恋文の技術森見 登美彦ポプラ社このアイテムの詳細を見る |
森見登美彦氏の新刊。
文庫化など待つ気にならず、買ってしまいました。
この本はすべて、大学院生守田一郎が書く手紙からなっています。
守田は京都大学の大学院生なのですが、
能登の研究所に飛ばされ(?)、
来る日も来る日も研究の日々。
片田舎ゆえに遊ぶところもなく、
彼はひたすら京都の友人・先輩・家庭教師の教え子、妹、
そしてかつて同じクラブにいた、今駆け出し作家の森見登美彦に、
手紙を書き綴る。
名づけて「文通武者修行」。
彼の書いた膨大な量の手紙を読むうちに、
彼の友人たちやその状況、出来事が
くっきりと浮かび上がってくるのです。
しかし、誰もみなユニークで楽しい。
とくにこの、私史上最大厄介なお姉様こと大塚緋沙子は、すごい。
傍若無人に周囲を支配し君臨している。
誰も逆らえない・・・。
守田は、無謀にもこの大塚嬢に反撃を試みるのですが・・・。
まあ、こう言うと、ただ威張っているだけのようにも見えるのですが、
やや、シニカルに構え人を良く観ている。
人をいびるのが趣味で、
特にこの森田に対してはついやりすぎてしまう。
なんだか、すごく興味深い人物像なんですねえ・・・。
もっと突っ込んでみてみたい気がしました。
さてしかし、本当に手紙を書きたかった相手は、
ひそかに思いを寄せている伊吹さん。
守田は何とかこの胸のうちを伊吹さんに伝えたい、と恋文をしたためるのですが・・・。
この本の中に、未完のラブレターもごっそり収録されていますが、
どれも失敗作。
笑ってしまいます。
でも、実際こういうことってありますねえ・・・。
別にラブレターでなくても、
何とか伝えたい思いがあって、それを文章に綴ろうと思うのだけれど・・・、
考えれば考えるほど支離滅裂になってゆく。
良い文章を書こうと焦れば焦るほど、ヘンテコな文章に・・・。
本当は、良いラブレターを書くためには、
虚心を捨て、ありのままのことをありのままに、素直につづる。
それが一番。
ラストは、なかなかいい感じになりそうなところで終わりますが・・・、
やや、物足りない気も・・・。
それは守田だけの視点であるためかも知れません。
先の大塚さんのことと同様、
他の人物たちの、守田目線ではない、ナマの人物像にじかに触れたい。
・・・そういう欲求不満が少し残るのでした。
満足度★★★★☆