「真夜中の神話」 真保裕一 文春文庫
薬学の研究者晃子は、インドネシアに向かう途中飛行機事故にあう。
山奥の小さな村で奇跡的に助かった晃子は、ある少女の神秘的な歌声を聞き、脅威的な回復を見せる。
・・・と、こんな風にストーリーが始まります。
はじめのうち、どうも篠田節子を読んでいる気がして仕方なかった。
女性が主人公ということと、アジアが舞台、それと宗教というか土着信仰のようなものが絡んでいるあたり、でしょうか。
こういうジャンルは、彼女の独壇場なもので。
もともと、アニマルセラピー、特にイルカに関して研究を進めつつあった彼女が、推理したことによると、その少女の声は超音波を発しているのではないか・・・と。
それがどうも、人の体に作用し、奇跡的な癒し効果、回復力などをもたらすのではないかと。
もしかすると、世界の神々もこのような声の持ち主で、そのため、さまざまな奇跡を行うものとしてあがめられていったのではないか・・・というところまで想像が及ぶ。
そこまで行くとこれはもう、たとえばキリストへの冒涜。
神はそのままで神、奇跡を行う者であるのに、単に超音波を発生する人物だったなどとの解釈は許されない。
熱心な信者であればあるほど、そのように思うでしょう。
しかもその少女の声は、その超音波によりコウモリを呼び寄せたりするので、吸血鬼と誤解され、近くの村からは忌み嫌われた存在であったりする。
しかしまた、その奇跡の声を科学的に解明できれば、莫大な利益を生むことでもある。
と、さまざまな利害関係を含んだ思惑・人物が入り乱れ、なかなか壮大な追跡劇が始まります。
最期のほうは、さすが真保裕一のスペクタクルアクション。
また、吸血鬼伝説にまつわる薀蓄があったりするのも、興味深いです。
ただ、なんだか、舞台のインドネシア・アニマルセラピー・吸血鬼・・・、私たちの生活からはかなり遠いです。
それで、どうも、いまいち乗り切れなかったかな?という感も否めない。
猟奇殺人として、殺された二人が、どうしてそのような殺され方をしなければならなかったかというところに、あまり説得力がないようにも思いました。
ドラマとしてはOK。
ミステリとしてはやや難。
といったところでしょうか。
満足度 ★★★