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国道16号線 柳瀬博一
近くの本屋さんのご当地本コーナーで見つけた一冊。主人公は、神奈川県三浦半島から東京町田八王子、埼玉県狭山川越を経て、千葉県野田柏市原に至る総延長326km、東京湾から30km辺りをぐるりと一周する国道16号線だ。本書では、副題に「日本を創った道」とあるように、この国道が旧石器時代から現代に至るまで日本の発展や文化の形成に果たした大きな役割を様々な観点から分かりやすく解き明かしてくれる。この国道16号線が結ぶ各地域を考える際の最大の肝は、山と谷と湿原と水辺が同居する地域であること。山や谷には木の実や果実があり、湿原は田畑に適していて、水辺では貝や魚が豊富で水を飲みにくる動物を捕獲できる。また、あまり河川が大きすぎると制御することが困難となるので、大きな河川の支流が好ましい。こうした条件を兼ね備えていたのが国道16号線が結ぶ現在も1000万人以上の人口を擁する地域を形成するという論理だ。本書では、小さな河川の流域を一つの細胞のように捉えるいわゆる「流域思考」を基本に、日本列島に人類が渡ってきたルート、旧石器時代の遺跡、貝塚や大学の所在地、近世以降の音楽史、生糸産業の発展など様々な観点から説き起こしてくれる。これまで常識だと思っていた「家康が寒村だった江戸を切り拓き、その郊外である諸都市が後から発展した」という歴史観を改めさせてくれた一冊だ。(「国道16号線」 柳瀬博一、新潮文庫)
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