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暗幕のゲルニカ 原田マハ
自分の感覚では、著者の本には、ツボにはまる本とそうでない本がある。基本的に美術関係の小説には興味があるので、著者の本はどれも面白かった。それでも、著者の本では、当たりはずれというほどではないが、どちらかというとミステリー色の強い作品の方がツボにはまる感じがしていた。本書については、刊行当初からかなり話題になっているのは知っていたが、勝手に自分のツボにはまらない方の作品かなと思ってスルーしていたのだが、本屋大賞にノミネートされたので読んでみることにした。ピカソが、ナチスのゲルニカ空爆への抗議の意を込めて描いた一枚の絵を巡る物語。ピカソがこの絵を描いた時期の話と、NYの同時テロ後の話が交互に描かれているが、その二つの時代が見事にシンクロしている。どこからどこまでが本当の話で、どこからどこまでが創作なのか、判別できないほど創作部分と事実が融合している点も凄い。さらにミステリー要素、サスペンス要素も思った以上にある。「ゲルニカ」という実際に数奇な運命を辿った作品を取り上げれば他の作家でもそれなりの面白い作品になったのだろうが、本書は絵画を題材にした作品を書き続けてきた著者にしか書けない物語だと感じた。最後の最後に登場する「世界で一番小さな作品」には、思わず涙した。(「暗幕のゲルニカ」 原田マハ、新潮社)
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