「女王国の城」 有栖川有栖 東京創元社
うわー、有栖川有栖の新作で、江神シリーズですよ!
こればっかりは、高いとか何とかいっていられない。
単行本でもまよわずゲット。
著者後書きにもありますが、1989年デビュー作が「月光ゲーム」。
それから「孤島パズル」。
「双頭の悪魔」。
江神シリーズはここまで、まあトントンと進んだのですが、以後、ぱったりと途絶えていました。
・・というか、私はもう終わったのだと思っていた。
それがなんと、15年7ヶ月ぶりの新作!
ううう・・・。何か感慨深いものがあるではありませんか。
ない?・・・そりゃーね、新本格ミステリに興味も何もない方なら、そうですよね。
この前3作あたりは、私が新本格にはまったエポック的作品群の大きな一部です。
まあ、一番は島田荘司。
その後綾辻行人とこの有栖川有栖に続く。
何かあのころ、新本格ミステリの熱気が確かにありました。
その後ミステリは新進の作家が次々登場し、
そこからいろいろな方向へ広がりはみせたものの、
小粒になってしまったことは否めなく、
そしてまた、なんだか読者層をうんと若く設定しているようなところが目に付き始めた。
(私がいやなのは、あの新書判ミステリのコミック調のイラスト・・・。)
正直、近頃はミステリに向ける私の情熱も相当さめていました。
そこで、この本が出たのは、非常にうれしい!
十数年ぶりに親友とばったり出会った気分です。
さて、前置きばかり長くなりました。
登場するのは、これまでとおなじみの英都大学推理小説研究会の江神部長。
彼が抜群の推理力の持ち主でメインの探偵役。
また、いわばワトソンの役割なのが、作家志望のアリス。
そして、漫才コンビみたいな望月と織田。
最後に紅一点のマリア。
今回は江神部長が神倉という土地へいったまま帰ってこないことを心配し、皆で彼を探しに行くところから話が始まります。
そこは、最近急成長の宗教団体「人類協会」の聖地。
この宗教が祭っているのはなんとUFO。
教祖は、この神倉で宇宙人と遭遇し、宇宙人はまたの邂逅を約束して帰っていった。
「私たちは行いを正しくして、宇宙人の来訪を待ちましょう・・・」
と言うのが教義。
ところが、その聖地の「城」へ入ったのはいいけれど、お決まりで、発生する殺人事件。
なぜか教団は警察を呼ぶことを拒み、彼らはほとんど軟禁状態で、事件の謎を解く羽目になる。
この物語が学生である彼らを主人公とする都合上、この舞台は現在ではなく、前3作の少しあと。
具体的年代は出ていませんが、バブル経済の終焉。
日本経済の下り坂のはじめあたり、というところのようです。
ちょっと懐かしい時代の雰囲気もあったりして、それもまた、郷愁をかきたてる。
・・・別に回顧主義ではありません。
過去を舞台とするからには、それなりの雰囲気も出しましょう、という作者のサービスのようにも思います。
雪の山荘、嵐の孤島的、他所から隔絶された状況。
密室殺人。
アリバイ偽装。
洞窟。
宗教のこと・UFOのことなどの薀蓄。
時折さしはさまれる人生観。
そして、あらゆる手がかりを示した後の「読者への挑戦。」
さらには、まさかの真犯人。
すべてが「新本格ミステリ」の定石通りでありながら、決して使い古しでないアイデア。
そして、今回はちょっぴりアクションで奮闘するみなさん。
堪能しました。
満足度★★★★★
なんとなんと、このシリーズは5巻完結の予定なのだそうで・・・。
ということはもう一冊出る。
願わくば、また15年も先でないといいなあ・・・。