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時が見下ろす町 長岡弘樹

著者は、今最も新刊が出るのが待ち遠しい作家の一人だが、最近立て続けに新刊が刊行されて嬉しい限りである。本書も著者の特徴である、ちょっとした日常の違和感とか不協和音が、謎を解く鍵になるという作品が並んでいる。一方、作品の舞台は、これまでの警察組織や医療現場といったお馴染みの世界だけでなく、普通の家庭だったりと、その世界がどんどん広がってきている。読んでいて次に何が飛び出すか分からないといった楽しみも加わってきていて、ますます次の作品が楽しみになってきた。(「時が見下ろす町」 長岡弘樹、祥伝社)

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プレゼント 若竹七海

昨年読み始めた著者の作品の未読のものを少しずつ読みだしている。本書は、探偵葉村シリーズの第一作目ということで、著者の比較的初期の頃の作品のようだ。収められた8つの短編のうち最初の7編では「葉村探偵」と「小林警部補」が交互に登場し、最後の8編目で両者が出会う。最初の方に登場する葉村はまだ探偵ではなくフリーターなのだが、最後になってようやく探偵「葉村」になる。当時の読者はこの「葉村」を主人公としたシリーズが展開されることになるとは思いもしなかったのではないか。「葉村」のキャラクターは、不思議な魅力を放っている。過去の友達と称する人たちは例外なく「嫌な奴」だし、家族もダメ人間ばかりで、とにかく人間関係に恵まれない。性格もポジティブなところは「好奇心旺盛」と「責任感」ということになるが、それが様々なトラブルに巻き込まれる原因にもなっている。夫々の短編は、短いにもかかわらず、ちょっとした日常の事件ではなく大きな事件だし、短編ミステリーにありがちな曖昧さを残さないしっかりしたミステリーで、主人公の魅力と相まって、読んでいてそれだけで楽しい。まだまだ著者の未読の本がいくつもあるのは嬉しいことだ。(「プレゼント」 若竹七海、中公文庫)

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