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新アラビアンナイト 清水義範

取材や観光でイスラム諸国を何度も訪れたという著者が、その時に見聞きした文化、風俗、景観、宗教との向き合い方などの知見をベースにして、諸国の伝説や歴史を千一夜物語風に語る短編集。これまでに読んできた著者の作品は、ユーモアとアイロニーで味付けされた短編と自分で見聞きした異文化を紹介する紀行文の2種類だったが、本書はその中間というか融合というか、どちらの要素も持った著者ならではの作品だ。語られる荒唐無稽な物語のどの部分が実際に現地に残っている伝説で、どの部分が著者の創作やアレンジなのかは判然としないが、物語を読んでいるとイスラム文化圏の人々の暮らしや考え方が何となく見えてくるような気がする。本書は世界同時テロ以降に書かれていて、刊行後の世の中のイスラムに対する見方は、前近代的な風習、聖戦という衣をまとったテロ組織という悪いイメージ一色だが、本書を読んでいるとそれが千年も続いているという事実の背景にある何がしかのプラス面の必然性のようなものがおぼろげながら伝わってきて、それが著者の狙いなのだろうと感じた。(「新アラビアンナイト」 清水義範、集英社文庫)
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