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Another 綾辻行人

新本格派の大御所である著者が新境地を拓いたという謳い文句のミステリー・ホラー小説。著者が3年がかりで完成させた700ページの大部だが、一気読みしてしまった。
 内容は正に稀代のストーリーテラーの本領発揮というところだが、多少「?」というところがなくもない。話の展開として、主人公が最初に「ある事実」を知らない、誰からも知らされない、という点がその後の話の展開の大きな鍵となるのだが、どうして知らされないのか少し不思議な気がする。また、事件解決の糸口となるある人物が残した証拠品についても、何故彼だけそうした証拠が残せたのか、説明はあるものの、どうももご都合主義的過ぎる気がする。全て架空の物語なのだから、そうであっても許されないことはないのだが、著者の筆力にどんどん納得させられて、どんどん話が進んでいってしまう。著者が最後の最後に用意してくれている「驚愕の事実」は、よく考えると大きなストーリーにはあまり関係なく、別にそうでなくても成り立つ話なのだが、いかにも著者の読者へのプレゼントという感じで大変嬉しい。もう今さら「新本格」でもあるまいと思っている読者にとって、著者の新境地としてこれからこういう路線の作品が出てくるのであれば、本当に喜ばしいこととだと思う。
 なお、本書が持ち運びに困るほど分厚いのは、読者に一気読みしてもらうための出版社の作戦なのだろう。実際私も一気読みしてしまったのだが、一気読みにするにしても、これだけ厚い本は勘弁してほしい。値段が高くなってしまっては困るが、できれば上下2巻にしてほしいというのが本音だ。(「Another」綾辻行人、角川書店)
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