「はなうた日和」 やまもと幸久 集英社文庫
なにやらほのぼのした短編集なのですが、
それぞれ、東急世田谷線沿線が舞台となっています。
解説によれば、二両編成で、三軒茶屋~下高井戸を17分で走るというローカル電車。
・・・おや、この話つい最近どこかでで読んだなあ、とおもったら、
そうそう、川本三郎著「旅先でビール」という本です。
住宅街を走っていて、個人の庭先を走っているような感じがある。
・・・とのことで、かすかに、そんな情景をTVでも見たことがあるような・・・。
「家政婦は見た!」のロケがこの沿線で行われているとのことで、それかもしれません。
人家の軒先をのどかに走る電車。
ちょっと乗ってみたい気がします。
さて、本題に戻りましょう。
冒頭の一篇は、「閣下のお出まし」。
小学5年生の一番くんは、
離婚して、ずっと別に暮らしているお父さんの家を訪ねます。
そこにいたのは、今お父さんが一緒に暮らしている相手の息子のハジメ。
一番と同じ年。
やけに一番を歓迎してくれて、そして、なぜか一番のことをとても良く知っている。
すごく気があってしまったのですが、最後に感情が爆発。
「塾にピアノにサッカーに、こんなにがんばっているのに、
何でいつもお父さんと一緒なのは君なのか」、
という一番に対して、
ハジメは、「自分がどんなにがんばっても、いつも一番と比べられる、
何をやってもかなわない」、と反論、
泣きながら本音を語り合ってなお通じ合う2人、いい感じです。
この、世田谷線沿線に住む人たちのいろいろなストーリー。
全部ばらばらかと思えば、先に登場した人物が、あとでまた、ちらりと出てきたりもして、楽しいのです。
私がもう一人気に入ったのは、犬の散歩代行をしている千倉さん。
彼は、どじで、すぐ連れている犬に逃げられてしまう。
別の短篇にまた登場したかと思えば、
このときは、なんと、お年寄りの散歩の付き添いの代行。
それがあろうことか、またそのおばあさんに逃げられてしまったりして。
思わず、笑っちゃいます。
どこにでもいる、ちょっと冴えない人たちのストーリーながら、なんだかほのぼのして小さな幸せを感じる。愛すべき短篇集です。
満足度★★★★