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桐島、部活やめるってよ 朝井リョウ

「桐島」というバレー部のキャプテンが部活をやめるという事件をきっかけにしてそれが池に投げられた小石のように、5人の高校生の心に波紋を投げかけ、それがそれぞれの1人称で語られる。話の中には、その「桐島」自身は全く登場せず、何故部活をやめたのかもはっきりとは語られず、その後どうなったのかもほとんど語られない。それでもその小さな変化が、それぞれの5人に別の大きな変化をもたらし、それがまた別の波紋となって広がっていく。5人の話も、何かの事件を追うようなストーリーではなく、ひたすら彼らの心の様を綴った文章に終始する。若い作者が同世代を冷めた目でみるのでもなく、当事者として熱く語るでもなく、いわばその中間のような文章に、驚くような新鮮さを感じてしまう。それが本書が注目された最大の理由だということが良く判る。この著者が年齢を重ねて、次にどのような作家になっていくのか、純文学の愛好家でなくても大いに気になるところだ。(「桐島、部活やめるってよ」 朝井リョウ、集英社文庫)

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