G7が終わり、消費税の増税先延ばしを公表した安部政権。次の課題は、5月にプーチン大統領と非公式会談で話し合われた両国関係の「新たなアプローチ」の進展ですね。
北方四島は日本固有の領土だから返せ、その返還後に平和条約を結ぶという正論は、法律を尊重しないロシア人相手にはまるで糠に釘で通じない。経済協力と取引の形で北方領土返還をかち取る政治判断での交渉を進めるのが安部首相のいう「新たなアプローチ」。
過去にも進めてきたことだし、当然ロシア側も警戒していること。
ではどうすればよいのか。その方策を二つ提案し、過去、だまされ続けてきた外務官僚に警鐘を鳴らしておられるのは、対露問題に詳しい、北海道大学の木村名誉教授。
安倍式「対露アプローチ」に望む 北海道大学名誉教授・木村汎 (6/1 産経 【正論】)
≪抗議に立ち上がって然るべきだ≫
わが国のソ連/ロシアに対する態度は、長いあいだ単純明快だった。すなわち、北方四島の対日返還を実現して平和条約を結ぶことだ。四島は、1855年の日露通好条約以来、帝政ロシア/ソ連すら日本領土として認める地域だったにもかかわらず、スターリンは日ソ中立条約を侵犯して、同地域の軍事占領を敢行した。したがってロシアは、一刻も早く四島を無償、いや70年分の利息さえつけて対日返還すべきである、と。
わが国の要求は、さらなる説得力をもつ。第二次世界大戦を終結するに当たり米・英・仏・ソ連など連合国の首脳たちは「領土不拡大の原則」に同意し、戦勝国筆頭の米国は沖縄返還に応じた。以来、力ずくの国境線変更は、いかなる国にも許されない国際法上の大原則になっているからである。
それにもかかわらず、プーチン・ロシアはジョージアやウクライナの一部を、武力を背景に占拠したり、併合したりした。国際原則の重大な侵犯行為に他ならない。 同様の運命に苦しんでいる日本は他国に率先して、抗議に立ち上がって然(しか)るべきである。そうしなければ、日本は己の利益のみを追求するだけで、他国が同様の運命に遭っても冷淡-このような二重基準を採る国と誤解され、国際的な尊敬をかち取りえないに違いない。中国や韓国も、日本の領土観をきわめて便宜的、利己的なものと侮ることだろう。
ところが、ロシア人相手の場合、正論を唱えているだけでは、いつまでたっても島は還(かえ)ってこない。70年間に、元島民1万7000人の3分の2が既に他界してしまった。根室周辺地域は、流し網漁が禁止されているだけによっても、250億円の損失を被っているという。
≪提起された経済と領土のリンク≫
学者とは異なり、政治家は現実の力関係や利害も考慮に入れる。前者が領土返還要求を国の尊厳と存立を懸けた原理・原則の問題と捉えるのに対して、後者はそれをロシア人相手の交渉としても捉える。交渉では、交渉当事者がさまざまな争点や項目に与える優先順位の差異に注目することによって妥協が可能になる。当事者Aが最も欲するものは、必ずしも当事者Bが最も欲するものとはかぎらないからである。
キッシンジャーはこの交渉の要諦を熟知していたが故に、アラブ諸国とイスラエル間の交渉を「領土と安全保障との交換」へまとめ上げることに成功した。東西ドイツの統一、中露国境交渉(2004年)の妥結も、煎じ詰めると「領土と経済との取引」によって可能になった。
安倍晋三首相は5月6日、ソチで日露非公式会談を行った際、プーチン大統領に向かい「新たなアプローチ」を提案したと伝えられる。同提案の中身は、何か。
端的にいえば、日本からの経済協力と取引の形で北方領土返還をかち取ろうとする戦略だろう。首相が同時に提示した「8項目」の内容からそのような解釈が可能であり、そのように推測し得る場合、さらに次のように述べることができるだろう。
政治家である安倍首相は、学者らが説く理屈一点張りの発想やアプローチを採らない。歴史的、法律的な観点からいえば、北方四島が日本固有の領土であることは間違いない。ところがそのような正論を何十年、唱えていても、法律を尊重しないロシア人相手にはまるで糠(ぬか)に釘(くぎ)だ。父の安倍晋太郎元外相以来、「領土問題を解決しての平和条約締結」を己の首相在任中に実現するためには、ぜひとも起死回生の妙手を試みる必要があろう。こうして提起されたのが、経済と領土をリンクさせるアプローチに違いない。
≪二度と煮え湯を飲まされるな≫
だが、政経リンケージ(連結)は、安倍氏以前の首相たちも試みては失敗を重ねた戦術である。加えてプーチン大統領らロシア側も警戒の念を表明している。ならば、表向きはリンクしないものの背後でリンクさせる高度に洗練された戦術を採るか、歴代の日本首相が試みえなかった大規模な対露協力をしてロシア人を圧倒し、同意をかち取るか。これ以外の道はなかろう。
首相の政経リンケージ作戦の実務を担当するのは、官僚、なかんずく外務省の対露専門家集団に他ならない。今さらのごとく彼らに希望したいのは、ゆめゆめロシア側に先走って経済協力を与える愚を冒してはならぬことだ。当然のごとく交渉者は欲しいものを先にとろうとし、入手後はその対価を一切払おうとしないばかりか、さらなる要求すら行いがちである。
ロシアはこの手の常習犯であり、日本側は得手勝手なロシア式戦術によって幾度となく煮え湯を飲まされつづけてきた。
政治は、ロシア語でいう「パカズーハ(見せかけ)」の知恵比べだといえる。日本側も、極端に言えばうなぎの匂いだけを嗅がせるだけに止(とど)めて、ロシア側の動きをじっくり見定める慎重な態度で臨むよう、ぜひとも念を押したい。(きむら ひろし)
≪抗議に立ち上がって然るべきだ≫
わが国のソ連/ロシアに対する態度は、長いあいだ単純明快だった。すなわち、北方四島の対日返還を実現して平和条約を結ぶことだ。四島は、1855年の日露通好条約以来、帝政ロシア/ソ連すら日本領土として認める地域だったにもかかわらず、スターリンは日ソ中立条約を侵犯して、同地域の軍事占領を敢行した。したがってロシアは、一刻も早く四島を無償、いや70年分の利息さえつけて対日返還すべきである、と。
わが国の要求は、さらなる説得力をもつ。第二次世界大戦を終結するに当たり米・英・仏・ソ連など連合国の首脳たちは「領土不拡大の原則」に同意し、戦勝国筆頭の米国は沖縄返還に応じた。以来、力ずくの国境線変更は、いかなる国にも許されない国際法上の大原則になっているからである。
それにもかかわらず、プーチン・ロシアはジョージアやウクライナの一部を、武力を背景に占拠したり、併合したりした。国際原則の重大な侵犯行為に他ならない。 同様の運命に苦しんでいる日本は他国に率先して、抗議に立ち上がって然(しか)るべきである。そうしなければ、日本は己の利益のみを追求するだけで、他国が同様の運命に遭っても冷淡-このような二重基準を採る国と誤解され、国際的な尊敬をかち取りえないに違いない。中国や韓国も、日本の領土観をきわめて便宜的、利己的なものと侮ることだろう。
ところが、ロシア人相手の場合、正論を唱えているだけでは、いつまでたっても島は還(かえ)ってこない。70年間に、元島民1万7000人の3分の2が既に他界してしまった。根室周辺地域は、流し網漁が禁止されているだけによっても、250億円の損失を被っているという。
≪提起された経済と領土のリンク≫
学者とは異なり、政治家は現実の力関係や利害も考慮に入れる。前者が領土返還要求を国の尊厳と存立を懸けた原理・原則の問題と捉えるのに対して、後者はそれをロシア人相手の交渉としても捉える。交渉では、交渉当事者がさまざまな争点や項目に与える優先順位の差異に注目することによって妥協が可能になる。当事者Aが最も欲するものは、必ずしも当事者Bが最も欲するものとはかぎらないからである。
キッシンジャーはこの交渉の要諦を熟知していたが故に、アラブ諸国とイスラエル間の交渉を「領土と安全保障との交換」へまとめ上げることに成功した。東西ドイツの統一、中露国境交渉(2004年)の妥結も、煎じ詰めると「領土と経済との取引」によって可能になった。
安倍晋三首相は5月6日、ソチで日露非公式会談を行った際、プーチン大統領に向かい「新たなアプローチ」を提案したと伝えられる。同提案の中身は、何か。
端的にいえば、日本からの経済協力と取引の形で北方領土返還をかち取ろうとする戦略だろう。首相が同時に提示した「8項目」の内容からそのような解釈が可能であり、そのように推測し得る場合、さらに次のように述べることができるだろう。
政治家である安倍首相は、学者らが説く理屈一点張りの発想やアプローチを採らない。歴史的、法律的な観点からいえば、北方四島が日本固有の領土であることは間違いない。ところがそのような正論を何十年、唱えていても、法律を尊重しないロシア人相手にはまるで糠(ぬか)に釘(くぎ)だ。父の安倍晋太郎元外相以来、「領土問題を解決しての平和条約締結」を己の首相在任中に実現するためには、ぜひとも起死回生の妙手を試みる必要があろう。こうして提起されたのが、経済と領土をリンクさせるアプローチに違いない。
≪二度と煮え湯を飲まされるな≫
だが、政経リンケージ(連結)は、安倍氏以前の首相たちも試みては失敗を重ねた戦術である。加えてプーチン大統領らロシア側も警戒の念を表明している。ならば、表向きはリンクしないものの背後でリンクさせる高度に洗練された戦術を採るか、歴代の日本首相が試みえなかった大規模な対露協力をしてロシア人を圧倒し、同意をかち取るか。これ以外の道はなかろう。
首相の政経リンケージ作戦の実務を担当するのは、官僚、なかんずく外務省の対露専門家集団に他ならない。今さらのごとく彼らに希望したいのは、ゆめゆめロシア側に先走って経済協力を与える愚を冒してはならぬことだ。当然のごとく交渉者は欲しいものを先にとろうとし、入手後はその対価を一切払おうとしないばかりか、さらなる要求すら行いがちである。
ロシアはこの手の常習犯であり、日本側は得手勝手なロシア式戦術によって幾度となく煮え湯を飲まされつづけてきた。
政治は、ロシア語でいう「パカズーハ(見せかけ)」の知恵比べだといえる。日本側も、極端に言えばうなぎの匂いだけを嗅がせるだけに止(とど)めて、ロシア側の動きをじっくり見定める慎重な態度で臨むよう、ぜひとも念を押したい。(きむら ひろし)
ロシアの経済が資源輸出依存から脱却できないでいることは衆知のことです。そのなかで、天然ガスの主力ガス田の枯渇が見えてきて、極東地域や北極圏の厳しい環境で、高度の技術を要する新規ガス田開発が迫られていること。欧州諸国のエネルギー安全保障の見地からの供給元の分散化もあり、新規販路として中国、韓国、日本、アジア諸国への販路開拓が必要なことは何度も触れてきていますし、諸兄もご承知のことです。
さらに、原油価格の暴落があり(最近、50ドル/バレルのレベルに戻していますが、そうなると米国のシェールオイルの台頭が再開されるし、OPECの増産調整も進まず、どこまで価格回復するかは不透明。)、ロシアの台所は火の車ですね。
かつて、苦しい台所を抱えるエリツィン大統領時代の1998年の「川名合意」で、四島返還寸前まで交渉が進んだことがありました。
強いリーダーシップを持ち、高い支持率を苦しみながらも維持しているプーチン大統領がいて、経済の窮状は最悪の今日。再びないかもしれない交渉機会に面しています。
プーチン大統領の意図は、譲っても、1956年10月に、鳩山首相とソ連のブルガーニン首相がモスクワで署名した「日ソ共同宣言」の二島返還です。
ロシアのラブロフ外相は31日、露メディアのインタビューで北方領土問題をめぐり、「われわれは(島を)返さないし、日本に平和条約締結をお願いすることもない」と発言しているのだそうです。これは、安倍首相の「新たなアプローチ」との交渉に臨むに際してのけん制でもあり、国内への姿勢宣伝でもあるのですが、苦しい台所を抱えている強がりの証明でもあります。強弁するほど、苦しさも大きい。その証に、あの強硬派のラブロフ外相が、一方では「日ソ共同宣言」の二島返還に触れているのですね。
北方領土「返さないし、お願いすることもない」 ロシア外相が発言 - 産経ニュース
安部首相の「新たなアプローチ」。期は熟しつつあるようです。
そこで重要なのは、木村教授が指摘されるように、外務官僚の功名心。米国や世界に広まるのを傍観・放置して今日の浸透を許した「慰安婦は性奴隷」の中韓のプロパガンダへの敗北。近くは、日韓の世界遺産や慰安婦問題の交渉の歴史的失政。対露外交でも、メドベージェフの北方四島上陸を許し、今日では要人の上陸は日常化し実効支配の度合いを高めさせてしまっています。いずれも、外務官僚の油断、情報不足によるものです。在米大使も在露大使もその時代とは交代されていて、反省を活かしていただけていると認識していますが、特に、木村教授が指摘される一筋縄ではいかないロシア相手の交渉。四島を餌に経済援助を勝ち取ろう(援助はせしめて、二島すら返さない)とするロシアの戦術にはまらない様、外務官僚の方々の奮戦を願いたい。日韓交渉で、世界遺産、慰安婦問題の日韓合意と立て続けに歴史に残るだ失政を連発した岸田外務大臣では心配が募るばかりですが、外務官僚の方々に踏ん張っていただきたい。
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北方領土交渉経緯
プーチン次期大統領が北方領土問題の最終解決を目指したいと - 遊爺雑記帳
<前略>
<追記挿入>
■日ソ共同宣言
1956年10月19日 鳩山首相とソ連のブルガーニン首相がモスクワで署名
北方領土問題は、まず国交回復を先行させ、平和条約締結後にソ連が歯舞群島と色丹島を引き渡すという前提で、改めて平和条約の交渉を行うという合意
<追記挿入 ここまで>
■日ソ共同声明(1991年)
1991年4月海部総理とゴルバチョフ大統領により署名された。
北方四島が、平和条約において解決されるべき領土問題の対象であることが初めて確認された。
日ソ両国は引き続き平和条約締結交渉を行い、条約締結後にソ連は日本へ歯舞群島と色丹島を引き渡す。
■東京宣言(1993年)
1993年10月、細川総理とエリツィン大統領により署名された。
領土問題を、北方四島の島名を列挙して、その帰属に関する問題と位置づけるとともに、領土問題解決のための交渉指針が示された。
また、日ソ間のすべての国際約束が、日露間で引き続き適用されることを確認した。
■クラスノヤルスク合意(1997年)
1997年11月、橋本総理とエリツィン大統領の間で、東京宣言に基づき、2000年までに平和条約を締結するよう全力を尽くすことで一致。
■川奈合意(1998年)
1998年4月、橋本総理とエリツィン大統領の間で、平和条約に関し、東京宣言に基づいて四島の帰属の問題を解決することを内容とし、21世紀に向けた日露の友好協力に関する原則等を盛り込むことで一致。
■イルクーツク声明(2001年)
2001年3月、森総理とプーチン大統領により署名された。
日ソ共同宣言が交渉プロセスの出発点を設定した基本的な法的文書であることを確認した。その上で、東京宣言に基づいて四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結すべきことを再確認した。
■日露行動計画(2003年)
2003年1月、小泉総理とプーチン大統領により採択された。日ソ共同宣言、東京宣言、イルクーツク声明及びその他の諸合意が、四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結し、両国関係を完全に正常化することを目的とした交渉における基礎と認識し、交渉を加速することを確認した。
<後略>
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# 冒頭の画像は、ソチでの非公式会談に臨む、安倍首相とプーチン大統領
この花の名前は、スノーフレーク
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