装置についで評価が高かったのが、衣装。そうか、そうか、ありがとう。だいぶ苦戦したものね、衣装さん。着物なんてみな同じだろ、って、違うんだよなぁ、柄から丈から着方から、時代によってすべて異なる。これは説経節の語りと違って、ビジュアルでチェックできるからね、当時の絵巻物とか、双紙の挿絵とかで。でも、これまでも何度も見て来たはずなんだけど、意外と細かい所まで目が届いていなかった。
例えば、おはしょり、ほれ、帯の下で折り返すだろ、あれ。最初、衣装さんはいつも通り、おはしょり入れて着付けしていた。明治以降、着物の着方としちゃお決まりだもの。だが、うーん、違うんんだよなぁ。とたんに役者が今風に変身しちまうんだ。帯もそうだ。やや胸高に締めると、これにも違和感だっぷり。一気に中世から離脱しちまう。当時の着物の丈ってどうなんだろう、とかいろいろ考えてみて、やっと気づいた!おはしょりは帯の下、じゃなくて帯の上をゆったりさせて取っていたんだ。それに帯も半幅。襟元もきっちり閉じずにゆったりと開く。おお、中世の女らしくなったじゃないか。
さらに働く女たちには腰巻風前掛け、これも雰囲気出てるよぉぉぉ。もちろん、着物の柄も、役によって細かく配慮してくれた。舞手の三輪様は艶やかに、本妻のうないさんは働き者らしく。の安寿には、下働き風にグレーの着物だが、柄が控えめながら愛らしい。後半、舞手となった安寿の早変わり3着も鮮やかなブルー、照明の映える薄いクリーム、そして、鎮魂のラストはほぼ白無垢、と、よくぞ集めてくれた。男たちの衣装だって、役柄に合わせ配慮が行き届いていた。
三輪様の舞い衣装も、最初は巫女さん風、白装束に赤い袴、烏帽子を付けて、などと、時代考証に忠実な?ものが準備されたが、これは、演出が却下。もっと自由に魅力的な白拍子を、って要求したら、見事、片肌脱ぎの斬新で優雅な姿を作り出してくれた。それと、説経節語り、ネットの画像なんかで見つけられる説経節語りはどうみても江戸時代以降のものなんだ。だったら新しく創造してよ、ってことで、いかにも芸人風身軽な中に華やかさもある見事な衣装!を創ってくれた。衣装さん二人のセンスの良さ!見込んだ通りだった。
好評のも一つの要因は男たちの被りものだろう。これも、気付く人は気付いたろうが、身分に応じ3種類を用意してくれた。国司様のご家来は立烏帽子、ほれ、半切りのきゅうりみたいなやつ。庶民の男たちは立烏帽子を折った折烏帽子。山人や下人は、布で作った揉烏帽子、って言うんだって、って具合だ。時代考証などあまり気にせず仕上げた舞台だが、犯罪者やを除けば、男たちは必ず頭を覆っていたって史実だけは忠実に守った。この3種の烏帽子は装置さんが巧みに工夫してくれた。本当のものは、和紙を何枚も張り合わせて強度を出したものだそうだが、なんと、農業被覆素材で見事代用してくれた。そのアイディア、凄い!
女たちの頭も難しかった。中世風の長い髪を持っている役者などごく一部、登場シーンの少ない国司の女房にはエクステを準備したが、短髪の者たちには、布で覆って、額の上で結わく髪覆いを付けて隠す工夫をしてくれた。これもなかなか味わいがあった。使う布も十分吟味されていて、安寿などとても愛らしかった。
ずいぶん苦労した衣装選びだったが、少ない手持ち、安い古着の買いあさり、そして、創意工夫で勝ち取った高評価、大したものだと思う。この豊富なアイディアとセンスの良さ、これも菜の花座の力ってことだぜ。