goo

素敵な日本人 東野圭吾

著者の小編を一冊にまとめたもので、作者らしいウィットに富んだ作品が並んでいる。各作品ともちょっとしたアイデアを題材にしているのだが、どれもひねりの聞いたミステリーになっていたり、最後に驚かされたりで、大いに楽しめた。中でも育児シミュレーションの話などは、最後の展開に思わず笑ってしまったし、最後に掲載されたある「特殊能力」の話は何となくジーンときてしまった。作品も前作を読んだ際、このブログに、ゲレンデものなど作家自身の趣味に走った作品ではなく、正攻法のミステリーを書いてほしいという希望を書いたが、こうした面白い作品もどんどん書いてほしいと思う。(「素敵な日本人」 東野圭吾、光文社)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

バカが多いのには理由がある 橘玲

先日前作を読んで面白かったので、続けて本書を読んでみた。不遜で挑発的な題名だが中身はいたって全うな内容。前作よりも一つ一つのテーマについての文章が長めで、比較的じっくりと読むことができた気がする。内容は、前作同様、政治・経済・社会に関する批評文集だが、敢えて一般的な通説とは異なる意見を述べるという著者のスタンスが良く表れている。日頃何となく胡散臭いと感じていることの本質のようなものをズバリと指摘してくれるのが痛快だし、その意外な指摘になるほどと感心させられるのも著者の本の醍醐味だ。本書で語られているブラック企業の根源が日本的雇用制度にあるという指摘は、全くその通りだと思う。また、エピローグで語られるフェアトレードや人権NGOに関する不愉快な真実には心底驚かされる。もう次の三作目が刊行されているというので、読むのが今から楽しみだ。(「バカが多いのには理由がある」 橘玲、集英社文庫)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

みんなのふこう 若竹七海

投稿者の不幸話を紹介するラジオ番組で繰り広げられるある少女の不幸話。次から次へと巻き起こる予想外の話に、これって本当に偶然なのか、はたまた何者かの意思が働いた犯罪なのか、どっちなんだろうと思わせながら話は進む。これまで読んだ著者の本の中でも軽めのユーモアミステリーだが、ラジオの投稿、ニュース番組、警察の事情聴取記録など、様々な媒体によって事件が進行していく全体の構成は見事だと思う。(「みんなのふこう」 若竹七海、ポプラ文庫)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

虚構の男 L・P・デイヴィス

キャッチコピーは、「唖然とする展開」「開いた口がふさがらなくなるラスト」「早すぎたジャンルミックス」などなど。どれも読書意欲を掻き立てる。しかも本書が書かれたのは1965年というから50年以上前のことになる。期待度100%で読み始めた。最初は、のどかな寒村で静かに短編小説を書いて暮らす主人公と近所の人々の温かい交流の話なのだが、あれよあれよという間に話は全く別の様相を見せ始める。普通にチョイ役で登場しているのかと思った人物が別の顔を見せ、主人公のちょっとした違和感の意味が少しずつ明らかになるにつれて、話は本当にとんでもないことになってしまう。1965年に書かれた本書だが、その本当の舞台は50年後ということで、ぴったり今に重なる。世界における中国の台頭が現実とは別の形で実現していて、これはこれですごい洞察力かもしれないと思った。まあ現実がこの小説のようにならなくてよかったというべきかもしれない。埋もれていた過去の名作を再評価しようという企画シリーズの1冊とのこと。他の作品を読むのが楽しみになってきた。(「虚構の男」 L・P・デイヴィス、国書刊行会)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
   次ページ »