深淵のガランス (文春文庫) 北森 鴻 文藝春秋 このアイテムの詳細を見る |
銀座の花師、佐月恭壱。
花屋じゃなくて花師というのが、ミソなんですね。
濃紺の作務衣に白足袋、雪駄履き。
腰の近くまで伸びた総髪。
肩にアーガイルチェックのケープ。
花の入った木桶を携えて・・・。
相当特異ですが、これが普段の佐月の花師としてのスタイル。
さて、この男のもう一つの顔は、絵画修復師。
古くなって汚れてしまった絵画をきれいにしたり、傷や破れなどを修復。
本文によりますと・・・
絵画修復とはミクロとマクロの同時作業。
あるいは凝視と俯瞰の完成の行使といえるかもしれない。
作業の直接対象は常にミクロの単位であり、
同時に全体の印象を損なうことなく仕事を完成させねばならない。
時には画材成分を化学分析したり、X線撮影したり
・・・ありとあらゆる分析をしつつ、
基の技法と同じく修復をしたりする。
実にデリケートかつセンスを要する作業です。
しかし、この業界は、常に危うい部分がある・・・。
というのは絵画といえば憑物の贋作なのですね。
まともな仕事をしているつもりなのに、
いつしか何らかのトラブルに巻き込まれていってしまう。
・・・そういうことを中心にしたストーリーです。
ということで、かなりこの美術界の専門用語なども出てきまして・・・。
そもそも、私はこの表題の「ガランス」が分からない。
何のことはない、茜いろのことだそうですが・・・。
ここに登場する人物たちの絵画にかけるそれぞれの熱い思い
・・・というのは、結構興味はあります。
・・・しかし、投機としての美術収集はちょっといただけないかな。
でも、美術界はこのような人々に支えられているわけなんですねえ・・・。
この本の最後に「凍月」という書き下ろし短篇がありまして、
若き日、ヨーロッパ帰りのキョウイチがそこにいます。
これがなんだかとても瑞々しい気がして、素敵でした。
今度は、花師の方をメインとしたストーリーなどもみてみたいです。
満足度★★★★☆