「常野物語/蒲公英草紙」 恩田 陸 集英社文庫
これは以前に読んだ「光の帝国」という本の続編なのですが、
何しろ、ずいぶん前のことなのでほとんど覚えていません。
ただ、ちょっと不思議な能力を持つ「常野(とこの)」の一族のお話・・・としか。
でもまあ、この本を読むためには、その程度のことで十分でした。
読んでいなくても、ぜんぜん問題ありません。
この本の語り手は、ご高齢と思われる女性、峰子。
彼女のうんと若い頃の故郷の村、人々を思い出して語っています。
それは、東北の農村。
村人から敬われ、慕われていた植村というお屋敷の末娘、聡子。
峰子は、体が弱くほとんど外に出歩けない聡子の話し相手として、お屋敷に通うことになります。
その聡子は、そのひ弱な体とは裏腹に、まぶしいほどのオーラを持つ人で、
誰もが彼女を慕い、力になりたいと思う。
また、そばにいるだけで癒されるような気がする。
そして、ほんのちょっぴり、不思議に先のことがわかる、そんな力があるようだ。
たんぽぽの咲く明るい野原にいるような、そんなほのぼのとして、平和なひととき。
けれどもそれは実に、つかの間のことだったのです。
ある日、村は突然の豪雨に襲われて・・・。
涙、涙でした。
まさか、このような結末とは・・・。
気がつけば、終戦のその日。
すっかりおばあさんになって、昔の物思いにふけっている峰子がいます。
この国は、「常野」の一族が守っていく価値のある国だろうか・・・そんな問いかけで終わるこのストーリー。
自分の子供の頃を思い浮かべるような、そんな懐かしさのある、物語です。
私のお気に入りは、聡子の兄、廣隆。
いつも、峰子にちょっかいを出していじめるこの少年。
峰子のことを彼だけ、「ねこ」と呼ぶのです。
しかし、この物語のわずかな期間にも成長して大人びていきます。
彼のいじめはもちろん、興味の裏返し。
このような、なんだかほほえましくもあるいじめっ子、
というのもちょっと懐かしい気がしました。
いま、はびこる集団の「いじめ」とは、異質のものです。
こんな少年を、近頃あまり見かけないなあ・・・。
満足度★★★★