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言語の本質 今井むつみ、秋田喜美

日本において特に発達していると言われている「オノマトペ」に関する研究成果や最新の言語学の知見を駆使して、人はどうやって言葉を学習していくのか、何故人間だけが言語を話すのかなどを解明し、さらにはそこから言語の本質とは何かに迫るスリリングな一冊だ。本書では、「オノマトペ」をアイコンと言葉の中間に位置するものとしてとらえた上で考察を始める。世界の色々な言語にもオノマトペは存在するが、一般の言語同様にそこに法則性や類似性があるのかどうかは必ずしも判然としない。しかし、「い」という音のつくオノマトペは総じて「小さい」、「あ」「お」のつくオノマトペは総じて「大きい」事象と結びついている、繰り返しのあるオノマトペは「連続」した事象を表す傾向がある、などの法則性がある。こうしたことから、オノマトペは、視覚的なジェスチャーやアイコンよりも伝えられる情報量は少ないが、恣意性の強い言語よりもアイコンに近いとし、言語の10大原則を念頭に一般の言語との類似性や相違を詳細に検討していく。こうして得られたオノマトペは、アナログ的な世界の写し取りとデジタル的な記号の中間形態と結論づける。こうしたオノマトペの知見を使って、さらに子どもがどのように言語を習得していくのか、どうして人間だけが言語を使うのかという問いを考察する。ここで使われるのが「人間は論理的には不正確でもあるいは間違っていても因果関係を逆に推論することで複雑な事象の理解、伝達を可能にしていく」という「アブダクション推論」の考え方だ。世界の様々な環境に居住を始めた人間は、限られた環境のみで暮らす他の動物よりも想定外のリスクにさらされる機会が多く、確実性や論理性よりもとりあえずのリスク回避を優先した思考回路が醸成され、これが複雑な事象を表したり伝えたりする言語というものの習得に繋がったというのが著者の見立てだ。言語学者が何をどう考えて言語の本質に迫ろうとしているのかがよく分かって非常に面白かった。(「言語の本質」 今井むつみ、秋田喜美 中公新書)


言語の10大原則
①コミュニケーション手段
②意味性
③超越性(時空を超えた事象を伝える)
④継承性(同一文化内で継承されていく)
⑤習得可能性
⑥生産性(新しく作られていく)
⑦経済性(多様な事象を効率的に伝える)
⑧離散性(グラデーションのある事象に境界を作る)
⑨恣意性(必然性がない)
⑩二重性(一つ一つの音には意味がない)
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