むかーし、気まぐれで書いた短編小説めいた文章。
Fly Me To The Moon (In Other Words)
★
今日も残業。
ちょっとうんざりして壁の時計を眺めていたら、同僚のN美ちゃんから内線電話が入った。
「お疲れっ!。私帰るとこ。実はちょっと相談があるんだけど、今夜あいてない?」
あのコからのミッションなら仕方ない。
僕はその日の仕事を適当なところで切り上げた。
僕らは映画館が建ち並ぶ街の一角にある、小さなショットバーに行った。
おじいちゃんと呼んでいいくらいの優しそうなマスターがいる、8畳間程の小さな店。
既に数人の先客がいた。棚の上の小さなオーディオからサッチモが流れていた。
映画街の近くの店だけに、客の会話も映画の話が多い。
40前後と思われる男性が
「ところで「パールハーバー」どう思う?。」
と熱弁を振るっている。
「ねぇ、話に加わりたいんじゃないの?」
「いいよ別に。「パールハーバー」なんて「アルマゲドン」のスタッフだろう?。まともな真珠湾攻撃の映画のはずがないじゃん。」
「ふふふ。」
「何だよ。」
「だって、もう語ってるんだもん。」
僕はフェリーニの映画の名がついたカクテルを注文した。
きつくもなく甘くもないおいしいカクテルだった。
店内にはフランク・シナトラの ♪Strangers In The Night が流れ始めた。
★
今日も残業。
ちょっとうんざりして壁の時計を眺めていたら、同僚のN美ちゃんから内線電話が入った。
「お疲れっ!。私帰るとこ。実はちょっと相談があるんだけど、今夜あいてない?」
あのコからのミッションなら仕方ない。
僕はその日の仕事を適当なところで切り上げた。
僕らは映画館が建ち並ぶ街の一角にある、小さなショットバーに行った。
おじいちゃんと呼んでいいくらいの優しそうなマスターがいる、8畳間程の小さな店。
既に数人の先客がいた。棚の上の小さなオーディオからサッチモが流れていた。
映画街の近くの店だけに、客の会話も映画の話が多い。
40前後と思われる男性が
「ところで「パールハーバー」どう思う?。」
と熱弁を振るっている。
「ねぇ、話に加わりたいんじゃないの?」
「いいよ別に。「パールハーバー」なんて「アルマゲドン」のスタッフだろう?。まともな真珠湾攻撃の映画のはずがないじゃん。」
「ふふふ。」
「何だよ。」
「だって、もう語ってるんだもん。」
僕はフェリーニの映画の名がついたカクテルを注文した。
きつくもなく甘くもないおいしいカクテルだった。
店内にはフランク・シナトラの ♪Strangers In The Night が流れ始めた。
「それで、相談なんだけどね。」
彼女はつきあっていた彼氏と別れたらしい。
自分の何気ない一言が彼を傷つけてしまった、という。
「まぁお互い言葉が足りなかったんだろうけどね。」
僕は他人の恋愛に口を出すのは性に合わないが、彼女とはいい友達だ。
双方の気持ちを考えながら、僕ならどう思うか話をした。
しばらく話した後、
「・・・・ありがとうございましたっ!。」
彼女はカウンターに三つ指ついてそう言った。
「話したら気が楽になっちゃった。もう一杯飲んじゃおう!。」
少しだけ涙が浮かんでいたけど、その笑顔はドキッとする程素敵だった。
こんな彼女を悩ませた男のことを少し羨ましく思えた。
店には ♪Fly Me To The Moon が流れ始めた。
「「スペースカウボーイ」のエンディング知ってるかい?。この曲が流れて、いいラストでね・・・・」
さっきの「パールハーバー」演説の男性が話し始めた。
「あれはねぇ・・・」
カウンターの中のマスターも加わっている。
「フランク・シナトラって「マイウェイ」の人でしょ。おじさん趣味じゃない!。「スペースカウボーイ」もおじさん映画なんだ!」
と彼女は笑った。憎めない笑顔で。
店を出て見上げるときれいな月が出ていた。
僕は ♪Fly Me To The Moon を口ずさんでいた。
「おじさん趣味やめなよ。まだ若いんだからさぁ。でも私ももう少し素直になれればよかったのかな。」
そう言うと彼女は僕に合わせて最後のフレーズを口ずさんだ。
♪ in other words, please be true in other words, "I love you"
「何だよ。おじさん趣味とか言ってたくせに。」
「シナトラは父さんが好きだったの。だから歌えるのよ。言い換えれば”愛してるってこと”か。こんな風に言えたらいいのにね。」
彼女の隣を歩いている僕の頭の中でも、同じフレーズが繰り返されていた。