※2/4~3/4念のためR18(露骨な表現はありません)
双壁、暁に扉を開けて
第58話 双壁act.14―side story「陽はまた昇る」
眠りにつく太陽の光芒が、窓あふれて部屋を照らしだす。
ガラスの向こうに見上げる蒼い壁、その最高点は今日最後の光やどらせ黄金の紅に輝いていく。
あの場所に今朝、自分は死と生と夢を見た。その瞬間へ綺麗に笑いかけて英二は、静かにカーテンを閉じた。
「カーテン、閉めないでよ?夕焼け見ていたい、」
透明なテノールが笑って、英二は振向いた。
視線の先で白いバスローブに包まれて、ベッドの上から美しい笑顔が見つめてくれる。
湯に上気したまま桜色まばゆい頬に見惚れながら、英二は山の恋人に笑いかけた。
「開けっ放しだとセックスしてるとこ、見られるかもしれないよ?」
「じゃあ半分だけ開けといてよ、椅子とかある方なら平気だろ?山と空が何も見えないなんて、俺は落着かないね、」
底抜けに明るい目が笑って、ねだってくれる。
山と空を見ていたい、そんな願いは山っ子らしくて嬉しい。
笑って英二はカーテンを片方だけ開き、閉じたカーテン側のランプを灯した。
黄昏の光とランプのオレンジが融けあい、温かな光が部屋を充たしゆく。その光のなか英二はベッドに上がった。
…ぎしっ、
かすかな軋みが鳴って、雪白の貌に緊張が途惑う。
その途惑いに微笑んで肩ふれあわす、ふわり高雅な香が湯の熱とふれて濃やかに甘い。
いつもより華やぐ香を感じながら黒髪に指を伸ばし、からめた濡れ髪から微かな震えが伝わってしまう。
震えてしまう無垢ごと艶めく髪を掻き上げながら、透明な瞳を見つめて英二は笑いかけた。
「光一、気分は大丈夫?風呂のとき、緊張してたけど、」
さっき風呂で支度をほどこす間、光一の体は強張っていた。
誰かに体を触られることに馴れていない、そんな途惑う肢体が痛々しく愛しかった。
けれど緊張していると男同士の場合は体を傷つけかねない、そんな心配と見つめた真中で羞むよう笑ってくれた。
「そりゃね、緊張するよね?するの6年ぶり位なんだし、されるのって初めてなんだからね。お初でバージンなんだから、ね」
言っている内容は可愛いのに、言い方が軽妙でなんだか可笑しい。
その透明な声も美しいテノールなのに、言葉の選択が笑いを誘ってしまう。
こんな話し方には誘惑すら乱されがちで、可笑しくてつい英二は笑ってしまった。
「そうだな、緊張するの仕方ないな?ちゃんとリラックスさせられるよう、俺が頑張るよ。だから光一、あんまり変なこと言うなよ?」
「変なことって何さ?俺は単に喋ってるだけだね、」
不思議そうに首傾げて、言ってくれる。
この口の利き方では途中で笑いそうだな?そんな心配が周太と違い過ぎて、なんだか安心する。
いまバスローブ1枚だけまとった美貌の山っ子に、英二は綺麗に笑いかけた。
「光一、今から光一を抱くよ?これからの時間は俺は、光一だけを見てる。光一のことだけ考えて、想って、夢中になるよ。
光一を抱いている俺は、光一だけの俺だ。だから光一も俺のことだけ見つめて、考えてよ?お互いに唯ひとりになって、繋がりたいんだ」
率直な想いを告げて、無垢の瞳が幸せに微笑んだ。
透けるよう明るい清雅な眼差し見つめて、透明なテノールは言ってくれた。
「俺にとったら英二は、いつも唯ひとりだ。ツェルマットの原っぱでも言ったよね、俺は英二がいなかったら独りぼっちだ。
俺にとって山に登ることは生きることだ、そんな俺と一緒に山に登れるのは英二だけだね。だから俺には、英二が世界の全てだよ、」
光一には英二が世界の全て、これは英二がツェルマットの草地で告げた想いへの返事。
この返事が嬉しくて、素直に笑って英二は分身のような恋人に笑いかけた。
「ありがとう、光一。俺にも光一は世界の全てだ、生涯のアンザイレンパートナーで『血の契』で、俺の夢で、山の恋人だよ。
俺たちはもう血を交わして繋がってるけど、今から体ごと繋がるよ?すこしでも痛かったら言ってくれな、明日は散歩に行くんだろ?」
朝は散歩に行きたいと、さっき光一は言っていた。
その願いも叶えてあげたいな?そう見つめた真中で雪白の貌は幸せにほころんだ。
「うん、散歩は行きたいね。おまえに色んなとこ案内したいんだ、きれいな池とかいっぱいあるしさ。だから英二こそ、無理しないでね、」
無理しないでね?なんて何だか可笑しい。
ついまた笑ってしまいながら、英二は陽気な恋人に謝った。
「俺ってセックスはかなり強いよ?変態痴漢って前に光一にも言われたけど、その通りなんだ。もし疲れさせたら、ごめんな?」
「やっぱ、おまえって絶倫タイプなんだ?」
透明な瞳をひとつ瞬いて、秀麗な貌が首傾げる。
そのまま困ったよう溜息を吐いて、素直に思ったままを光一は言いだした。
「デカいもんね、おまえって。いつも風呂で見るたびに思ってたんだよね、アレ入れられたらキツイだろ、よく周太は平気だなって。
俺のこと壊さないでよね?俺、今日がほんと初めてで、バージンで臆病なんだからね?これは山に登る大事な体なんだ、労わってよね?」
デカいだのキツイだの、なんだかすごい言われようだな?
これからすることへのムードも何も関係ない言い方が可笑しくて、けれど言っている貌は艶めいて惹きこむ。
困ったよう伏せた長い睫はランプの光に瑞々しく、やわらかな陰翳には清楚な艶がたたずんでいる。
艶めく黒髪と雪白の肌はコントラストに映えて、なめらかな頬の桜いろが香らす馥郁に初々しい。
上品な面差しも優美で美女と言う方が似合う、そんな風情に見惚れながら英二は微笑んだ。
―ほんと美人なのに、言ってることがこれだもんな?
容貌と言っている言葉のアンバランスが可笑しい、こういう所が自分は好きだ。
そして愛しいと素直に想いながら英二は綺麗に笑いかけた。
「大切にするよ、俺にとっても光一の体は大事なんだ。俺を夢の場所に連れて行くのは光一だけだ、だから信じて、俺に任せてよ?」
任せてほしい、この自分に今、一夜を。
そんな願いと笑いかけた先、見つめる透明な瞳は笑ってくれた。
「信じてなきゃ俺、こんなカッコは晒さないよ。英二、大切に俺を気持ち良くしてね?」
またストレートな物言いに笑いたくなる。
こんなに陽気なベッドの始まりは初めてだ?なんだか嬉しくて英二は綺麗に笑った。
「うん、気持良くするよ。信じて全部、俺に任せて委ねていて?光一、」
名前を呼んで、唇を重ねあわす。
ふれあうキスの温もり確かめながら抱き寄せて、バスローブの紐を解いていく。
かすかな衣擦れと抜きとり床へ落としながら、そっとシーツの上に恋人を沈めこんだ。
唇をキスで披かせ深めていく、絡めあわす熱に花の香あまやかに濃くなっていく。
「…光一、花の香がする、」
そっと囁いて、あわい桜いろの耳元に唇ふれる。
ふれた肌かすかにふるえて、ゆっくり紅潮昇らせるのを見つめながら英二は、白い衿に指を掛けた。
あわい紅いろ艶めきだす首筋にキスを辿らせ、手を掛けた衿くつろがせ白い肩が露になる。
なめらかな雪白の肌に黄昏は輝いて、きらめく艶に英二は笑いかけた。
「きれいだ…光一の肌、太陽が映ってる、」
笑いかけ視線をあげて、見つめた透明な瞳がこちら見つめてくれる。
途惑いゆれる瞳が泣きそうで痛々しい、初めて見る貌に微笑んで目許にキスをした。
「光一、そんなに怯えないでよ?ふざけている時は、えっちしよって散々絡んできたくせに?」
「…本番と、遊んでるのは違うね…お、怯えてもゆるしてよ…」
途惑うまま見つめてくれる眼差しが、無垢の子供のまま困っている。
こんなに初心だなんて意外で、けれど納得しながら英二は白い額にキスをした。
「どんな光一も好きだよ、だから正直なままの貌して、感じていて?…光一、」
呼びかけた唇かさねて、あまやかな熱の香に酔わされる。
いつも光一をくるむ高雅な香は今、こまやかに熱く香たって肌からふれていく。
紅潮に昇りだす香ごと抱きしめて速い鼓動ふれる、雪白に艶めく胸元に唇ふれてバスローブを腕から抜き取った。
脱がされていく感触に細い肢体ふるえて瞳は怯える、けれど絡め獲った衣を床に落として英二はベッドに身を起こした。
「…ほんとに綺麗だ、光一、」
見おろした雪白まばゆい肌に、見惚れて笑いかける。
あわく桜いろ艶めく肌は黄昏に映えて、黒髪こぼす貌の瞳は透明に潤んでいる。
いまにも泣きそうで儚げな貌、見たことのない表情に彩られた美貌の色香に惑わされていく。
燻らされる花の香あまやかに沈むなか、英二は腰の紐を解いて肩からローブをすべらせ落とした。
「光一、俺の体温を感じてよ?…肌と肌でふれあって、感じて、」
囁いて抱きしめる、その腕に胸に熱はかすかに震えている。
どうして良いか解からない、そんな緊張すら艶めく貌に魅せられてしまう。
重ね合わせた素肌はやわらかに添い心地いい、うすい皮膚を透して速い鼓動がふれる。
重ねた胸に鼓動を聴きながら薄紅の唇キスして、端正な胸に唇よせて白いしなやかな腰を抱きしめる。
どこか光籠らせた肌ふれる唇、そのまま脚の付根にふれさせ淡い繁みへ触れて、桜いろの花芯を含んだ。
「…あっ、」
透明な声が細く啼いて、黄昏まばゆい腰がゆらめく。
逃げそうになる白い腰、けれど腕に抱きしめ捕えて含んだ熱を感覚に絡めとった。
「や、…っぁ、ぁ…え、いじ、」
呼んでくれる名前、とぎれそうで、けれど艶あざやかになる。
初めて聴く声が紡がれるテノール、その声をもっと聴きたくて熱深く絡まらす。
唇ふくんだ膨らみ硬くなるまま喘ぎはこぼれ、がくんと腰がふるえた。
「あっ、ぁ…ぁぁ…っ、」
艶めく叫びに花芯は脈うち、あまい潮が花の香と口に広がらす。
そのまま飲み下し舐めとっていく、舌の動きに白い腰がふるえて身悶える。
ひとつの動きにも敏感に応えてしまう肌と声に、酔わされるまま英二は笑いかけた。
「ごちそうさま、光一の甘くて旨かったよ、」
「…あ、いまの、飲んじゃっ、た、わけ?…」
あがった呼吸に途切れながら訊いてくれる、その瞳が潤んで涙ひとすじ零れだす。
初心だと言う言葉の通りに途惑い、けれど素直に反応してくれるのが愛しくなる。
「可愛いな、光一、」
想うままを笑いかけて、サイドテーブルのペットボトルに口付ける。
冷たいレモン水をひとくち飲み下して口を清め、微熱うかされたような恋人の貌を見つめた。
「光一は感じやすいな、いっぱい気持ちよくしてあげるよ…光一、」
笑いかけ唇を重ねさせ、うなじにキスをなぞらせて背中へと赤い花ひとつ刻む。
そんな愛撫にも雪白の肌はふるえて、切ないテノールが静かな部屋にこぼれていく。
もっと快楽を教えてあげたい、そんな願いのまま肌たどらせキスした腰をそっと抱き上げる。
腰の下、やわらかな白い肌の深くに秘める窄まりに唇つけて、そっとキスで解きだすと花の香あふれて透明な声が悶えた。
「あ、そ、んなこと…っ、ぁぁ、」
艶めく透明な声と、あまく清々しい香に魅せられるまま蕾に口づける。
ふれる襞をなぞり舐めとるごと強張りが解け、やわらいだ窄みに舌を挿しこんだ。
「っ、…え、じ…?ぁ、」
驚いたよう呼ばれた名前が、吐息に途切れる。
その声の続きを聴きたくて、石鹸と花の香らす蕾をゆっくり愛撫した。
「ぁ…っぅ、ん、ぁ、ぁ…」
響きだす切ない声、その愛しさにあわい繁みふれて花芯を掌に包みこむ。
ゆるやかに震わすよう動かせる、その掌ふくらかに硬くなるまま熱を蘇らせる。
熱くなるごと喘ぎの艶は深くなる、唇ふれる蕾ほどけだして雪白の肌も強ばりが緩まっていく。
「ぅ…ん、あ…き、もちい、い…えいじ…ぁ、」
あまくなっていく声、やわらかくなる肌と撓んでいく体。
力とけていく肢体は委ねられ息づきは甘い、その吐息に微笑んで英二は唇を離し、サイドテーブルに腕を伸ばした。
ペットボトルに唇つけて水を飲みこむ、そして箱からプラスチックの包みをとり口に咥えて封切らす。
取出した薄い膜を自分にまとわせながら、見つめた雪白の貌は微熱うるむよう微笑んでくれる。
与えられた感覚に眼差しは艶めいて、無垢なまま熱っぽい瞳へと英二は微笑んだ。
「色っぽくてどきどきするな、光一の目、」
「…おまえこそ、だね…変な気持になる、ね」
吐息まじり答える声が、含羞ごと艶やかに微笑んでいる。
その声が告げる意味を聴きたくて、ボトルをとりながら英二は笑いかけた。
「変な気持って、どんな?」
問いかけに、潤んだ瞳が困ったよう羞んでしまう。
桜いろ上気する肌をシーツに横たえたまま、透明な声は微笑んだ。
「…色々されたくなるね…もっと俺の体に触ってほしくなる、こんなの変だね…?」
「変じゃない、光一、」
言われた言葉に嬉しく笑って、見下ろす薄紅の唇にキス重ねた。
熱くなる香に唇ふれあいながら片腕に抱き寄せて、ボトルの液体を自分の芯に絡ませていく。
終えてボトルを戻し、濡らせた液体の絡んだ指をそっと恋人の蕾に挿しこんだ。
「…っ、」
キスのはざま吐息こぼれて、蕾の熱に指が絡まれる。
そのまま動かせ解き指をまた1つ挿しこんでいく、その度ごとキスから吐息が落ちる。
腕のなか細身の肢体は撓んで、遠慮がちな腕が背中に回されて、香と体温が触れていく。
指を動かすごと背の腕は縋りついて、添わせられる肌のなめらかさに幸せが熱い。
―愛しい、
心つぶやく本音に唇のキスは深く熱く花の香に噎せかえる、受け留める薄紅の唇からも熱は絡まりだす。
求めてキスに応えてくれるごと、やわらかに蕾ほどけだし緩まる緊張に指をそっと抜き取った。
その緩まりに尖端をあてがい腰を抱き寄せて、ほころびだす蕾に楔を挿しこんだ。
「…っあ、」
キスから透明な声が叫んで、白い顎が仰け反らす。
叫びに香あまく堕ちて吐息ふれる頬に熱い、悶えに眉が顰められ背中の掌が縋りつく。
濃く華やいでいく香のキスを解いて、薄紅のぼらす耳元に唇ふれて囁きを恋人に贈った。
「光一、いま少し繋がったよ…ゆっくり入れるから、痛かったら言って、」
「…ぁ、え、いじ…うれし、っ…」
応えてくれる声と、眼差しをこちらに向けてくれる。
泣きそうな瞳それでも熱に潤んで、顰めた眉は堪える貌に艶めいて紅潮があまい。
吐息こぼす唇は呼吸が浅い、瞳に涙にじみだす、それでも「痛い」とは言わない想いが愛しい。
―きっと痛いのに、初めてなら
風呂で温まらせながら、充分に解してはある。
それでも深く入れていくのは痛いはず、そう想うほど静かに慎重に挿し入れる。
深めるごと、なめらかな肌の奥で筋肉は強張らせ、暫くの後ゆるまっていく。
挿し入れ、止めてキスを交わし瞳を見つめ、耳を首筋を唇で愛し寛がす。
「光一のなか、温かいよ…すごく気持ちいい、」
「ほ、んと?…ね、俺ってイイ…っ?、」
「ほんとに気持いいよ…光一は気持ちいい?痛くない?」
「…ぅ、へ、いき…なんか変なかんじ、だね、…ぞくっ、ってな、て、」
途切れながら応えてくれる、あまい声。
いつもの明朗なトーンとも、飄々と笑う声とも違う、艶深い声はあまい。
この声をもっと悦ばせたい、もっと幸せな感覚に熱に攫ってしまいたい、その願いと体を深めていく。
深めるごと絡まりだす肌の熱に惹きこまれる、まだ初めての初々しい感触が犯したい欲になる。
けれど傷つけることだけはしたくなくて、そっと唇のキスふれあいながら繋がっていく。
「光一、痛くない?もう半分以上、入ってるよ…っ、気持いい、よ」
「いたくない、ね…ぁ、な、んか変だ、よ…ぁ、」
応えてくれる声に熱うかれだして、雪白の肌から緊張が溶けだし消えていく。
ゆっくりと馴染みだす二つの肌と熱、そのはざま薄い汗の雫と甘美な感覚が薄紅の唇こぼれだした。
「ぁ…な、に?…なんか気持い、ぁ、えいじ…っ、」
「そのまま感じて、光一?もうすぐ全部、繋がるから…っ、ぁ、」
囁いて体を熱へと沈め、感覚が背を奔りだす。
この感覚を追いたくて恋人を見る、その貌から眉の顰はあわくなっていく。
すこし披いた唇は濡れて、吐息は甘く深く色を変えて、ゆっくり英二の体を受入れだす。
「ん、っ…熱くて気持いい、え、いじ…もっと、入れてよね、つながりあいたい…ぁ、ぁっ…」
「光一、可愛いね…入れるよ、」
言葉に応えて深める熱に、長い脚が自然と開かれ受容れてくれる。
やわらかに花ひらく様な桜いろの肢体、その艶めかしい美貌と華やぎだす香に惹きこまれ、また深くする。
そうして真芯の全ては今、しなやかに艶めく肌の奥深くに受容れられ深く繋ぎあわされた。
「光一?いま、全部が入ったよ…」
「ほ、んと?…ぁ、ぁぁ…」
そっと揺らした腰に、透明な吐息こぼれだす。
ゆっくり揺らがす体のままに、応えて白い裸身はランプの光に艶めいた。
「ぁ、えいじ…っ、しあわせ…ぁぁ、…ぅ、っ、」
あまい声は透けるよう零れて、桜いろの頬に涙こぼれだす。
初めて魅せてくれる貌に見惚れて涙くちづけ、薄紅の唇かさねてキスに互いを繋ぐ。
抱きしめる体を深く添わせあい、長い脚を絡ませ右の掌をとり繋ぎあい、熱を交わし合う。
いつもザイルを繰りピッケルを握る掌、山を登っていくための手を互いに繋いで、深く想いごと融け合っていく。
「光一、好きだ…愛してる、俺を見て?…俺をかんじて?」
「…ぁ、お、れも…えいじ、」
呼びかけに、長い睫を披いて見つめてくれる。
熱に潤んだ瞳は無垢のまま艶めいて、英二の顔を映して幸せに微笑んだ。
「愛してる、英二…俺のアンザイレンパートナー、ずっと…、っ…」
涙ひとつ零し見つめて、そっと回した腕で抱きしめてくれる。
快楽に眉顰めながら顔を近寄せ、唇を重ねてキスをして、花の香の熱ふれあう。
そのキスの香と想いに微笑んで、唯ひとりのアイザイレンパートナーを英二は深く抱きしめた。
「ずっと愛してる…光一、唯ひとりの俺のアイザイレンパートナー、ずっと護って支えるよ…光一、」
呼びかけた名前に薄紅の唇が微笑んでくれる、その微笑をキスで繋ぎとめる。
交わす接吻けに見つめあう眼差し愛しいままに、視線に絡めて惹きとめ、結びあう。
ずっと憧れていた背中を抱きしめ、この手を山に導く掌を繋いで、夢を共に想う心を重ね合わす。
―ずっと隣で夢を駈けたい、抱きしめて支えて…最高峰へ生きていたい
想う本音が体を結ばせ、温もりごと自分のものだと抱きしめる。
その本音のままに見つめ合い、快楽を交わし合いながら心ごと、夢への契は山の夜に結ばれる。
あわい光ふれて、瞳が開かれていく。
眠りの残滓にゆれる意識、その視界に蒼い山影が映る。
ガラス窓を透かせる黎明の光、まだ昇らない太陽に佇んだアイガーは蒼い。
「…きれいだな、」
そっと微笑んで意識が目覚める、そして気づいた空気に英二は振向いた。
見つめた隣には高雅な香だけ遺されて、恋人はいない。
「光一?」
呼んだ名前に、応える声は無い。
ふれたシーツの波には香があまく、微かな温もりが掌にふれてくる。
起きあがり見渡す部屋に気配も見えない、その様子にベッドから降り浴室の扉を開く。
開かれた扉から、かすかな湯気とあまい香は頬を撫でて、けれど雪白しなやかな体は無かった。
「…どこに?」
呟いて、そのまま英二はシャワーの栓を開いた。
頭から冷水を被り肌を水滴が弾く、流れる冷たさに肌から意識がクリアになる。
ほっと息吐いて栓を閉めて浴室を出ると、タオルに水滴を拭いながらチェストの前に立ち、ふと英二は首を傾げた。
「…昨日のシャツが無い、」
昨日、下山して汗を流してから着替えた、白いシャツが無い。
光一と浴室に入るまで着ていたシャツは畳んでチェストの上に置いた、それが無い。
その代わりに光一が来ていたストライプのシャツは残され、けれど細みのパンツは無い。
どういうことだろう?考えながら手早くブルーシャツとカーゴパンツを着、合鍵を首にかけクライマーウォッチを左手に嵌める。
デスクから財布と携帯電話をポケットに入れ部屋の鍵を手にとったとき、もう1つの鍵が無いことに気がついた。
「どこまで?」
呟いてデスクを見直すと、光一の携帯電話も財布も置いたままになっている。
それも携えパーカーを掴んで、静かに扉を開き廊下へ出ると鍵を掛けた。
…かたん、
ちいさな音に施錠され、静かな廊下を見渡す。
まだ眠りの深い時間、誰もいない廊下を音も無く歩く衿元ふっと香が昇る。
いつも馴れてきた花と似た香、それが今朝は自分の肌深くから残り香らす。
―昨夜は現実の夢なんだ、
そっと香に夜の夢を想いながら、階段に着き下りへ足を踏み出す。
その吹きぬけを、ほのかに響いてくる音に足が止められた。
―ピアノだ、
まだ眠りの早朝、けれどピアノが聴こえてくる。
高く低く歌う音、そのトーンに懐かしさを見て踵を返し、階段を昇り始めた。
昇っていく階段の向こう、歩を進めるごとピアノは静かに響いて、旋律が近くなる。
その旋律に微かな声が和しだす、その透明なテノールが謳いあげる言葉が、途切れながら聞えだす。
……
君を想う…
奏であう言葉……君が傍に居るだけでいい
微笑んだ瞳を失くさないため…見えない夜も……君を包む
それは僕の強く変わらぬ誓い……愛する…
明日へ向かう喜びは 真実だから
The love to you is alive in me …… for love.
You are aside of me … every day
……
日本語と英語まじりの歌詞は、聴き馴染んでいる。
それ以上に謳う声を知っている、その声を辿って足音も無いまま階を昇っていく。
そして辿り着いた最上階、ホールいっぱいの窓にモルゲンロートは輝き、グランドピアノの木肌を艶めかせた。
いま夜が拓かれていく光、この暁の静謐に透っていく声は囁くよう優しく、きらめく光のなかを謳う。
……
残された哀しい記憶さえ そっと 君はやわらげてくれるよ
はしゃぐように懐いた やわらかな風に吹かれて 靡く、
あざやかな君が 僕を奪う
季節は色を変えて、幾度廻ろうとも この気持ちは枯れない花のように
夢なら夢のままでかまわない 愛する輝きにあふれ胸を染める
いつまでも君を想い…
……
グランドピアノの向こうから透明なテノールが静かに歌う。
アイガーの曙光に黒髪はゆれ、艶やかな髪のした雪白の横顔が謳っている。
その白いシャツ姿に微笑んで、静かに歩み寄ると恋人を背中から抱きしめた。
「この歌、好きだよ…ピアノも歌も、光一のこと本当に大好きだ、」
囁くように想いを告げて抱きしめる腕に、そっと白い手を添えてくれる。
さらり黒髪ゆれて雪白の貌が見上げ、透明な瞳が幸せに微笑んだ。
「良かった、俺のこと朝になっても好きなんだね?」
「好きに決まってるだろ、」
即答して抱きしめたまま、白い頬にキスして唇にくちづける。
ふれる花の香があまく優しい、その温もりと香にほっとして英二は恋人に笑いかけた。
「好きじゃなかったら、昨夜みたいなことは出来ないだろ?どうして光一、そんなこと言う?」
どうして言うのだろう?
そう目で訊いた先で、まばゆい笑顔ほころばせ答えてくれた。
「昨夜のコト、ほんと幸せだったからね。夢を見たのかなって思ったんだ、でも、現実だったんだね?」
「現実だよ、全部。ほら、」
答えて英二は、自分の衿に指をひっかけ少し寛げた。
覗かせた首筋と肩口に薄紅の痕がある、その花びらと似た痣に光一は笑ってくれた。
「それって俺のキスマークだね?肩のとこは記憶あるけど、首のとこって寝惚けたかね、」
可笑しそうに幸せな笑顔を咲かせてくれる。
その笑顔を暁が照らしだして、うかびあがった貌に英二は息を呑んだ。
―きれいだ、本当に
透明に艶やかな肌は澄みわたり、無垢の瞳きらめいて笑う。
前と同じよう底抜けに明るい目、そこに深い艶と幸福まばゆく輝いている。
生来の美貌に今、内から光を照らすよう明るんで眩しいほど、光一は美しくなった。
こんなふうに一夜で変った姿に驚きながら素直に嬉しくて、幸せで、そして誇らしい。
「光一、すごく別嬪だよ?いつもの倍以上にさ、」
想い素直に笑って、薄紅の唇にキスをする。
ふれるだけで離れるキス、けれど幸せに笑って透明な声は言ってくれた。
「ありがとね、だったら英二のお蔭だよ?昨夜が幸せだったから、ね、」
綺麗な笑顔みせて、白い手を伸ばし唇ふれてくれる。
花の香にキス交わして微笑むと、しなやかな指は白と黒の鍵盤と遊ぶよう奏でだす。
そして透明なテノールは静かに響き、流暢な英語で旋律を歌い始めた。
……
I'll be your dream I'll be your wish I'll be your fantasy I'll be your hope I'll be your love
Be everything that you need. I'll love you more with every breath Truly, madly, deeply, do
I will be strong I will be faithful
‘cause I am counting on A new beginning A reason for living A deeper meaning
I want to stand with you on a mountain…I want to lay like this forever
…
Then make you want to cry The tears of joy for all the pleasure and the certainty
That we're surrounded by the comfort and protection of The highest powers In lonely hours The tears devour you
I want to stand with you on a mountain…I want to lay like this forever
…
Oh, can you see it baby? You don't have to close your eyes
'Cause it's standing right here before you All that you need will surely come
…
I'll love you more with every breath Truly, madly, deeply, do
I want to stand with you on a mountain…I want to lay like this forever
……
美しい音と声の響きあいに、記憶が幾つも目覚めだす。
周太と聴いたIpodの記憶たち、光一と四駆で聴きながら結んだ約束。
あのときピアノコピーを自分はねだった、その約束の通りに光一は今ピアノと歌ってくれた。
「ありがとう、光一。リクエストに応えてくれて、」
嬉しくて笑いかけた先、雪白の貌は幸せに微笑んだ。
鍵盤にフェルトのカバーをかけて蓋を閉じる、そして立ち上がると愉しげに笑ってくれた。
「じゃ、今度は俺のリクエストに応えてよね?朝飯を食ったら朝の散歩して、酒屋に行くよ?それから、」
言いかけて、けれど恥ずかしげに微笑んだ唇は閉じられる。
それでも言いたいことは伝わった、その伝心に英二は綺麗に笑いかけた。
「一日中、酒を呑みながら光一のこと抱え込むよ、」
答えに雪白の貌が笑ってくれる、その幸せそうな瞳が明るんで優しい。
この笑顔を今日は見ていたい、そんな想いと英二は訊きたかったことに微笑んだ。
「光一、どうして俺のシャツを着たんだ?」
問いかけに透明な瞳はそっと睫を伏せて、頬にあわく赤色がさす。
綺麗な含羞を魅せながら、ためらいがちに薄紅の唇が披かれた。
「おまえの気配、感じたくて、ね。勝手に着て、嫌だった?」
「なんか嬉しいよ、そういうの、」
想ったままを口にして、英二は綺麗に笑いかけた。
その笑顔に微笑んで、そのまま遠慮がちに光一はねだってくれた。
「あのさ、嫌じゃなかったらこのシャツ、もらっちゃダメ?…代わりに好きなの、弁償するからさ、」
自分が着ていた物を欲しがってくれる、その想いに帰国後の現実が起きあがる。
昨夜が初めてだった光一の心と体の願いが切ない、そして愛しさに英二は頷いた。
「いいよ、あげる。そこの服屋で選んでもいい?」
「うん、いいよ。ありがとね、」
ほっとしたよう笑って、そっと白い手が衿元を直した。
そんな様子も言ってくれた言葉も無垢がまばゆい、綺麗で見惚れながら英二は笑いかけた。
「この窓ってテラスに出れるんだろ、出てみようよ?」
「うん、イイね。アイガーでかく見えるし、」
笑って踵を返し並んで歩いてくれる、その肩に英二は持ってきたパーカーを羽織らせた。
たぶん初めての夜に不慣れな体は疲れただろう、そんな時に冷えさせたくはない。
そんな想いの英二へと、底抜けに明るい瞳は嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとね、英二。俺の体、大切にしてくれて。昨夜も今も、ね」
「約束は守るよ?」
笑って答えながら窓へと歩く隣、並んで歩きながら楽しげに笑う。
こうして共に歩いて外へ行く、それがいつの間にか「普通」に自分たちはなった。
けれどこの普通すら、少なくとも1ヶ月間は離れてしまうことになる。その現実が今、殊更に寂しい。
―抱き合ったからだ、昨夜…ひとつに結ばれたから離れるのが辛くなる
近づいて、融け合った記憶は幸せが甘く温かい。
けれど幸せすぎる記憶は引き離されるとき、その温もりの分だけ傷みは鋭い。
この傷みごと自分は覚悟して昨夜を選んだ、だから傷みの強さだけ誇りも心も、きっと強くなる。
この幸せを愛しいと想う分だけ傷む、その傷みは愛しい分だけ苦しくて、愛しさの分だけ護りたくて強く力を培っていく。
―そうやって護れば良い、光一のことも周太のことも
ふたりは自分の大切な「唯ひとり」たち。
それは比べることなど難しい、似ているけれど正反対の想いに愛しているから。
そんな2人と離れてしまう日が迫る、明日の帰国を迎えたら8月一日はすぐ訪れてしまう。
そうなれば自分と光一の間には「部下と上司」という肩書が挟まって、隔たりは生涯ずっと続いていく。
けれど、自分たちは「山」に行ける、それは生涯変ること無いアンザイレンパートナーに誓える。
人間の範疇を遠く離れた蒼穹の点、冷厳が支配する生死の境でお互いを見つめ合える。
アイガー北壁の頂上と同じに援けあって、マッターホルンの天辺のよう笑ってキスを交わせばいい。
それは自分にとって幸せだ、そんな想いに山の恋人へ微笑んで窓を開きテラスへ出ると、風が靡いた。
ふっと吹きこむ氷河の風がシャツを透かし冷たく触れて、衿元から高雅な残り香を昇らす。
そして見上げたアイガーは曙光を映し、頂上雪田は輝いた。
「あの場所が、光ってるね、」
ため息吐くようテノールが言って、そっと白い手が腕を掴んでくれる。
いまモルゲンロート輝く頂上雪田で昨日、北壁が捕えた風に自分は斃され滑落しかけた。
あの瞬間の選択と記憶に微笑んで、英二は腕を掴んでくれる手に掌を重ねながら綺麗に笑いかけた。
「きれいだな、あの場所も、」
告げた言葉に無垢な瞳が見上げてくれる。
透けるような眼差しは泣きそうで、けれどテノールの声は笑ってくれた。
「おまえもタフだね、危なかった場所をそう言えるなんてさ?そういうトコほんと好きだよ、」
笑いながらも言ってくれる声に、光一の不安が解かる。
その不安を拭ってあげたい、そんな想いと見つめた雪白の貌にモルゲンロートの薔薇色が映えていく。
いま山と太陽の光を映していく頬に、そっとキスをして英二は綺麗に笑った。
「光一、俺は生きて約束を守るよ?約束は全部、絶対に叶える。光一との約束も周太との約束も、全部だ。だから当分死ねないよ、」
「うん、守ってね」
短く頷いて笑ってくれる、その無垢がまぶしく愛おしい。
この笑顔をずっと見ていたい、そして遥かな東で待ってくれる笑顔も護りたい。
そんな願いにまた1つ覚悟を見つめながら、今、暁に目覚めていく偉大な壁へと英二は微笑んだ。
【歌詞引用:L’Arc~en~Ciel「叙情詩」savage garden「Truly, madly, deeply」】
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