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キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)

2015-06-06 | 映画(は行)

■「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)/Birdman or (The Unexpected Virtue of Ignorance)」(2014年・アメリカ)

●2014年アカデミー賞 作品賞・監督賞・脚本賞・撮影賞
●2014年ゴールデングローブ賞 男優賞(コメディ/ミュージカル部門)・脚本賞
●2014年LA批評家協会賞 撮影賞

監督=アレハンドロ・G・イニャリトゥ
主演=マイケル・キートン ザック・ガリフィナーキス エドワード・ノートン エマ・ストーン ナオミ・ワッツ

 2014年アカデミー賞のノミネート作品は、アメリカの大手映画会社の作品が少なく、インディペンデント系の作品が多かった。大手が派手なアクション、CG、アメコミ原作にキャアキャア言っている中、独創的な試みや斬新な切り口、テーマに挑む映画はすっかりメジャー映画会社の手から離れてしまった。そんな象徴的な年にオスカーを制したのが本作「バードマン」だ。かつて"バードマン"という娯楽作品で一世を風靡した男優リーガン・トムソンが主人公。今や落ち目の彼は、レイモンド・カーヴァーの小説を自らの脚色、主演で舞台俳優として新境地に挑もうとしていた。ところが共演する男優がトラブルで降板。代わりにやって来たマイクとは衝突するし、映画俳優を一流と認めない女性新聞記者は上演前から酷評すると宣言するし、アシスタントをさせている娘サムとは不仲だし、とにかく平穏な心ではいられない。次第に追い詰められて、荒れていくリーガンは、かつて自分が演じたヒーロー、バードマンの幻影を見て、会話するようになる。そして迫る初日の舞台。挑戦は成功するのか、それとも・・・。

 とにかくこの映画に驚かされるのが、全編に漂う緊張感だ。それぞれの場面に切れ目がない、いや切れ目を感じさせない編集にある。映像のつながりからいえば、いわゆるワンシーンワンカットに見えるように作られている。最新の映像技術やカメラワーク、巧みな編集作業によるものだが、それが自然に展開していくから次にどう展開するのか目が離せない。そしてドラマー、アントニオ・サンチェスの手による音楽。即興で音楽をつけた?とも伝えられるが、その見事なハマリ具合は、緻密な計算の上でやってるとしか思えない。それでも型にはまらない、自由な印象を受ける。複雑なドラムパターンや緻密なプレイが、登場人物の心理を表現するなんてこと、これまでの映画ではあり得なかった。映画という表現の新たな次元を見せつけられたような気がする。

 そんな切れ目ない映像が、銀幕に映し出された物語をよりリアルなものに感じさせる。だがその一方で、唐突に挿入されるファンタジックな映像。バードマンが「DEATH NOTE」の死神リュークの様に現れて話しかけ、リーガンの体が宙を舞い、指を鳴らすと突然市街地で戦闘が起こる。その唐突さ。そして何事もなかったかのように現実に引き戻される。そのリアルとファンタジーの振り幅が、観ていてどうしてこんなに心地よいのだろう。中国のジャ・ジャンクー監督も映画「長江哀歌」で唐突なリアルとファンタジーのスイッチを試みている。ストーリーに関係なく、オブジェがロケットになって打ち上げられたり、男女の劇的な再会場面でビルが崩れ落ちたりと自由奔放な表現があった。だが、あれはとにかく意味が(というか監督の意図が)全く理解できなくて、それまでのシリアスな空気を何故壊す?と怒りさえ感じた。しかし「バードマン」のリアルとファンタジーの振り幅はもっと豪快だ。それでも僕らがこの映画に苛立ちを感じないのは、リアル部分のドラマの深みと、ファンタジー部分に込められたリーガンの気持ちが理解できるからに違いない。かつてのバードマンのように空を飛ぶリーガンは、現実逃避でもあり、かつての自分に自信を取り戻そうとする気持ちでもあり、アイデンティティの確認でもある。

 「人間には幻想が必要なんだ。空気と同じようにね。」とは「ウディ・アレンの影と霧」に出てくる台詞。同じように「映画には夢が必要なんだ」と僕は思う。現実の厳しさに思い悩むリーガンの姿やダメ親父っぷりを銀幕のこっち側で観ながら、僕はいつの間にかダメな自分をリーガンに重ねていた。物語の結末も確かに夢をくれるけれども、挿入されるファンタジックな映像にこそ僕は夢を与えられたように思う。80年代「スーパーマン」のキャッチコピーみたく「あなたも空を飛べる」なんて言う気はない。ダメ男が頑張る映画にもらう勇気こそが、日々を生きる僕らの夢かもしれない。それでいいじゃない。賛否が分かれる無言のラストシーンだが、エマ・ストーンの表情を僕は肯定的に捉えたい。個人的お気に入り女優、アンドレア・ライズボローがこの映画でもいい仕事。

映画『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』日本版予告編




コメント (2)
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