■「チャップリンからの贈りもの/La Rancon De La Gloire」(2014年・フランス)
監督=グザヴィエ・ボーヴォワ
主演=ブノワ・ポールヴールド ロシュディ・ゼム キアラ・マストロヤンニ ピーター・コヨーテ
チャップリンが亡くなったのは1977年のクリスマス。各局は追悼番組を次々に放送した。映画好きな父親がまだ当時珍しかったホームビデオに録画したチャップリンの「キッド」と「街の灯」は繰り返し家族で鑑賞した。翌年、地元の映画館で「黄金狂時代」と「モダンタイムス」のリバイバルがあり、母親が連れて行ってくれた。今思い起こせば、あのクリスマスを境に映画はうちの家族が全員で楽しむことができるものになったのだ。翌78年。チャップリンの遺体が盗まれるという事件が起こった。本作「チャップリンからの贈りもの」はその事件を元に撮られたヒューマンコメディである。
刑務所を出所したエディは、友人のオスマンと娘が住む家で一緒に暮らすことになる。暮らしは楽でなく、オスマンは妻の入院費の支払いもできずにいた。そんな時、チャーリー・チャップリンが亡くなったと報じられた。エディは大スターであるチャップリンの遺体を墓から盗み出し、遺族から身代金を要求しようともちかける。二人はろくな計画もなく、行き当たりばったりで柩を掘り出す。犯行は世間の知るところになるが、そこから二人は次々にトラブルに巻き込まれることに・・・。
「街の灯」の名場面がインサートされたり、エディがサーカスの道化師になったり、とチャップリン映画へのオマージュが見られるのは確かに嬉しい。社会的な弱者に向けられた温かい視線も確かにチャップリン映画に共通するところだ。チャップリンの秘書を演じたピーター・コヨーテのプロ意識や無表情な怖さが印象的。でもねぇ・・・どこか人情喜劇としては物足りなさも感じてしまう。ギリギリで生きている主人公たちの懸命さはわかるとしても、チャップリン映画にはそれ以上に貧しいながらも、そこに楽しみを見出している主人公たちの力強さがあった。それでも明日を信じて笑顔でいること。僕らは勇気づけられてきたんだ。チャップリン映画と比較してはいかんとは思う。だけど、ヨーロッパが今抱えている貧富の差や押し寄せる移民という現実が、僕らがこの映画を観る視点を冷ややかにしてしまっているのかもしれない。人情だけで救われるなんてことはできないかもしれない。でもこの映画を今撮ったのは、そんな時代の人情を思い出して欲しい、という思いがあるだろう。
この映画で何よりも素晴らしいのは、ミシェル・ルグランが担当した音楽。チャップリン作曲の「ライムライト」がところどころに挿入され、オーケストラによる劇伴からお得意のジャズまでヴァラエティに富んだアレンジで楽しませてくれる。個人的にはもっともっとチャップリン映画を引用して欲しかったなぁ。
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