プレスティッジはブルーノート、リヴァーサイドと並んでハードバップを代表するレコード会社ですが、同レーベルの最重要人物は今日ご紹介するマル・ウォルドロンだと私は思います。もちろん、プレスティッジにはマイルス、ロリンズ、コルトレーンはじめ数々のジャイアント達が在籍しましたが、彼らは途中で他のレーベルに移籍しています。一方マルは50年代はほぼプレスティッジ専属で、リーダー、サイドメン合わせてとなんと50近くのセッションに顔を出しています。当時たくさん録音されたプレスティッジ・オールスターズ名義のジャムセッションも、マルが中心的な役割を果たしているものが多いです。本作「マルー1」はそんな彼の初のリーダー作です。録音年月日は1956年11月9日。2管を加えたクインテット編成で、メンバーはイドリース・スリーマン(トランペット)、ジジ・グライス(アルト)、ジュリアン・ユーエル(ベース)、アーサー・エッジヒル(ドラム)です
全6曲。ジェローム・カーンの”Yesterdays”を除いてジャズ・オリジナル中心です。1曲目はベニー・ゴルソン作”Stablemates”で、これは正直まずまずの出来。2曲目"Yesterdays"はライナーノーツで評論家は絶賛していますが、私は暗すぎて好きじゃないです。私はジャズを聴き始めて20年以上経ちますが、こういうわび・さび系の曲の良さは未だに分かりません。私のおススメは同じマイナー調でも5曲目”Dee’s Dilemma"です。2管のユニゾンが奏でるメランコリックなテーマが印象的なマル作の名曲です。3曲目”Transfiguration”はジジ・グライス作となっていますが、スタンダードの”Gone With The Wind”、4曲目マル作”Bud Study”はおそらくバド・パウエルの”Parisian Thoroughfare”を下敷きにしたハードバップ、ラストの”Shome”はスリーマン作のブルースです。マルはもちろん随所でピアノソロを披露しますが、どちらかと言うと2管を前面に出し、クインテットとしての一体感を意識した音作りです。スリーマンの高らかに鳴るトランペット、パーカー直系のアルトを聴かせるグライスが聴きモノです。