映画と本の『たんぽぽ館』

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「最後の願い」 光原百合

2007年10月27日 | 本(ミステリ)

「最後の願い」光原百合 光文社文庫

劇団立ち上げのため、準備を進めている度会(わたらい)恭平。
役者、舞台美術、マネージャー、いろいろな役割の人材を集めなければならない。

さらりと伸ばした髪、
切れ長の目にすっきりととがったあご、
そこそこ好感の持てる顔立ち。
人懐っこく笑うと、いきなり顔がくしゃくしゃになってひどく三枚目めく。
この度会、しかし、実は恐ろしいほど洞察力に優れていて、
そんな時はぎょっとしてすくみあがってしまうほどに鋭いまなざしを見せる。

この洞察力・推理力のおかげで、いろいろな事件、なぞを解決し、
そのつど一人、また一人と劇団のメンバーが集まっていくという趣向です。

連作短篇の一話ごとに、メンバーが増えていくので、
それぞれの人柄、個性もたっぷり紹介され、
みんなが少しずつ顔なじみになっていくところが楽しい。

一作目、「花をちぎれない程・・・」で、冒頭から登場する西根響子は、
お金持ちのお嬢様の婚約パーティーに招かれ、一人毒づく。
こんなご大層なパーティーは、性に合わない・・・と。
このようなさっぱりサバサバした女性は好きです。
彼女は、劇作家としてスカウトされる。

次の「彼女の求めるものは・・・」では、二人の人材登場。
一人は吉井志朗。
几帳面で、マメな性格。
いたって人並みの感覚。
この点が買われて、劇団のマネージャーの役割に。
もう一人は、風見爽馬。
丸いサングラス。浅黒い肌。
癖のある髪は襟足まで伸びている。
季節感を無視したトレンチコートの肩から斜めに大きな黒いショルダーバッグをぶら下げ、
ジーンズのひざは抜け、足にはこれまた季節感無視の頑丈そうなブーツ。
ぬーぼーとした雰囲気ながら、そのサングラスをはずすと、
意外にも果てしない荒野のかなたを見つめるのにふさわしい深いまなざし。(!)

実に個性的で、好きですねえ。こういうの。
この人物は頭がいいんだか悪いんだか、
度会のことは「ドカイ」と呼ぶし、
劇団φ(ファイ)も、彼にかかれば劇団%(パーセント)。
いつも金欠で、
お店に入るのが惜しくて、自販機で買った缶ビールを公園で飲む。
実にユニークながら、彼もまた、常人にない鋭い洞察力を見せるのです。
彼の役割は俳優。


こんな風に、一人また一人、仲間が集まって来るのですが、
ある時は提示された謎が、その後の宿題のように、いくつか後の短編で解決を見たり、
・・・小説はこのように書くべき、というお手本のような作品です。

自分のデザイン事務所を持つ、著名なデザイナーである橘修伍。
その彼がなぜか破格の報酬で、舞台美術を引き受けることになってしまう顛末も、なかなか楽しいです。
ぼやきながら、大工仕事まで手伝っている彼。
つい、引き込まれてしまう、そんな魅力いっぱいの劇団φの皆さんです。

満足度★★★★★