書評、その他
Future Watch 書評、その他
掟上今日子の色見本 西尾維新
シリーズ第10作目。本シリーズは、読むたびに新しい趣向が凝らされていて、本当に飽きることがない。本書も意表をつく設定で、毎度のことながら、その手があったかと感心するばかりだ。分量的にも新幹線の中で読むのにちょうどいい。巻末の刊行案内と作者のあとがきによると、夏に新刊、それ以外にも短編集の刊行予定もあるらしく、今から楽しみだ。(「掟上今日子の色見本」 西尾維新、講談社)
アルバトロスは羽ばたかない 七河迦南
事故か事件か自殺か? 児童福祉施設の生徒の不可解な死の謎を追うミステリー。その死の状況を追う現在進行形の部分とその事件の前に起きた4つの小さな事件が交互に語られながら話は進む。社会性の強い事件を扱いながらも、一つ一つの事件にはミステリーらしい斬新なトリックが施されている。そして最後に訪れるびっくりするどんでん返し。本書は大きな話題となったデビュー作に繋がる二作目の作品とのこと。社会への問題提起と最後のどんでん返しに至る伏線が見事にマッチした第一級の作品の登場に、ミステリー界が大きな期待を寄せるのが良く分かる気がする。(「アルバトロスは羽ばたかない」 七河迦南、創元推理文庫)
昔話はなぜお爺さんとお婆さんが主役なのか 大塚ひかり
どこで知ったのかは忘れてしまったが、題名に惹かれて購入したことは間違いない。確かに「なぜ昔話の主人公はおじいさんとおばあさんなのか?」というのは不思議な話だし、そこにはなんとなくダークな理由があるような気がする。桃太郎の話にしてもかぐや姫の話にしても彼らを育てるのがお爺さんお婆さんである必要は無い気がするし、最後にお爺さんになってしまう浦島太郎の話は何の寓意なのかよくわからない。本書では、そうした昔話について、子ども向けに毒の部分を削る前の原話に遡ったり、昔の社会的状況を考えることで、その謎を解き明かしていく。もの凄く驚くという内容ではないが、やはりそこには少しダークな理由があることが分かった。また、昔の庶民の生活がどういうものだったかを知る手掛かりを得ることができたし、浦島太郎の話の寓意も分かって、色々ためになった。(「昔話はなぜお爺さんとお婆さんが主役なのか」 大塚ひかり、草思社文庫)
ミステリークロック 貴志祐介
このミステリーがすごい2018年の上位ランクインしたり、色々な書評で評判が良いので、良く知らずに購入したのだが、本書は著者の「防犯探偵」という人気シリーズの1冊とのこと。4つの短中編が収められていて、最初の作品は意表を突くトリックに驚かされる軽い作品だったが、第2編目、第3編目と読み進めるうちに、本格ミステリー的要素がだんだん強くなり、表題作に至っては、暴かれたトリックを頭の中で再構築するのが困難なほど凝ったトリックが披露される。自分自身は、多分破綻なく実現可能なんだろうなあとは思うが、自分で検証するのは初めから諦めてしまった。それでも十分すぎるほど面白いところがすごい気がする。(「ミステリークロック」 貴志祐介、角川書店)
次ページ » |