「りかさん」 梨木香歩 新潮文庫
この本を手にした時に、思わず順番を間違えた!と思ったのです。
先日読んだ「からくりからくさ」とつながりのある本。
ところが、それは「からくりからくさ」より、以前、蓉子がまだ子供の頃、初めておばあちゃんからお人形の「りかさん」を貰い受けた頃のことが書かれた本なのです。
だから、これは、先にこちらを読んだほうがよかったのかな?と、思ったわけです。
でも、作品の発表年代を見ると、「からくりからくさ」が平成11年5月。
「りかさん」は平成11年12月。
そして、この「りかさん」の文庫に収録してあるもう一篇、「ミケルの庭」はこの文庫のための書き下ろしで平成平成15年。
だからやはり、順番としてはこれでOK。
「からくりからくさ」を堪能してから、「ようこ」と「おばあちゃん」と「りかさん」の世界を改めてみてみましょう・・・ということです。
人形には人の想いが宿っていく・・・と、だから古い市松人形とか、フランス人形など、ちょっと怖い気がしたりするものですね。
私も幼い頃の思い出のお人形があって、それはまだ「リカちゃん」人形も発売になっていない(!)ころ、寝かせると目をとじる着せ替え人形でした。
「リカちゃん」ほどスマートでなく頭でっかち、ずんぐりむっくりの幼児体型。
でも、金髪に夢見る瞳。
そうだ、白いウェディングドレスを持っていたのではなかったっけ?
それから青いギンガムチェックのワンピースも。
母が毛糸で服を編んでくれたりもした。
今ほど、おもちゃが有り余っているというわけでもなかったので、結構長い間私のお友達だったはず。
・・それがいつから手元になくなってしまったのか、記憶にもありません。
この本を読んでいまさらながら胸が痛んでしまいました。
・・・そういえばうちの娘たちの「リカちゃん」だか「バービー」だかが納戸の奥にしまいこんであるはず。
おひな祭りにでも出してあげなければねえ・・・。
変にしみじみしてしまいました。
さて、この物語の圧巻は、アメリカから親善大使として日本に贈られた「青い目のお人形」の話です。
よく語り継がれている話ではありますが、太平洋戦争が始まると、
「敵国から送られた人形など焼き捨ててしまえ」、ということでほとんどの人形が焼かれてしまったという。
ようこは「りかさん」の力を借りて、人形たちの「記憶」をまるでスクリーンに映し出したように見ることができるのです。
焼けただれ、無残な姿で残っていた人形の残骸から、その記憶が呼び出されるのです。
・・・泣けます。
というか、それがまた、たまたま地下鉄の中でそのシーンにさしかかってしまいまして。
(われながらいろんなシチュエーションで本を読んでるなあ・・・と、思うのですが。)
おっと、こんなところで、涙を流してたら、いくらなんでもやばい!!と思い、あわてて本を閉じたしだい。
いくらなんでも、人形に八つ当たり、あまりにも大人気なく心が貧しい行為ですよね。
そこまで追い詰められた、そういう時代だったのだと・・・思うことにしましょう。
でも、難を逃れてちゃんと生き残った人形もいるのが救いです。
それから、もう一つの短篇「ミケルの庭」は、「からくりからくさ」を読んだ人には思わぬボーナスのような作品。
「からくりからくさ」のその後の話で、例の四人の新居に、マーガレットの娘「ミケル」もいる。
なんと、当のマーガレットは一人で中国に留学中で、残りの三人が赤ちゃんの面倒を見ている。
ここでは、まだ自己と周りの世界の認識がないミケルが、次第に外の世界を認識していく、そんな幼児の視点を描いた部分があります。
なるほど、「ぐるりのこと」を描く、梨木さんらしいストーリーだなあ・・・と思いました。
満足度(「からくりからくさ」を読んだ上で、ということで・・・)★★★★★