映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「からくりからくさ」 梨木香歩

2007年10月06日 | 本(SF・ファンタジー)

「からくりからくさ」 梨木香歩 新潮文庫

う~む、私には、この本をうまく解説する力量がないと、感じ入っております。
梨木さんの描く世界を、どのように表現すればいいのか、
もう、「解説なんか当てにしないで、とにかく読んでみて」と、言う他ないような。
語り口はやさしいのですが、実に深い、と思います。
この本を読む前に、「ぐるりのこと」を読んでいてよかったと思いました。
いつも彼女が折に触れ考えていることが、そこここにちりばめられているのがよく分かります。

心を持つ不思議な人形・・・「りかさん」。
ほら、なんだか、そんなことを書いただけで陳腐な感じがしてしまうのだけれど、物語の中では、しっかりと位置づくのです。
このストーリーのメインとなる登場人物は、
このりかさんと、
染色(自然を生かした草木染め)をしている蓉子。
紬(つむぎ)を織る紀久。
インテリア用の織物を作る与希子。
そして、鍼灸の勉強をしているアメリカ人マーガレット。
この何らかの手仕事をする若い女性4人が、蓉子の亡き祖母の残した古い家に同居。
その同居中の出来事をつづっています。
ただの仲良し4人組というのではなくて、それぞれの独立した個性が際立っています。

この世界は、織物のようなもの。
一人一人がそれぞれの縦糸。
糸はずっと一本で他と交わることはない。けれど、離れてみると一体となって、さまざまな模様をつくりだしている。さしずめ、横糸は時間だろうか・・・。

そして、唐草模様。
連続するその模様も、この世のありようを描いている。
繰り返し、繰り返し・・・けれど、変化していく。
この続いていくことが大事で、その変化の継ぎ目も、変化前と変化後を意識させないように、というのが難しいところ。
ある日突然に変わるのではなく、微妙な節目を迎えながら、移り変わっていく。

人の世、世の移り変わり・・・以上が私なりに読み取ったことです。


唐草模様というのは実は蛇が原型というのですが・・・。
ちょっと不気味ですが、洋の東西を問わず、古来から蛇を神格化することはよくあるようですね。
トルコなどのキリムという毛織物の模様にもこの、蛇とも唐草模様ともつかない図案が使われているという・・・。
絹糸を作り出す蛾、
織物ともいえる巣を作る蜘蛛。
美しいとか、気味が悪いとかは勝手な人間の感想で、気が遠くなるくらい長い間、自然は淡々と営みを続けているだけなんですね。

この本を読んだ翌日の朝、我が家の玄関横の木に大きな蜘蛛が立派な巣を張っていました。
でもこの本を読んで、しかも「シャーロットのおくりもの」を見た後では、とても壊せませんでした・・・。
たしかに、美しい糸の模様でした・・・。

満足度★★★★