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色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年 村上春樹

村上春樹の小説は、あまり読んでいないのだが、書評に、この小説は名古屋という土地柄が重要な要素になっていると書かれていたので、興味を持って読んでみた。名古屋の人にとっては、嬉しいような恥ずかしいようなというところかもしれない。少し前までの名古屋は、名古屋に住む人自身が、広い道に分断された無個性・灰色の町と、自認していた。それから、デザイン博以降随分変わったということもよく言われることだが、やはり「名古屋は特別」という意識はあまり変わっていない。そうした名古屋の特性と、著者の描きたい人間・集団のテーマが上手く合致したということで、世界的に人気のある作家の小説の舞台になってしまったということのようで、名古屋の人にとってはやや恥ずかしいというのが正直なところだろう。実際に読んでみると、名古屋という土地柄が小説の重要という感じはさほどなく、すぐに帰ろうと思えば帰れるが、やはり東京とは違うというその距離感が舞台に選ばれた理由で、それ以外の名古屋の特性、名古屋の人が思っているような特殊性はあまり関係ないのではないかとも思われる。話自体は、何となく中途半端な終わり方だが、読んでいてぐんぐん引き込まれるような面白さがあるし、中途半端というのもよく言えば小説らしい余韻を残して終わるというところ、納得の1冊だ。(「色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年」 村上春樹、文芸春秋)

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