
■「サッド・ヴァケイション」(2007年・日本)
監督=青山慎治
主演=浅野忠信 石田えり 宮崎あおい 板谷由夏
どんなに周囲の人々が見捨てても、家族は最後まで受け入れてくれるもの。だから何よりも暖かいし、逆に逃れられないものでもある。僕がこの映画を観ていて心に浮かんだ言葉は、"逆らえない血がつなぐ運命"。「ゴッドファーザー」の1作目でアル・パチーノがドンの座を引き継ぐラストでも、僕はそれを思った。人には逆らえないものがある。映画のラスト、刑務所の透明な壁越しに「待っとるけんね」と言う母親、石田えりに主人公は何も言えない。
劇中、中国人マフィアが主人公にこう言う。
「ニポンの母親はダメね。でも父親はもっとダメ。」
密航して日本に来た少年を主人公が連れていったので、取り戻しに来た中国人マフィア。だがこの台詞は物語が進むにつれて次第に重みを増していく。それは一見温かい母親である、石田えりの冷酷さ故だ。一度は主人公を見捨てて出て行ったのだが、彼が今の自分に頼れると感じたら「一緒に住もう」と言い出し、主人公にとって異父の弟が手に負えなくなると「あんただけが頼り」と言い始める。弟の葬儀のシーンでは、死んだ息子がリセットされたかのような台詞を吐く。僕はただ怖い、と思った。これまで黙ってきた夫(中村嘉葎雄)は、そこで初めて妻を殴ろうとする。
全編北九州でロケーション撮影された映画。正直言うとそれがやたらと気になって筋に集中できなかったようにも思う。葬儀の場面に出てくる高田工作所の研修施設は以前仕事で使ったことがあったもんで、ついつい映像の”背景”に目がいってしまう。しかし、北九州出身の青山監督がここにこだわり続けるのも、やはり逃れられない故郷というつながりがあるから。流れ者の街のような描かれ方なれど、そこに人間の本音が見えてくる。「Helpless」や「ユリイカ」を見ていないとわからない箇所も多いようだ。最後の石田えりの”告白”が衝撃に聞こえないのはそのせい?。そういう意味ではちょっと消化不良。北九州出身の板谷由夏、宮崎あおいチャンも存在感があって素晴らしかった。