"幻"のトランぺッター、ルイ・スミスについては、少し前に「ヒア・カムズ・ルイ・スミス」で取り上げました。メンフィス出身で、50年代後半に2枚のリーダー作をブルーノートから発表し、忽然とシーンから姿を消しました。その後1970年代後半に復活して、たくさん作品を発表しているようなので実際は幻でも何でもないのですが、私のようにハードバップ・エラを中心にコレクションしている身からするとやはり謎の存在ですよね。経歴を調べてみるとスミスはテネシー州立大を卒業し、ミシガン大学の大学院に進学するなど当時の黒人では珍しい高学歴エリートだったらしいです。実際に引退後も音楽教師として安定した生活を送っていたようで、音楽で身を立てるしかない他のジャズマン達とは違ったのかもしれません。
もちろん、トランペットの腕前に関しては申し分ない実力の持ち主だったことは残された作品を聴けばわかります。本作「スミスヴィル」は1958年3月30日に吹き込まれたもので、サイドメンにはチャーリー・ラウズ(テナー)、ソニー・クラーク(ピアノ)、ポール・チェンバース(ベース)、アート・テイラー(ドラム)とさすがブルーノートと言うべき面々が名を連ねており、充実したハードバップを聴かせてくれます。
全5曲。うちスミスのオリジナル3曲、スタンダード2曲です。1曲目タイトル曲の”Smithville”は11分にも及ぶスローブルースで、スミスが南部出身らしい土臭いプレイを見せ、ラウズもソウルフルなテナーで盛り上げます。ソニー・クラークのピアノもいつになく粘っこいです。続く”Wetu”もスミス作となっていますが、ほぼ”Lover Come Back To Me”です。3曲目はスタンダードの”Embraceable You”をスミスがワンホーンでプレイしますが、出来はまあまあ。「ヒア・カムズ~」でも述べましたが、スミスはバラードがやや単調。何と言うか端正なプレイではあるのですが、リー・モーガンやドナルド・バードのような”華”がないんですよね。4曲目”There Will Never Be Another You”は有名スタンダード、ラストの”Later”はスミスのオリジナルで、どちらも疾走感溢れるハードバップです。スミスはこういう勢いのある曲の方が良いですね。特に”Later”が秀逸で、高らかに鳴るスミスのトランペットソロ、ブリブリと意外に野太いテナーを吹くラウズ、安定のクラーク、テイラーとソロをリレーしていきます。