「螢坂」 北森 鴻 講談社文庫
ビア・バー「香菜里屋」シリーズ、第3弾です。
「ほろ苦くて美味しい、だからこそせつないミステリー」とは、この本の帯の言葉。
さすがプロですねえ。
ほろ苦くて美味しい、まさにビールのような味わいのシリーズ。
連作の短編集になっています。
最も印象に残るのはやはり表題の「螢坂」。
16年ぶりに、懐かしい三軒茶屋近辺を訪れた有坂。
たまたまふらりと入った、ビア・バーで思いがけず、美味しいビールと料理の歓迎を受ける。
16年前、カメラマンを目指し、中東へ行った彼だったが夢破れ、帰国。
その時別れた恋人は、別の人と結婚し、さらにはすでに亡くなってしまっている。
彼は失意のまま、これまで一人で生きてきた。
その彼が、このたび訪れたのはその彼女と最後に会った場所。
ちょうど蛍が飛び交っていて、ここは「螢坂」というのだと彼女に教えられたその場所。
ところがその話に、マスター工藤は何かひっかかりを覚える。あの場所は、「螢坂」などという名前ではない。
それに第一、水辺でもないし、こんな住宅街の中で、16年前とはいっても蛍などいるはずもない。
では、あの時確かに有坂が見た蛍はなんだったのか。
螢坂の真相は・・・?
今はもういない一人の女性の「思い」が工藤により再現されます。
まさにほろ苦いストーリー。
さて、この本の中で、工藤の友人香月がつぶやく気になるセリフ。
「あいつ(工藤)も待っているんですよ。ずっと昔から。」
まだ語られていない工藤の過去。
いつか明かされるのでしょうか。
この先も見逃せません。
では、今回の香菜里屋メニュー。
★夏野菜、根菜を千切りにして、油が多目のベーコン細切りとともに炒め、スープストックで仕上げたもの。
★白身とサーモンの山菜おこわ包み
★春たまねぎに蟹のすり身を詰めた揚げ物
★アサリとシメジの潮汁
★カマンベールチーズを丸ごと白ワインで煮込み、仕上げに醤油をたらして浅葱を散らした、チーズフォンデュ。軽くローストしたフランスパンにつけて。
★赤ワイン、醤油、香草を一緒に煮詰め、焦がしネギにショウガを少々、隠し味に蜂蜜。このたれに漬け込んだ手羽のつけ焼き。
★自家製レーズンバター。(レーズンは3日ほどラム酒につけて。)
★サーモンのソテー。きのことジンジャーのソースで。
★合鴨の焼き物。長ネギ添え。
★白身のしんじょをレンコンに詰め賽の目にして揚げたもの。赤唐辛子とナンプラーのソースで。
★殻付き牡蠣のワイン蒸し。ピーナツオイルをかけて。
★ローストビーフにホースラディッシュ仕立てのソース。
★トロをあぶり焼きにし、生ライスペーパーで巻いたもの。
★牛テールのスープで、京野菜とそばがきのポトフ。
★賽の目切りしたトマトと素揚げえびとイカを実山椒のソースで和えたもの。
★魚醤のパスタ。
★温泉卵に焙ったおくらをそえて。焦がしネギを漬け込んだタレで。
★フィッシュ&チップス。生ハムで包んで。
巻を追うごとに料理が凝ってくるようです。こんなお店がご近所にあったら、ほんとにいいですよね・・・。
満足度 ★★★★