバップから多様性の時代を迎え、モード、新主流派、フリージャズ、そして70年代のフュージョンと様々なジャンルが誕生します。その全てで重要な役割を果たしたのが本日紹介するフレディ・ハバードです。ただ、そんなハバードもデビューした頃はハードバッパーでした。1938年生まれのハバードが故郷のインディアナからニューヨークに出てきたのが1958年。その2年後にブルーノートに初リーダー作「オープン・セサミ」を吹き込み、本作「ゴーイン・アップ」はその半年後の1960年11月6日録音ですが、そこでの演奏は基本的にハードバップです。メンバーもピアノのマッコイ・タイナーは新世代ですが、それ以外はハンク・モブレー(テナー)、ポール・チェンバース(ベース)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ドラム)とハードバッパー達が名を連ねています。
アルバムはケニー・ドーハムの名曲''Asiatic Raes"で幕を開けます。有名な"Lotus Blossom"の異名同曲ですが、本家ドーハムのオリジナルに比べるとより力強くシャープな感じがします。モブレー作"The Changing Scene"、ハバード作'''Blues For Brenda''はいかにもブルーノートらしいマイナー調のバップ、モブレー作の''A Peck A Sec''もハバードのブリリアントなトランペットが炸裂する痛快ハードバップです。一方、ドーハム作"Karioka"や唯一のバラード''I Wished I Knew''(有名スタンダードの"I Wish I Knew"とは別曲)ではややモーダルな雰囲気を漂わせています。ハバードはこの次の「ハブ・キャップ」あたりからモード/新主流派路線を明確にして行きますが、本作はその過渡期の作品と言えるのではないでしょうか?