書評、その他
Future Watch 書評、その他
映画 セルジオ&セルゲイ
ソ連の崩壊で宇宙ステーションからの帰還の目処が立たなくなってしまったソ連最後の宇宙飛行士セルゲイ。キューバのアマチュア無線愛好家セルジオは、偶然の交信からセルゲイ救出に動き出す。どこまでが実話かわからないが、都合の悪いことは宇宙に飛ばしてしまえと言わんばかりのシーンもあり、悪人が一人も出てこないメルヘンチックなストーリーを気楽に楽しむことができた。
ミュージックブレスユー 津村紀久子
音楽との関わり、高校卒業後の進路、友人関係などに悩みながらも少しずつ成長していく高校生の一年を描いた中編小説。人には、成長する時期、立ち止まって自分を見つめるモラトリアムなど色々な場面があるが、その時期は人それぞれだろう。しかし、高校卒業、進学、就職の時期は皆一律にやってくる。本作は、そうした一律の基準に苦慮する話だ。まだまだ続く混沌、その中で見える仄かな明かりに救われる。(「ミュージックブレスユー」 津村紀久子、角川文庫)
火のないところに煙は 芦沢央
著者のホラー小説は初めて読む。本書は、人が不可解な現象に対峙した時、因果応報的な理由を探りそれを知ることによって怪奇現象が鎮静するという考えを持つことの無意味さを描いた作品群だ。言われてみれば、怪奇現象にもそうなることの何らかの理由があるというのは自己矛盾だ。本書で描かれた事件は、何らかの理由づけをして一旦収まったかに見えて、その後に大きな不幸が待っているものばかり。究極のホラーという気がする。(「火のないところに煙は」 芦沢央、新潮社)
音楽会 中島みゆき「夜会 Vol.20」
結婚記念日に妻と二人で行くのを楽しみにしていたコンサートだったが、直前にインフルエンザA型に罹り行くのを断念。自分で体験していないものをアップするのは異例だが、全く記録に留めないのはあまりにも悔しいので、代わりに行ってもらった娘の感想を一言だけ。「とても良いものを見れた。父(のインフル?)に感謝」。次こそは絶対に行きたい。
父からの手紙 小杉健治
初めて読む作家の作品。時代小説を数多く出している有名な大作家らしいが、その辺りを殆ど読まないので、名前は知っていたが読む機会がなかった。時々行く大型書店で平積みになっている本書を見つけて、面白そうなので読んでみることにした。内容は、10年前に突然失踪した父親から毎年娘を案じる内容の手紙だけが届くという若い女性の話、同じく10年前に殺人事件を起こして服役し出所したばかりの男性の話、この2つのストーリーがその関連性が謎のまま並行して描かれる。読者には2つの出来事が同じ頃に起こったということはわかるが、それ以外にこの2つがどのように関連していくのか予想がつかないまま話が進んでいく。ようやく200ページあたりでこの2つが合流して全体像がうっすらと見え始め、主人公2人は試行錯誤しながら真相にたどり着く。解明された謎については、ちょっと警察の捜査を見くびり過ぎているようなところが気になるが、全体の構成の見事さには圧倒される。著者の本をもう少し読んでみたくなった。かなり前に刊行された作品だが、平積みにしてくれた本屋さんに感謝したい。(「父からの手紙」 小杉健治、光文社文庫)
日航123便墜落の新事実 青山透子
1985年の日航機墜落事故について検証した本書。第1回本屋大賞ノンフィクション部門のノミネート作品ということで読んでみた。本屋大賞の発表後の選者講評を聞いていたら、受賞作以外の落選作品についてそれぞれ好意的な寸評が付されていたのに、本作だけは完全にスルーされていて、少し奇異な感じがした。自分の考え過ぎかもしれないが、そこに何らかの忖度があったのか、フィクション性が強いという判断があったのかは分からないが、いずれにしても問題作であること、真偽いずれにしても本書を心良く思わない人がいることは確かだろう。この事故について、墜落場所の特定や救援活動の開始が遅れ多くの命が失われた可能性が高いこと、事故原因に多くの謎があることは、報道で知っていたが、本書の指摘する事件性の可能性については、全く知らなかった。今のところ著者の主張を強力に後押しする証言や証拠はないようだし、もしそうであれば既に出てきていても良い気がするが、いつの日かそれが出てくる可能性はゼロではないだろう。(「日航123便墜落の新事実」 青山透子、河出書房新社)
国家と教養 藤原正彦
リベラルアーツの大切さを世界史的・地政学的観点から考察した啓蒙書。社会全体で教養主義的教育の存在意義が少しずつ曖昧になっていることへの危機感が行間から滲み出ているような内容。著者の話の進め方や歴史解釈の断定の仕方にはやや疑問があるが、その言わんとしていることには十分納得できる。ITの進展などで著者の危惧がますます深刻なものになっていることは間違いない。教養主義だけでは社会的危機政治的危機に対抗できないことをドイツの歴史が示していると著者が語る時、同じような状況に我々がどのように対応すれば良いのか、暗澹たる気持ちにさせられる。(「国家と教養」 藤原正彦、新潮新書)
映画 デイアンドナイト
大好きな俳優、山田孝之プロデュース作品ということで見てきた。キャッチコピーの「善とは何か、悪とは何か」というキャッチコピー通りの内容で、製作に携わった若い人たちの意気込みがガンガン伝わってくる映画だった。最後に主人公が呟くひと言にこの映画の全てが集約されている。欲を言えば、もう少し短く編集した方が良かったかなぁというのが、老人の感想だ。
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