昨年観た「川の中からこんにちは」という映画は、満島ひかりの存在感に圧倒され、映画の文法やバランスをきちっとふまえているのに新しさも感じるような監督さんの才能にほれぼれとした作品だった。
その後、この監督さんと満島ひかりさんの結婚の方を耳にし、ものすごい羨望と、才能どうしって結びつくよね的な感慨を抱いたのは数ヶ月前。どんな奴だよ、石井裕也って、かっこいいよなあと思っていたので、先日やまぐち先生から聞いた情報には耳を疑った。
「石井裕也ってさあ、うちの卒業生なんだって」
「ふ~ん。えっ? 何それ、うそでしょ」
「いやいや、まじまじ」
「うっそ、満島ひかりと結婚した、あの人?」
「そうそう、○○先生のクラスだったってよ」
「まじか。奥さんに会いてぇ」(そっちかよ!)
その石井監督の新作「あぜ道のダンディ」を観ながら考えた。
奥さんには会いたいけど、機会があるならば、やはりこの才能に接してみたい。
そして、彼の感受性の形成に本校が1%なりとも貢献してると思って、誇らしい思いをいだきたい。
あと「石井 … くん」とか呼んじゃおうかな。
それにしても、せいぜい30でこぼこのはずの監督に、なぜこんなにオヤジの琴線に触れる作品をつくれるのだろう。
主人公は50歳。妻を失い、一浪中の兄、大学受験をひかえた高3の妹との三人暮らし。
もうこの設定だけで泣けてくるうえに、家族のこと、子どものことをいつも思いながら、それをうまく表現できない父親の姿が心にしみ、妻の遺影を観ながらビール呑んでるシーンなどヤバい。
やがて家を離れて東京にアパートを借りる子ども達との別れ、うざがっていながら父を大切に思う子どもたちの気持ちや、いつもそばにいて支えてくれる親友とのやりとりなど、大作とよばれる作品群とは対極の映画で、人生に対するしみじみとした優しさにあふれている。
それぞれのシーンや台詞がわかりやすすぎるかもという指摘もあるかもしれないが、それは監督の誠意の表れとみたい。
高校生が観ておもしろいかと問われれば、人によるとしか言いようがないが、われわれ大人には心にしみるものとなるだろう。俺たちの生きる道はしょせんあぜ道にすぎないけど、だからこそ、ダンディに生きたいよね、って思えた。