映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

グラン・トリノ

2009年04月28日 | クリント・イーストウッド
典型的頑固親父の下した決断

            * * * * * * * *

ウォルト・コワルスキー(クリント・イーストウッド)は
朝鮮戦争の帰還兵であり、元フォード車の自動車工。
今は年金暮らしですが、長年連れ添った妻を亡くしたところ。
しかし、これが典型的に頑固で気難しい。
気持ちの通じない二人の息子や、
おへそにピアスの孫も気に入らないし、
となりに越してきたアジア系移民の一家も気に入らない。
この固執ぶり、頑固ぶりには、思わず笑ってしまいます。
でも、日本でもよくいますよね。
こういう感じのお父さん。
何もかも面白くないと、いつも苦虫を噛み潰したような顔をしている。
多分奥さんが生きていた頃は、
奥さんがすべて仲立ちをして、うまく取り繕ってくれていたんでしょうね。
家族や、隣近所のお付き合い。
でも、その緩衝材がなくなってしまうと、どうしていいか分からない。
いきなり孤独に落ち込んでいってしまいます。

さて、隣家にいるのはアジア系モン族の一家。
タオというおとなしい少年と
スーという凛とした姉がいる。
タオは不良仲間に強制され、
ウォルトが一番大切にしている車、グラン・トリノを盗もうとするのですが、
ウォルトに見つかって失敗。
そんなことから、タオとウォルトのおかしな交流が始まります。

この姉のスーが良かった。
・・・近頃の映画はどれも女性の方がたくましい。
彼女が弟を見守る目、ウォルトの孤独を見抜く目、
愛も度胸もたっぷり。

時には隣家に、モン族の一族が大集合。
そんな場に招かれたウォルトは
次第に自分の家族よりも、モン族の皆に親しみを感じるようになっていくのです。

この映画はこの隣家との異文化コミュニケーションの部分が丁寧に描かれていて、
そこに、なんともいえないおかし味があります。
しかし、楽しんでばかりもいられなくなるのは、
タオに付きまとう不良たちの存在。


先日『暴力に暴力で対抗することのむなしさ』・・・などという話をしました。
この作品は、それよりもなお鮮やかに、そのことを訴えています。
血気はやるウォルトは、暴力に暴力で対抗してしまったために、
結局悲劇を大きくしてしまいました。
そのことを痛切に感じたからこその、最後の決断だったんですね。
カッコイイです。男ですねえ・・・。
そして・・・、泣けます。
この終り方はずるいよ~、と思ってしまいます。
泣けて、放心状態のうちにエンディングです。
なんというか、
まさに、映画ってこういう風にあるべき、という見本のように思えます。

ちょっと笑えて、スリルがあって、
かっこよくて、そして悲しい。
サービス満点過ぎるといえばそうなのですが、
テーマもしっかりしていて分かりやすい。
へんに小難しいものよりは、
誰が見ても良くわかって、楽しめる。
こういうのを目指すのは悪いことではないと思うんですね。

まことに充実した2時間を過ごせました。

クリント・イーストウッド監督、もちろん、今も渋くかっこいいですが、
若いお姿もまた見てみたくなってしまいました。
オードリーシリーズの次はクリント・イーストウッドと行きましょうか。
西部劇がみたいなあ・・・。

2008年/アメリカ/117分

監督・製作:クリント・イーストウッド
出演:クリント・イーストウッド、ビー・バン、アーニー・ハー、クリストファー・カーリー



「グラン・トリノ」日本版予告編 GRAN TORINO Trailer Japanese