ジョー・バイデン大統領がフィアデルフィアに向かうエアフォース・ワンの機内で、ジェン・サキ米大統領報道官が、同行記者団に「米政府による対北朝鮮政策見直しが完了した」と公言したのは4月30日。
「対北朝鮮政策見直し完了」ということを正式の記者会見ではなく、機内で、しかも「ぶら下がり」で記者団に伝えたのはなぜか。なぜこのタイミングなのか。
米国在住のジャーナリスト、高濱賛氏が解説していただいています。
サキ報道官は完了した対北朝鮮見直しは「Calibrated, practical approach」(調整された現実的なアプローチ)と述べたのだそうです。かみ砕いて訳すと「よく調整した、測定可能な目盛りのついた、現実的なアプローチ」だと高濱氏。
米高官の解説は以下。
詳細に明かす準備はできていないのに、『完了した』ということだけを発表せよ、との指示が国家安全保障担当補佐官あたりからあったのだろう。
北朝鮮の核兵器を全廃させるために核兵器および関連施設が破棄されていく過程が段階ごとに測定できる目盛りをつけたアプローチという意味の、Calibratedという聞きなれない表現を使用。
「バラク・オバマ元政権やドナルド・トランプ前政権の犯した過ちは繰り返さないぞ、という決意が込められている」と。
サキ発言に北朝鮮は2日後に反応。その内容への「38 North」の評価は、「米国の提案を受けてすぐ応じられるように準備万端整えている、と読むべきだ」。
その理由は3つ。
1つは、最初に反応を示したのが北朝鮮外務省の米国担当局長という局長レベルだったこと。
局長レベルの発言や談話はいつでも否定できる。つまり、米国の次なる動き(見直しの全容公表など)を注意深く見守っていることを意味する。
2つめは、バイデン氏を名指しで非難することを避け、『米国の執権者』としている点。交渉の扉を開けておくときは常にこうしたレトリックを使ってきた。
3つめは、米国の言う脅威に対する、『相応な措置をやむを得ず講じなければならない』『米国は深刻な状況に直面する』がどうやって、何時なのか、明確に示されていない。
クォン局長の発言は、北朝鮮は米国の見直しの全容を注意深く見守っていることの表れ。つまり、「火薬は湿ってはいない、何時でも撃ち返す準備態勢にある」ということなのだと。
バイデン政権が見直しを完了した北朝鮮政策の中身とは。
「一気に非核化を目指すのではなく、段階的合意を通じた解決ではないのか」とか、「核施設廃棄や核物質生産中止などを段階的に積み上げ、非核化に到達する」といった観測がされている。しかし詳細は依然不明のままだと。
米高官によると、「38 North」にロバート・アイホーン氏が寄稿した記事で見直しの内容はほぼ掌握できると。
「バイデン政権は、長期的な北朝鮮の段階的な非核化を進めるだろう」
「バイデン政権の担当者は金正恩氏が核兵器を破棄するつもりはないと信じている」
「強力な対北朝鮮プレッシャーをかけ続けない限り、北朝鮮は交渉に真剣には応じようとしないと信じている」
「段階的アプローチの第1ステージが必要で、米国はまず日本と韓国、そして中国、ロシアと協議せねばならない。北朝鮮が交渉に応じた場合、何を見返りとして提示するかについての協議だ」
「第1ステージでの合意事項は、寧辺閉鎖と同時に北朝鮮の他の核濃縮・生産活動すべての停止を含まねばならない。そして段階的にすべての核濃縮・生産の完全停止につなげねばならない」
等々とその他も。
以上のような合意事項を北朝鮮が受け入れて初めて交渉を始め、朝鮮半島に展開する米軍事力を徐々に縮小・削減させるというもの。
見直し案はロンドンで日本の茂木敏充外相にも知らされているのだそうです。
「38 North」に記事を投稿したロバート・アイホーン氏は、記事の中で韓国の文在寅大統領についても触れているのだそうです。
「米政府は、文在寅氏が心底、北朝鮮への圧力強化を支持するとは思っていない。文氏は残りの任期、南北関係改善という野心的なアジェンダを実現するために対北朝鮮制裁緩和の方によりご熱心のようだ」と。
文在寅大統領は5月21日、ホワイトハウスでバイデン大統領から直接、米国の対北朝鮮政策見直し案を知らされる。これを見てどう反応するか。
韓国メディアによれば、支持率右肩下がりが止まらない文在寅氏は、米韓首脳会談を支持率浮揚のテコにしたいようだが、外交を政権運営にしか使えない執権者を冠に戴く国民は不幸としか言いようがないと高濱氏。
来る大統領選で、韓国民の方々が、どのような選択をされるのか。八方塞がりの文在寅氏が、師事した廬武鉉氏と同じ道をたどらないことを祈っています。
#冒頭の画像は、サキ報道官
この花の名前は、ハクサンハタザオ
↓よろしかったら、お願いします。
「対北朝鮮政策見直し完了」ということを正式の記者会見ではなく、機内で、しかも「ぶら下がり」で記者団に伝えたのはなぜか。なぜこのタイミングなのか。
米国在住のジャーナリスト、高濱賛氏が解説していただいています。
米国の新北朝鮮政策が決定、現実的核廃棄案の中身はこれだ 5月21日訪米の韓国・文在寅氏は「昼食」で頭がいっぱい | JBpress(Japan Business Press) 2021.5.6(木) 高濱 賛
サキ大統領報道官の機内ぶら下がり会見
北朝鮮の非核化をめぐって米朝の神経戦が始まっている。
ジェン・サキ米大統領報道官が「米政府による対北朝鮮政策見直しが完了した」と公言したのは4月30日。
ジョー・バイデン大統領がフィアデルフィアに向かうエアフォース・ワンの機内で同行記者団に明かした。
ホワイトハウス報道室が出した速記録(トランスクリプト)には「Press Gaggle」(ぶら下がりブリーフリング)とある。
これは正式の記者会見ではなく、オフカメラで記者団に非公式に行うブリーフィングを意味する。
「対北朝鮮政策見直し完了」ということを正式の記者会見ではなく、機内で、しかも「ぶら下がり」で記者団に伝えたのはなぜか。なぜこのタイミングなのか。
しかもその中で、サキ報道官は完了した対北朝鮮見直しは「Calibrated, practical approach」(調整された現実的なアプローチ)と述べた。
この表現をもう少しかみ砕いて訳すとこうなる。「よく調整した、測定可能な目盛りのついた、現実的なアプローチ」
(https://www.whitehouse.gov/briefing-room/press-briefings/2021/04/30/press-gaggle-by-press-secretary-jen-psaki-aboard-air-force-one-en-route-philadelphia-pa/)
米朝交渉に携わったことのある米元高官の一人は筆者にこう解説する。
「フィアデルフィアに着く前に記者団に『完了した』ということだけを発表せよ、との指示が国家安全保障担当補佐官あたりからあったのだろう」
「しかも詳細に明かす準備はできていないのに、だ。何か、北朝鮮の動きを察知していたのだろう」
「それにしては、Calibratedとは聞きなれない表現だ。北朝鮮の核兵器を全廃させるために核兵器および関連施設が破棄されていく過程が段階ごとに測定できる目盛りをつけたアプローチという意味だろう」
「バラク・オバマ元政権やドナルド・トランプ前政権の犯した過ちは繰り返さないぞ、という決意が込められている」
「オバマ政権は『戦略的忍耐』、トランプ政権は『一発勝負』で金正恩氏に足元を見られて失敗した」
サキ発言に北朝鮮は2日後に反応した。
朝鮮中央通信によると、北朝鮮外務省のクォン・ジョングン米国担当局長は5月2日の談話でこう述べた。
「米国の執権者は、議会演説で北朝鮮を深刻な脅威だと指摘した。(北朝鮮への)敵視政策を旧態依然として追求するという意味が込められている。これは大きな失敗だ」
「米国の新しい(北)朝鮮政策が鮮明になった。われわれは米政権の対朝鮮政策に相応した措置をやむを得ず講じなければならない。米国は深刻な状況に直面する」
一見、強硬な態度に出たと見がちだ。しかし、米シンクタンク「スティムソン・センター」の対北朝鮮分析リポート「38 North」はこう見ている。
「『North Korea is keeping its powder dry』(北朝鮮が銃に装填した火薬は湿気ってはおらず、いつでも発砲できる状態にある)」
「つまり米国の提案を受けてすぐ応じられるように準備万端整えている、と読むべきだ」
「その理由は3つある」
「一、バイデン大統領の4月28日の米議会演説、サキ発言を読み解き、最初に反応を示したのが北朝鮮外務省の米国担当局長という局長レベルだったこと。金正恩総書記どころか党政府の高位当局者、外務省報道官でもなかった」
「局長レベルの発言や談話はいつでも否定できる。つまり、米国の次なる動き(見直しの全容公表など)を注意深く見守っていることを意味する」
「二、バイデン氏を名指しで非難することを避け、『米国の執権者』としていること。北朝鮮は交渉の扉を開けておくときは常にこうしたレトリックを使ってきた」
「三、米国が北朝鮮を『深刻な脅威』とした脅威に対する『相応な措置をやむを得ず講じなければならない』『米国は深刻な状況に直面する』がどうやって、何時なのか、明確に示されていない」
こう読み解いていくと、クォン局長の発言は、北朝鮮は米国の見直しの全容を注意深く見守っていることの表れ。
つまり、「火薬は湿ってはいない、何時でも撃ち返す準備態勢にある」ということなのだ。
国務省核拡散防止担当顧問が明かす見直し案
バイデン政権が見直しを完了した北朝鮮政策の中身は何か。
これまでの報道では、「一気に非核化を目指すのではなく、段階的合意を通じた解決ではないのか」とか、「核施設廃棄や核物質生産中止などを段階的に積み上げ、非核化に到達する」といった観測がされている。
しかし詳細は依然不明のままだ。
米朝交渉の経緯に詳しい米政府関係者は、筆者に「この分析記事を読むと、見直しの内容はほぼ掌握できる」とアドバイスしてくれた。
前述した米シンクタンク「スティムソン・センター」の「38 North」にロバート・アイホーン氏が寄稿した記事だ。
同氏は、米軍事管理軍縮局で軍縮交渉に携わり、その後、国務省政策立案担当次官補代理、軍事管理担当次官補などを歴任、2009年から現在まで核拡散防止担当顧問を務めている。
同氏は「Calibrated, practical approach」を「Phased approach」(段階的アプローチ)と呼んでいる。
「バイデン政権は、長期的な北朝鮮の段階的な非核化を進めるだろう」
「早期的非核化を主張する者と同様、バイデン政権の担当者は金正恩氏が核兵器を破棄するつもりはないと信じている」
「同時に強力な対北朝鮮プレッシャーをかけ続けない限り、北朝鮮は交渉に真剣には応じようとしないと信じている」
「段階的アプローチの第1ステージ、つまり交渉再開の際に北朝鮮との間で合意するアグリーメントが必要だ。それを決めるには、米国はまず日本と韓国、そして中国、ロシアと協議せねばならない」
「北朝鮮が交渉に応じた場合、何を見返りとして提示するかについての協議だ」
「2019年2月のハノイでの米朝首脳会談で、金正恩氏は寧辺放射化学研究所とその関連施設の閉鎖を提案した。見返りは国連安保理決議の破棄だった」
「トランプ氏はあくまでも核兵器とミサイルの全廃を主張したため、交渉は決裂した」
「寧辺の閉鎖は北朝鮮にとっては重大な価値を持っている。これによって北朝鮮はプルトニウムやトリチウム・ガスといった核兵器製造には不可欠な物質を生産している」
「また北朝鮮が高濃度ウラニウム(HEU)を生産可能だと公表し、国際原子力機関(IAEA)が認定できる唯一の施設でもある」
「第1ステージでの合意事項は、寧辺閉鎖と同時に北朝鮮の他の核濃縮・生産活動すべての停止を含まねばならない。そして段階的にすべての核濃縮・生産の完全停止につなげねばならない」
「北朝鮮がこれに反対することを想定して、いかにしたら核分裂性物資製造を北朝鮮全土で禁止させるか」
「寧辺以外に2~3の核関連施設と疑惑のある他の施設についてIAEAによる査察・監査をさせるように提案、これがだめなら1~2年後に北朝鮮に核関連施設を公表することを認めさせることだ」
「合意事項には、事実上一時的に禁止している豊渓里核実験場や東倉里ミサイル発射場などで行ってきた核実験と長距離ミサイル発射実験の公式かつ半永久的禁止を提案すべきだ」
「また合意事項には、北朝鮮の核関連物資および技術の他国への輸出を全面禁止することも含まれるべきだ」
「また合意事項は、北朝鮮の完全かつ立証可能な非核化へ向けた交渉を引き続き行うというコミットメントも含むべきだ」
以上のような合意事項を北朝鮮が受け入れて初めて交渉を始め、その各段階で国連安保理や米国が北朝鮮に課している制裁措置の緩和や北朝鮮が「深刻な脅威」と呼ぶ朝鮮半島に展開する米軍事力を徐々に縮小・削減させるというのである。
(https://www.38north.org/2021/03/the-north-korea-policy-review-key-choices-facing-the-biden-administration/)
文在寅氏は見直し案にどう反応するか
訪英中のアントニー・ブリンケン米国務長官は5月3日、見直し完了を踏まえてこう述べている。
「北朝鮮は(いろいろ発言しているが)発言だけでなく、これから数日から数か月間、実際にどういった行動に出るか、注視している」
見直した対北朝鮮政策の詳細について何時公表するかは言っていない。
見直しの中身を知らされたドミニク・ラーブ英外相は、北朝鮮に向かってこうすごんだ(?)
「(米国の見直し案に盛られた)外交解決を望むか否かは、北朝鮮が決断することだ」
「外交を通じて朝鮮半島の完全な非核化という目標へ進む方策がほかにあるかどうか、北朝鮮はこのチャンスをつかむよう切望する」
見直し案はロンドンで日本の茂木敏充外相にも知らされている。
前述のアイホーン氏は、記事の中で韓国の文在寅大統領についてこう書いている。
「米政府は、文在寅氏が心底、北朝鮮に圧力強化を支持するとは思っていない。文氏は残りの任期、南北関係改善という野心的なアジェンダを実現するために対北朝鮮制裁緩和の方によりご熱心のようだ」
その文在寅大統領は5月21日、ホワイトハウスでバイデン大統領から直接、米国の対北朝鮮政策見直し案を知らされる。
これを見てどう反応するか。むろんバイデン氏は反論されようとこの政策を変えるつもりはないだろう。
菅義偉首相にバイデン氏との首脳会談で先を越された文在寅大統領は、夫人同伴でジル米大統領夫人を引っ張り出して、せめて公式昼食会ぐらいやってもらいたい腹積もりのようだ。
韓国メディアによれば、支持率右肩下がりが止まらない文在寅氏は、米韓首脳会談を支持率浮揚のテコにしたいようだ。
しかし、外交を政権運営にしか使えない執権者を冠に戴く国民は不幸としか言いようがない。
----------------------------------
高濱 賛のプロフィール
Tato Takahama 米国在住のジャーナリスト
1941年生まれ、65年米カリフォルニア大学バークレー校卒業(国際関係論、ジャーナリズム専攻)。67年読売新聞入社。ワシントン特派員、総理官邸キャップ、政治部デスクを経て、同社シンクタンク・調査研究本部主任研究員。1995年からカリフォルニア大学ジャーナリズム大学院客員教授、1997年同上級研究員。1998年パシフィック・リサーチ・インスティテュート上級研究員、1999年同所長。
----------------------------------
サキ大統領報道官の機内ぶら下がり会見
北朝鮮の非核化をめぐって米朝の神経戦が始まっている。
ジェン・サキ米大統領報道官が「米政府による対北朝鮮政策見直しが完了した」と公言したのは4月30日。
ジョー・バイデン大統領がフィアデルフィアに向かうエアフォース・ワンの機内で同行記者団に明かした。
ホワイトハウス報道室が出した速記録(トランスクリプト)には「Press Gaggle」(ぶら下がりブリーフリング)とある。
これは正式の記者会見ではなく、オフカメラで記者団に非公式に行うブリーフィングを意味する。
「対北朝鮮政策見直し完了」ということを正式の記者会見ではなく、機内で、しかも「ぶら下がり」で記者団に伝えたのはなぜか。なぜこのタイミングなのか。
しかもその中で、サキ報道官は完了した対北朝鮮見直しは「Calibrated, practical approach」(調整された現実的なアプローチ)と述べた。
この表現をもう少しかみ砕いて訳すとこうなる。「よく調整した、測定可能な目盛りのついた、現実的なアプローチ」
(https://www.whitehouse.gov/briefing-room/press-briefings/2021/04/30/press-gaggle-by-press-secretary-jen-psaki-aboard-air-force-one-en-route-philadelphia-pa/)
米朝交渉に携わったことのある米元高官の一人は筆者にこう解説する。
「フィアデルフィアに着く前に記者団に『完了した』ということだけを発表せよ、との指示が国家安全保障担当補佐官あたりからあったのだろう」
「しかも詳細に明かす準備はできていないのに、だ。何か、北朝鮮の動きを察知していたのだろう」
「それにしては、Calibratedとは聞きなれない表現だ。北朝鮮の核兵器を全廃させるために核兵器および関連施設が破棄されていく過程が段階ごとに測定できる目盛りをつけたアプローチという意味だろう」
「バラク・オバマ元政権やドナルド・トランプ前政権の犯した過ちは繰り返さないぞ、という決意が込められている」
「オバマ政権は『戦略的忍耐』、トランプ政権は『一発勝負』で金正恩氏に足元を見られて失敗した」
サキ発言に北朝鮮は2日後に反応した。
朝鮮中央通信によると、北朝鮮外務省のクォン・ジョングン米国担当局長は5月2日の談話でこう述べた。
「米国の執権者は、議会演説で北朝鮮を深刻な脅威だと指摘した。(北朝鮮への)敵視政策を旧態依然として追求するという意味が込められている。これは大きな失敗だ」
「米国の新しい(北)朝鮮政策が鮮明になった。われわれは米政権の対朝鮮政策に相応した措置をやむを得ず講じなければならない。米国は深刻な状況に直面する」
一見、強硬な態度に出たと見がちだ。しかし、米シンクタンク「スティムソン・センター」の対北朝鮮分析リポート「38 North」はこう見ている。
「『North Korea is keeping its powder dry』(北朝鮮が銃に装填した火薬は湿気ってはおらず、いつでも発砲できる状態にある)」
「つまり米国の提案を受けてすぐ応じられるように準備万端整えている、と読むべきだ」
「その理由は3つある」
「一、バイデン大統領の4月28日の米議会演説、サキ発言を読み解き、最初に反応を示したのが北朝鮮外務省の米国担当局長という局長レベルだったこと。金正恩総書記どころか党政府の高位当局者、外務省報道官でもなかった」
「局長レベルの発言や談話はいつでも否定できる。つまり、米国の次なる動き(見直しの全容公表など)を注意深く見守っていることを意味する」
「二、バイデン氏を名指しで非難することを避け、『米国の執権者』としていること。北朝鮮は交渉の扉を開けておくときは常にこうしたレトリックを使ってきた」
「三、米国が北朝鮮を『深刻な脅威』とした脅威に対する『相応な措置をやむを得ず講じなければならない』『米国は深刻な状況に直面する』がどうやって、何時なのか、明確に示されていない」
こう読み解いていくと、クォン局長の発言は、北朝鮮は米国の見直しの全容を注意深く見守っていることの表れ。
つまり、「火薬は湿ってはいない、何時でも撃ち返す準備態勢にある」ということなのだ。
国務省核拡散防止担当顧問が明かす見直し案
バイデン政権が見直しを完了した北朝鮮政策の中身は何か。
これまでの報道では、「一気に非核化を目指すのではなく、段階的合意を通じた解決ではないのか」とか、「核施設廃棄や核物質生産中止などを段階的に積み上げ、非核化に到達する」といった観測がされている。
しかし詳細は依然不明のままだ。
米朝交渉の経緯に詳しい米政府関係者は、筆者に「この分析記事を読むと、見直しの内容はほぼ掌握できる」とアドバイスしてくれた。
前述した米シンクタンク「スティムソン・センター」の「38 North」にロバート・アイホーン氏が寄稿した記事だ。
同氏は、米軍事管理軍縮局で軍縮交渉に携わり、その後、国務省政策立案担当次官補代理、軍事管理担当次官補などを歴任、2009年から現在まで核拡散防止担当顧問を務めている。
同氏は「Calibrated, practical approach」を「Phased approach」(段階的アプローチ)と呼んでいる。
「バイデン政権は、長期的な北朝鮮の段階的な非核化を進めるだろう」
「早期的非核化を主張する者と同様、バイデン政権の担当者は金正恩氏が核兵器を破棄するつもりはないと信じている」
「同時に強力な対北朝鮮プレッシャーをかけ続けない限り、北朝鮮は交渉に真剣には応じようとしないと信じている」
「段階的アプローチの第1ステージ、つまり交渉再開の際に北朝鮮との間で合意するアグリーメントが必要だ。それを決めるには、米国はまず日本と韓国、そして中国、ロシアと協議せねばならない」
「北朝鮮が交渉に応じた場合、何を見返りとして提示するかについての協議だ」
「2019年2月のハノイでの米朝首脳会談で、金正恩氏は寧辺放射化学研究所とその関連施設の閉鎖を提案した。見返りは国連安保理決議の破棄だった」
「トランプ氏はあくまでも核兵器とミサイルの全廃を主張したため、交渉は決裂した」
「寧辺の閉鎖は北朝鮮にとっては重大な価値を持っている。これによって北朝鮮はプルトニウムやトリチウム・ガスといった核兵器製造には不可欠な物質を生産している」
「また北朝鮮が高濃度ウラニウム(HEU)を生産可能だと公表し、国際原子力機関(IAEA)が認定できる唯一の施設でもある」
「第1ステージでの合意事項は、寧辺閉鎖と同時に北朝鮮の他の核濃縮・生産活動すべての停止を含まねばならない。そして段階的にすべての核濃縮・生産の完全停止につなげねばならない」
「北朝鮮がこれに反対することを想定して、いかにしたら核分裂性物資製造を北朝鮮全土で禁止させるか」
「寧辺以外に2~3の核関連施設と疑惑のある他の施設についてIAEAによる査察・監査をさせるように提案、これがだめなら1~2年後に北朝鮮に核関連施設を公表することを認めさせることだ」
「合意事項には、事実上一時的に禁止している豊渓里核実験場や東倉里ミサイル発射場などで行ってきた核実験と長距離ミサイル発射実験の公式かつ半永久的禁止を提案すべきだ」
「また合意事項には、北朝鮮の核関連物資および技術の他国への輸出を全面禁止することも含まれるべきだ」
「また合意事項は、北朝鮮の完全かつ立証可能な非核化へ向けた交渉を引き続き行うというコミットメントも含むべきだ」
以上のような合意事項を北朝鮮が受け入れて初めて交渉を始め、その各段階で国連安保理や米国が北朝鮮に課している制裁措置の緩和や北朝鮮が「深刻な脅威」と呼ぶ朝鮮半島に展開する米軍事力を徐々に縮小・削減させるというのである。
(https://www.38north.org/2021/03/the-north-korea-policy-review-key-choices-facing-the-biden-administration/)
文在寅氏は見直し案にどう反応するか
訪英中のアントニー・ブリンケン米国務長官は5月3日、見直し完了を踏まえてこう述べている。
「北朝鮮は(いろいろ発言しているが)発言だけでなく、これから数日から数か月間、実際にどういった行動に出るか、注視している」
見直した対北朝鮮政策の詳細について何時公表するかは言っていない。
見直しの中身を知らされたドミニク・ラーブ英外相は、北朝鮮に向かってこうすごんだ(?)
「(米国の見直し案に盛られた)外交解決を望むか否かは、北朝鮮が決断することだ」
「外交を通じて朝鮮半島の完全な非核化という目標へ進む方策がほかにあるかどうか、北朝鮮はこのチャンスをつかむよう切望する」
見直し案はロンドンで日本の茂木敏充外相にも知らされている。
前述のアイホーン氏は、記事の中で韓国の文在寅大統領についてこう書いている。
「米政府は、文在寅氏が心底、北朝鮮に圧力強化を支持するとは思っていない。文氏は残りの任期、南北関係改善という野心的なアジェンダを実現するために対北朝鮮制裁緩和の方によりご熱心のようだ」
その文在寅大統領は5月21日、ホワイトハウスでバイデン大統領から直接、米国の対北朝鮮政策見直し案を知らされる。
これを見てどう反応するか。むろんバイデン氏は反論されようとこの政策を変えるつもりはないだろう。
菅義偉首相にバイデン氏との首脳会談で先を越された文在寅大統領は、夫人同伴でジル米大統領夫人を引っ張り出して、せめて公式昼食会ぐらいやってもらいたい腹積もりのようだ。
韓国メディアによれば、支持率右肩下がりが止まらない文在寅氏は、米韓首脳会談を支持率浮揚のテコにしたいようだ。
しかし、外交を政権運営にしか使えない執権者を冠に戴く国民は不幸としか言いようがない。
----------------------------------
高濱 賛のプロフィール
Tato Takahama 米国在住のジャーナリスト
1941年生まれ、65年米カリフォルニア大学バークレー校卒業(国際関係論、ジャーナリズム専攻)。67年読売新聞入社。ワシントン特派員、総理官邸キャップ、政治部デスクを経て、同社シンクタンク・調査研究本部主任研究員。1995年からカリフォルニア大学ジャーナリズム大学院客員教授、1997年同上級研究員。1998年パシフィック・リサーチ・インスティテュート上級研究員、1999年同所長。
----------------------------------
サキ報道官は完了した対北朝鮮見直しは「Calibrated, practical approach」(調整された現実的なアプローチ)と述べたのだそうです。かみ砕いて訳すと「よく調整した、測定可能な目盛りのついた、現実的なアプローチ」だと高濱氏。
米高官の解説は以下。
詳細に明かす準備はできていないのに、『完了した』ということだけを発表せよ、との指示が国家安全保障担当補佐官あたりからあったのだろう。
北朝鮮の核兵器を全廃させるために核兵器および関連施設が破棄されていく過程が段階ごとに測定できる目盛りをつけたアプローチという意味の、Calibratedという聞きなれない表現を使用。
「バラク・オバマ元政権やドナルド・トランプ前政権の犯した過ちは繰り返さないぞ、という決意が込められている」と。
サキ発言に北朝鮮は2日後に反応。その内容への「38 North」の評価は、「米国の提案を受けてすぐ応じられるように準備万端整えている、と読むべきだ」。
その理由は3つ。
1つは、最初に反応を示したのが北朝鮮外務省の米国担当局長という局長レベルだったこと。
局長レベルの発言や談話はいつでも否定できる。つまり、米国の次なる動き(見直しの全容公表など)を注意深く見守っていることを意味する。
2つめは、バイデン氏を名指しで非難することを避け、『米国の執権者』としている点。交渉の扉を開けておくときは常にこうしたレトリックを使ってきた。
3つめは、米国の言う脅威に対する、『相応な措置をやむを得ず講じなければならない』『米国は深刻な状況に直面する』がどうやって、何時なのか、明確に示されていない。
クォン局長の発言は、北朝鮮は米国の見直しの全容を注意深く見守っていることの表れ。つまり、「火薬は湿ってはいない、何時でも撃ち返す準備態勢にある」ということなのだと。
バイデン政権が見直しを完了した北朝鮮政策の中身とは。
「一気に非核化を目指すのではなく、段階的合意を通じた解決ではないのか」とか、「核施設廃棄や核物質生産中止などを段階的に積み上げ、非核化に到達する」といった観測がされている。しかし詳細は依然不明のままだと。
米高官によると、「38 North」にロバート・アイホーン氏が寄稿した記事で見直しの内容はほぼ掌握できると。
「バイデン政権は、長期的な北朝鮮の段階的な非核化を進めるだろう」
「バイデン政権の担当者は金正恩氏が核兵器を破棄するつもりはないと信じている」
「強力な対北朝鮮プレッシャーをかけ続けない限り、北朝鮮は交渉に真剣には応じようとしないと信じている」
「段階的アプローチの第1ステージが必要で、米国はまず日本と韓国、そして中国、ロシアと協議せねばならない。北朝鮮が交渉に応じた場合、何を見返りとして提示するかについての協議だ」
「第1ステージでの合意事項は、寧辺閉鎖と同時に北朝鮮の他の核濃縮・生産活動すべての停止を含まねばならない。そして段階的にすべての核濃縮・生産の完全停止につなげねばならない」
等々とその他も。
以上のような合意事項を北朝鮮が受け入れて初めて交渉を始め、朝鮮半島に展開する米軍事力を徐々に縮小・削減させるというもの。
見直し案はロンドンで日本の茂木敏充外相にも知らされているのだそうです。
「38 North」に記事を投稿したロバート・アイホーン氏は、記事の中で韓国の文在寅大統領についても触れているのだそうです。
「米政府は、文在寅氏が心底、北朝鮮への圧力強化を支持するとは思っていない。文氏は残りの任期、南北関係改善という野心的なアジェンダを実現するために対北朝鮮制裁緩和の方によりご熱心のようだ」と。
文在寅大統領は5月21日、ホワイトハウスでバイデン大統領から直接、米国の対北朝鮮政策見直し案を知らされる。これを見てどう反応するか。
韓国メディアによれば、支持率右肩下がりが止まらない文在寅氏は、米韓首脳会談を支持率浮揚のテコにしたいようだが、外交を政権運営にしか使えない執権者を冠に戴く国民は不幸としか言いようがないと高濱氏。
来る大統領選で、韓国民の方々が、どのような選択をされるのか。八方塞がりの文在寅氏が、師事した廬武鉉氏と同じ道をたどらないことを祈っています。
#冒頭の画像は、サキ報道官
この花の名前は、ハクサンハタザオ
↓よろしかったら、お願いします。