萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

秋夜日記:光輝の一瞬

2012-11-04 19:49:18 | 雑談
光と翳、織りなす



こんばんわ、青空まばゆい日曜だった関東方面です。
初めて三頭山@奥多摩へ行ってみました、その一瞬↑のワンシーンです。

あわく金いろ透ける楓と、光おどらす樅の黒緑。
秋の午後は光線が透明で、こんな感じに撮れやすいんですよね。
暁から9時頃までと、遅めの午後15時から16時半位までは、太陽の斜度がイイ感じで。

って、午後の遅い時間に入山したら、ホントは駄目ですから。笑
その辺は時間を計りながら撮影して、16時過ぎには無事に登山口まで戻りました。

そんなこんなで帰ってきて、このあと本日分を書いていきます。
遅くなりますが、よかったら読んでやってください。

取り急ぎ、
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早朝日記:夏の名残

2012-11-04 08:24:55 | 雑談
空、名残の季



おはようございます、木洩陽が金色がかった今朝です。
この写真は10月上旬の空、まだ夏の空の気配ですね。

昨夜、第58話「双壁1」草稿UPしてあります、また加筆校正する予定です。
青梅署単身寮の食堂シーンからスタート、マッターホルンとアイガーでの登攀訓練を控えた宮田の朝です。

今朝は朝一の短編はちょっと出来ず。
夜にまたUPします、楽しみにして下さる方いらしたらすみません。

どうぞ良い週末でありますように、
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第58話 双壁act.1―side story「陽はまた昇る」

2012-11-04 01:33:35 | 陽はまた昇るside story
夢の場所、その扉の前に



第58話 双壁act.1―side story「陽はまた昇る」

食堂の窓、雨雲の向こうは青空まばゆい。
浴室で水をかぶる頃に止んだ雨は、もう雲も晴れていく。
このまま晴れたら蒸し暑くなるだろう、それでも足元の泥濘が消えてくれるなら有り難い。
今日も良い天気になるだろうな?そんな予想に微笑んだ頬を、隣から白い指に小突かれた。

「み・や・た、今、俺が言ったコト聴いてた?」

楽しげなテノールに笑いかけられて、英二は振り向いた。
丼飯を抱える食卓には、クリアケースに入れた登山図が広げられている。
そこに描かれるルートが嬉しくて、ワイシャツ姿で英二は綺麗に笑った。

「うん、マッターホルンとアイガーの目標タイムについてだろ?」
「なに、目は外向いてても、耳だけはコッチ向いてたんだね?ホントおまえって器用だね、」

呆れたよう笑って制服の腕を動かし、光一は丼飯をかきこんだ。
その前で藤岡も汁椀を飲み干して、素直な賞賛に笑いかけてくれた。

「いきなり宮田、三大北壁を2つだもんな。すげえよなあ、今のとこ適性テストって全部OKなんだろ?」

マッターホルンは標高4,478m、アイガーは3,975m。
この三大北壁に挙げられる2つを今回、続けて登攀訓練する予定になっている。
このスケジュールに登山歴1年足らずの自分が挑む、それを無謀と思う人も多いだろうな?
そんな考え思いながら英二は、人の好い同期に笑いかけた。

「うん、今日の心肺運動負荷試験が最終だから、これが大丈夫なら2つ登るよ。だから午後は俺、新宿にいる、」
「東京医科大で試験だっけ、じゃあ湯原とも会ってくる?」

からっと笑いながら幸せな予想を訊いてくれる。
今日被験する東京医科大学は新宿にあり、周太が勤務する新宿署にも当然近い。
周太の勤務地を知る藤岡なら予想もするだろう、この予想に英二は正直なまま綺麗に笑った。

「うん、昼飯一緒して来るよ。12時半までなら飯食っても大丈夫だし、周太も今日は当番勤務だから時間作れてさ、」

心肺運動負荷試験は被験の2時間前から食事は出来ない、けれど15時スタートだから昼飯は摂れる。
ちょうど周太も午前の射撃特練と勤務の狭間に時間が作れた、それで今日は逢うことが出来る。
この幸運な隙間の時間が嬉しい、嬉しくて微笑んだ英二に藤岡も笑ってくれた。

「そっか、良かったなあ。やっぱ行く前に会いたいよな、」
「いつでも俺は逢いたいよ?」

正直に笑って英二は最後の一口を食べ終え、箸を置いて水のコップを口にした。
この後に負荷試験を控えているからカフェイン類も避ける、だから茶は呑まない。
これと同じに今朝は、吉村医師のコーヒーの相伴も出来ないな?
そう考えながら少し温くなった水を飲みこむと、隣から光一が尋ねてくれた。

「試験の後って車の手続きしてくるんだよね、帰りは何時位になる予定?」
「そうだな、試験が2時間だから終わると17時だろ?その後に手続きとかするから、晩飯すませて来ると思う、」

本当は、晩飯は必ず済ませる予定でいる。
その「予定」の相手も決まっているけれど、ちょっと言えない。
この小さな隠匿にすこし困りながらも微笑んだ英二に、パートナーは素直に笑ってくれた。

「じゃ、帰ってきたら部屋行くね。試験結果によってはスケジュールちょっといじるから、」
「解かった、風呂出てからでいい?」
「もちろんだね、ノンビリで打ち合わせよ?」

今夜の予定に笑い合う向かい、藤岡も食べ終えて丼と箸を膳に置いた。
そして湯呑を手にしながら人の好い貌で、寂しそうでも笑ってくれた。

「この遠征訓練から戻ってきて、ちょっとしたら国村は異動だろ?おまえら帰ってきたら、いつものとこで飲みたいな、」

光一の第七機動隊への異動は、卒業配置以来ずっと藤岡も仲良くしてきたから当然、寂しいだろう。
そんな貌した同年の後輩へ、底抜けに明るい目は愉しげに笑いかけた。

「うん、河原に行こっかね。夏の夕涼みもイイよ、あそこはさ、」

答える光一も、愉しげでも幾らかの寂寥を含んでしまう。
本当は気難しい光一にとって、同じ齢で同じ山ヤな上に屈託ない藤岡は話しやすく、数少ない気楽な友達でいる。
きっと光一も藤岡と離れることは寂しいだろうな?そんな想いと水を飲んだ向かい、からり人の好い貌は朗らかに笑った。

「夕涼みってなんか風流だなあ。あそこで飲めるのって、もう暫くないかもなって思ってさ、」
「異動しても休みは家に帰ってくるからね、そしたらまた、あそこで飲も?」
「おう、誘ってくれな?そのときは国村、小隊長だけどさ。仕事じゃない時は、タメぐちで喋って平気?」
「もちろんだね、プライベートで敬語とか遣われたら、堅っ苦しくてやってらんないね、」

笑い合う2人の会話を聴きながら、英二はコップに水を注いだ。
8月一日異動の光一について、もう青梅署山岳救助隊では公表された。
けれど英二の9月異動は8月一日に公表される為に、藤岡はまだ知らない。

―また寂しい想い、させることになるだろうな?

いつか藤岡も第七機動隊に一度は異動するだろう、それでも親しい同年の3人組で最後に残ることになる。
序列社会でもある警察組織ではこうした気楽な仲は貴重になる、それが日常的にある日々が終わってしまう。
そのことは藤岡には寂しくて当たり前だろう、けれど明るくて人懐っこい藤岡だから大丈夫だろうな?
そんな想い佇んだ向かいから、何げない言葉に訊いてきた。

「そういえばさ?内山のヤツ、先週末の講習会に出たんだってな。昨夜、電話で言ってたよ、」

言葉に鼓動一拍、変な調子に引っ叩かれた。

―なんで藤岡って、いつも変にタイミング良いんだ?

ちょっと言えない「晩飯の予定の相手」を図星に刺された。
どうしてか藤岡は無意識に勘が良いらしい、いつも見透かされるようで脅かされる。
今回は口に何も入っていなくて良かった、また噴き出すか噎せるかして大変なところだった。
ほっと安堵の溜息に自分で可笑しい、こんな狼狽える今に笑った英二の隣で、テノールの声が悪戯っ子に微笑んだ。

「ふうん?東大くん、この間も藤岡に電話してたよね、」
「同じ班だったしな、元からよく話すけどさ。なんか最近、よく電話くれるんだよなあ?昇進試験のことが多いんだけどさ、」

ちょっと首傾げながら茶を啜りこんで、呑気に藤岡は笑っている。
いつも通りの人の好い笑顔に光一もいつものよう飄々と笑った。

「へえ?やっぱりエリートくんは昇進が大事なんだね、」
「あいつ、初任科教養の時から出世してやるって言ってたからなあ?でも、その件で俺と話しても参考も無いと思うけどさ?」
「やっぱり藤岡は、前線にずっといたいんだね?」
「うん、俺は救助隊やれて、給料それなりに貰えればいいよ、」

からっと笑った藤岡の貌は屈託なくて、出世など興味ないと見て分かる。
元からの志望が救助隊員の前線にある藤岡にとったら、出世して後方勤務になることは望まない。
だから昇進試験に興味が無いのも当然だろうな?そんな納得をしながらコップに口付けた時、藤岡は当然と言うトーンで笑った。

「だからさ?昇進試験なら宮田と話す方がいいんじゃないって俺、言ったんだよ。そしたら内山のヤツ、うわっ?」

英二が噴き出した水に、藤岡の言葉が消された。

「ごほっ、ごっ、ごめ、ふじおかっ、ごほんっ、」

思い切り噎せながら謝り、けれど想ってしまう。
どうしていつも藤岡って、こうなるんだろう?

―藤岡、飲み会にも居たのに、内山のこと把握してないのかな?

噎せこみながら考えて、掌で口もと押えながら困らされる。
英二から見たとき内山の態度は、かなり露骨で解かり易い。けれど「まさかね」と誰もが思うだろう。
たぶん藤岡もそう思っているんだろうな?そんな考え廻らせる前で、藤岡はハンドタオルで顔拭きながら笑ってくれた。

「あはは、宮田って心肺機能強い癖に、ほんと噎せやすいよなあ?でも俺、イケメンの水で顔どんどん良くなってない?」

本当に藤岡って、なんて良いヤツなんだろう?

毎回いつも藤岡は、水を噴きかけられても明るく笑って面白がってしまう。
こういう明るさがたぶん内山にとっても救いで、それが電話をつい架ける理由の一つかもしれない。

―でも本当は内山、光一のことを何でもいいから聴きたいんだろな?

いま都心にいる同期の想いに考え廻らせ、噎せこみながら今夜の予定を思ってしまう。
そんな隣で「今夜の予定」を作った原因は、底抜けに明るい目を愉しげに細めた。

「たしかに藤岡、ズイブン男前になったよね?今にモテすぎて困るんじゃない、誰かさんみたいに?」
「あはは、だと良いよなあ?そろそろ彼女とか欲しいけどさ、出逢いが無いんだよなあ、」

健全な話題で呑気に笑っている同期は、屈託の欠片も無い。
こういう貌を見ているのは此方も明るくなれる、けれど今夜は真反対の貌を見るだろうな?
そんな予想への対応を考えながら英二は、思案と一緒にコップの水を飲みこんだ。



警察医診察室のパソコンに向かい、英二は最後のenterキーを押した。
もう一度資料に目を通し齟齬が無いか確認する、チェック全てを済ませると印刷へと操作した。
かすかな電子音が傍らのプリンターに鳴る、出来上がった書類を手にとりながら振向くと英二はデスクの横顔に微笑んだ。

「吉村先生、お待たせしました。アンケートの集計と清書です、」
「すみません、ありがとうございます、」

xlsシートとWord文書を携え、白衣姿へと差し出す。
受けとって吉村医師はすぐ目を通してくれる、その視線は動きが早い。
速読で見つめていく医師の目は時おり微笑み、時おり考え込むよう動いていく。
そしてロマンスグレーの頭はゆっくり頷き目を上げて、英二へと嬉しそうに微笑んだ。

「とても解かり易いですね、ありがとうございました。まだ時間は大丈夫ですか?」

資料をファイルに綴じながら、穏やかな声が尋ねてくれる。
たぶん午前のお茶への誘いだろうな?いつもの習慣に英二は笑いかけた。

「はい、10時に出れば大丈夫です。コーヒーにしますか?」
「お願い出来ますか?でも申し訳ないですね、宮田くんは今飲めないのに、」

謝りながら微笑んでくれる、その貌は今日も温かい。
この医師にコーヒーを淹れる「日常」は、あと1ヶ月半で「時折」に変わってしまう。
そのことへの寂寞を感じながらも英二は、素直に医師へと微笑んだ。

「先生、気にしないで下さい。心肺の試験が終わったら好きなだけ飲めますから、」

答えながら1つのマグカップにコーヒーのフィルターをセッティングする。
もう片方には白湯だけ入れる傍ら、吉村医師は菓子箱を開きながら訊いてくれた。

「ありがとうございます、医科大への道など解かりますか?」
「はい、地図でチェックしておきました、」
「それなら大丈夫ですね。着いたら受付で私の名前と件名を言って紹介状を出せば、すぐ試験に入れます、」
「ありがとうございます、明日の朝、また結果を相談させてください、」

話しながらサイドテーブルにカップと菓子を据え、向かい合う。
互いにマグカップを抱えて一息つくと、吉村医師は懐かしそうに微笑んだ。

「こんな話すると失礼かもしれませんが、雅樹が初めてマッターホルンに登ったときのことを思いだしてしまいます。
あのとき私はまだ附属病院にいて、雅樹の適性テストを自分でしました。その時に私の助手をしてくれた方が今日担当する予定です、」

吉村医師の次男、雅樹は山ヤの医学生だった。
もう亡くなって16年になる今も雅樹は、同じ山と医学に生きる父親から深く愛される。
自分と同じ道に夢を見、その半ばに亡くなった息子への想いは尽きることが無い。
この親子の絆を想いながら英二は、すこし悪戯っ子な貌で笑ってみせた。

「じゃあ、ご担当の先生、俺の顔を見て驚くかもしれませんね?」

言葉に一瞬、吉村の瞳が止まって英二を見つめた。
かすかな愛惜が穏やかな目に映り、けれど医師は可笑しそうに笑ってくれた。

「そうですね?宮田くんは雅樹と似ているから、彼も驚くかもしれない。何度か雅樹と会ったことがあるから、」

笑ってマグカップに口付けて、ひとくち啜りこむ。
ほっと息吐き吉村医師は、英二の貌を見て温かく微笑んでくれた。

「ありがとう、宮田くん。きっと君なら大丈夫だろうけれど、マッターホルンもアイガーも救急セットを忘れないで下さいね。
必ず無事に帰ってきて下さい、ここで私は待っていますから。そして北壁の上から見た景色を、コーヒー飲みながら聴かせて下さいね、」

告げてくれる言葉が温かい。
この温もりに自分は卒業配置の時から、ずっと支えられてきた。
けれど、何げなく医師が口にした言葉への自責が今、心軋ませる。

『救急セット』

いま言ってくれた『救急セット』は、吉村医師が英二に贈ってくれた。
それは医師が携帯する専門性の高いもので、雅樹がいつも持っていたものと同型になる。
救命救急ERの名医と謳われながら、医学生だった息子を遭難死で失った吉村医師の願いと想い。
その哀惜と後悔と、親子の愛、その万感に息子と同じ救命救急セットを英二に贈ってくれた。
これを常携して無事に帰ってほしいと祈り願う、その想いへの感謝はきっと生涯尽きない。

けれど今、自分はその救急セットのケースに何を入れている?

―先生、すみません…俺は先生をもう裏切ったのかもしれません

人命を救い、自身の安全をも救って生きてほしい。
その祈りを贈ってくれた救命救急用具一式、そこに自分は逆の目的に遣う道具も納めている。
この自責が肚の底で灼熱に重たい、それでも自分が背負うと決めた以上は潔く独り抱え込めばいい。
そんな想いに英二は綺麗に笑って、敬愛する医師に約束と相談をした。

「はい、必ず帰ってきます。でも先生、今夜の飯の方が俺にとって、難問かもしれません、」
「内山くん、でしたね?講習会の後、メールを見せて下さった、」

相談ごとに医師は穏やかに笑んで、英二の顔を見つめてくれる。
もう既に一度は相談してあるけれど、今夜この後を想いながら英二は困り顔で微笑んだ。

「はい、この間も少しお話しましたけど、本庁の講習会で国村は難しい質問を内山にして、答えられないと恥をかかせたんです、」

話しながらも1週間ほど前の記憶に、様々な感情を想ってしまう。
あのときの内山の赤面と、光一の冷静な無関心が対照的に過ぎて心が傷まされた。
あのときに光一が選んだ態度を自分は必要な時に出来るのだろうか?そんな考え廻らせながら、英二は言葉を続けた。

「国村からしたら、困らせて嫌われてやろうって思ってやったんですが。でも内山の方は、全く嫌いになってはいません。
国村に嫌われているって思っても気になって、何かしら国村のこと聴きたいらしくて、よく藤岡にも電話しているようです。
それから、飲み会でも一緒だった同期たちを、飯とかに誘うことも増えて。独りでいることを避ける行動が、多くなっています。
どちらの時も、内山からは国村の事を話題にしないようです。でも何かを言い澱んでいる空気があると、よく誘われる同期に聴きました」

この件について、深堀からもメールが来た。
深堀は一見目立たないけれど、語学も堪能でコミュニケーション能力と洞察力が高い。
そういう深堀の目から見た時に「何かを言い澱んでいる」と感じ、それを英二に振ってきた。

―たぶん深堀だったら、ちょっと気づいているんだろうな?

それでも「まさか」と思ってはいるだろう、自分だって内山に関しては「まさか」と思った。
けれど内山が示す最近の言動は、飲み会で光一と会う以前の内山とは違ってしまっている。
独りで居たがらない、飲み会に同席した面子を頻繁に誘って、けれど話題には出来ない。
これら事実を並べて考えながら、英二はいちばん最近で困った事を医師へ話した。

「この間の講習会より前ですが、関根とふたりで飲んでいる時に内山、なんにも言わずに泣き出してしまって、」
「関根くん、初任総合のとき奥多摩にいらした方ですよね?明るい、闊達な雰囲気の、」

きちんと名前と顔を憶えてくれている。
そんな相槌の言葉に笑って英二は、少し微笑んで続けた。

「はい、その関根です。内山と仲が良いんですけど、泣かれて困った関根が周太にメールしてきたんです、俺が周太と居る時に。
俺が周太の携帯から関根に電話したんですけど、そのときに俺で良かったら相談とか聴くよ、って伝言をして。それで今夜なんです、」

ここまでの経緯を相談して、英二は困り顔のまま医師に笑いかけた。
この卓越したER専門医の警察医は、どんな名カウンセリングをしてくれるだろう?
そんな想いの先、名医は困ったよう笑って口を開いた。

「恋の病は草津の湯でも治せない、そんな言葉があるんですけどね?今、伺った感じだと仮性の重症ってところでしょうか、」

言って、デスクの写真立てに吉村医師は微笑んだ。
写真のなか美しい山ヤの医学生は笑顔でいる、その笑顔に安堵したよう医師は言葉を続けた。

「それでも心のことですから、先ず話を聴くしかないと思いますよ?彼が話しやすい空気を作ってあげることが肝心です。
言いたいことを全部きちんと言わせてあげて、それを聴きながら軽症か重症かを見極めていく、それがカウンセリングの基本です。
まずは相手の気持ちを受け留めてあげること、きっと彼はマイノリティの心理状態ですから否定されることが怖いだろうから、ね?」

教えてくれるポイントを心に留めていく、その想いが温かい。
本当はこんな相談をして良いのかとも思う、けれど与えてくれる好意に英二は素直に微笑んだ。

「ありがとうございます。たぶん今の内山の気持ち、1年前の俺と似ているかもしれませんね?」
「そう想えるならきっと、君になら彼の話を聴けますよ。大丈夫、」

笑顔で応えてくれる医師の声は、どこまでも励ましと受容れに温かい。
こういうトーンに自分も聴いて話せたら良いな?
この敬愛に英二は、綺麗に笑いかけた。







(to be continued)

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