6月27日夜(日本時間28日午前)、バイデン大統領とトランプ前大統領との最初のテレビ討論会がCNNを通じて行われた。
リードされているバイデン大統領にとっては挽回のチャンスであり、山荘に一週間こもって準備に専念したと報じられた。
そんな討論会の軍配はどちらに上がったのか。
討論会後に米国内から出て来た反応はトランプ勝利である。生中継したCNNの視聴者調査では、67%がトランプのパフォーマンスの方が良かったと答え、バイデンの方が良かったと回答した33%を大きく上回った。
最大の理由は、バイデン氏が見せるべき力強さやスタミナを見せられなかったことである。
81歳になったバイデン氏の健康問題は、大きな懸念材料として頻繁に取り上げられてきた。
バイデン氏としては、この直接対決の場で、何としても高齢による健康不安を吹き飛ばすパフォーマンスを見せたかっただろう。しかし、そんな不安は払拭されるどころか、より大きなものとなったと、小原名誉教授。
第一に、演台に登場する際の足取りはやはり不安を感じさせた。
第二に、バイデン氏の声はしわがれ、張りがなかった。トランプ氏がよく通る声で力強く発言していたのとは対照的。
第三に、最初のテーマとなった経済や移民の問題について答える中で、バイデン氏が言い淀んでしまう場面があり、発言が尻切れトンボに終わってしまった。
この失敗をトランプ氏は見逃さず、次の様に指摘。
≪私には彼が最後のセンテンスで何を言ったのか分からなかった。彼自身も何を言ったか分からなかったのだと思う≫
トランプ氏は、認知能力テストを2回受けたと主張し、ゴルフのハンディにまで言及して自らの健康状態がすこぶるよいことをアピール。
今回のテレビ討論会では、2020年の討論会でトランプ氏が頻繁に行った割り込みや妨害の発言を防ぐために、発言が終わればマイクをミュートにするルールが導入された。
これがバイデン大統領に有利に働くだろうとの見方もあったが、結果はむしろトランプ氏に有利に働いたようだと、小原名誉教授。
トランプ氏の姿は4年前の正気を失したような興奮状態とは対照的で、見る者に落ち着いた印象さえ与えたのではないか。トランプ氏の過激さが抑えられたことは無党派層に影響を与えた可能性があるとも。
一方、バイデン氏は、トランプ氏の発言にあきれ返るとでもいうような驚きの表情を何度も見せた。そこに、トランプ氏の嘘と不誠実さを印象付けようとする意図があったとしても、そのポカンとした表情は力強さや鋭敏さを欠いて、なすすべなしとの弱さを露呈しているようにも感じられたと、小原名誉教授。
討論会の中身はと言えば、事実かどうか疑わしい発言や聴衆に誤解を与える発言が多く、双方の主張はかみ合わなかった。討論会後、バイデン氏は、「嘘つきとの論争は難しい」と釈明したが、トランプ氏の嘘を交えた一方的な主張に対し、効果的に反論できたとはとても言えないだろう。
トランプ氏の発言には、明らかな嘘が多く、CNNは30回以上の事実でない主張を行ったと発表した。
討論会直後、民主党内から、「惨憺たる結果」との声が出たのだそうです。
『ニューヨークタイムズ』は、民主党内の反応を紹介しながら、バイデン氏に代わる候補の選出について動きが出る可能性を報じた。
『ニューヨークタイムズ』は、バイデン大統領に撤退を促す社説を掲載。
≪今、バイデン大統領にできる最大の公的奉仕は、再選に向けての立候補をしないと発表することである≫
と。
6月29日付英『エコノミスト』誌は、「今、バイデン氏は自らに代わる候補者に道を譲るべきだ」と題する記事を掲載したのだそうです。
バイデン氏に代わる大統領候補の筆頭として米主要紙が真っ先に名前を挙げるのが、カリフォルニア州知事のギャビン・ニューサム(56歳)やイリノイ州知事のJ.B.プリツカー(59歳)である。ケンタッキー州知事のアンディ・ベシア(46歳)、ペンシルベニア州知事のジョシュ・シャピロ(51歳)、ミシガン州知事のグレッチェン・ホィットマー(52歳)らの名前も出る。
バイデン政権の閣僚にも有能な人物は少なくない。運輸長官のピート・ブティジェッジ(42歳)や商務長官のジーナ・レモンド(57歳)への期待は大きい。また、ジョージア州選出上院議員のラファエル・ワーノック(54歳)の評価も高いと、小原名誉教授。
民主党には、バイデン氏より30歳以上も若い有能な人材が少なくない。民主党全国大会(8月19日~22日)前にバイデン氏が立候補を取り下げれば、これらの人物がバイデン氏に代わる候補として名乗り出るだろう。
それは、メディアや国民の関心をトランプ氏から遠ざけ、民主党に引き寄せることを意味する。
トランプ氏よりはるかに若く、進取の気性に富んだ候補者が民主党から誕生すれば、選挙戦は一変し、民主党優位に転じる可能性が十分あると、小原名誉教授。
民主党はこのままバイデン氏を担いで大統領選挙に進むのか、それとも、バイデン氏に翻意を促して新たな候補を指名することになるのか。
民主党はとてつもなく悩ましい選択に直面していると、小原名誉教授。
共和党候補の指名獲得レースでドナルド・トランプ前大統領に次ぐ2位だったヘイリー氏は、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)とのインタビューで、共和党としては、バイデン氏が候補を外れればそれだけでトランプ氏が有利になると考えるべきではないと述べた。
共和党でトランプ氏と戦ったヘイリー氏は「民主党はこの件で賢い判断を下すだろう。より若い候補、活力のある候補、経験もある候補を出すはずだ」とし、「ジョー・バイデン氏を引き続き候補にすれば民主党の存続はありえないため、共和党としても次の一手に向けて準備を進めるべき時だ」と警告を発していますね。
ヘイリー氏、トランプ氏に警告 民主候補交代に備えよ - WSJ
# 冒頭の画像は、ジル夫人とともに討論会場を後にするバイデン氏(写真:ロイター/アフロ)
この花の名前は、ダイヤーズカモミール
↓よろしかったら、お願いします。
遊爺さんの写真素材 - PIXTA
月刊Hanada2024年2月号 - 花田紀凱, 月刊Hanada編集部 - Google ブックス
リードされているバイデン大統領にとっては挽回のチャンスであり、山荘に一週間こもって準備に専念したと報じられた。
そんな討論会の軍配はどちらに上がったのか。
【米大統領選の行方】テレビ討論でバイデン完敗 民主党は81歳を担ぎ続けるのか、新たな候補を指名するのか 異例の高齢者対決、「トランプ勝利が67%」(CNN調査)の波紋 | JBpress (ジェイビープレス) 2024.7.1(月) 小原 雅博
・バイデン大統領とトランプ前大統領のテレビ討論会が開かれ、生中継したCNNの視聴者調査では、67%がトランプのパフォーマンスの方が良かったと答え、33%だったバイデンを大きく上回った。
・以前から懸念材料と指摘されてきた健康不安の払拭を目指したバイデン大統領だったが、年齢による衰えは隠せず、民主党からも「(討論会は)惨憺たる結果」との声が出ている。
・メディアからはバイデン大統領の辞退を促す論調も聞かれる。本人の決断次第だが、仮に若くて進取の気性に富んだ候補者が登場すれば、選挙戦が一変する可能性もある。
(小原 雅博:東京大学名誉教授、元外交官)
討論会の軍配はトランプに
6月27日夜(日本時間28日午前)、バイデン大統領とトランプ前大統領との最初のテレビ討論会がCNNを通じて行われた。
11月の大統領選挙で誰に投票するかを尋ねた各種世論調査の結果によれば、トランプ氏がわずかにリードする形で大接戦を繰り広げている。討論会での出来不出来は選挙戦の流れを変えかねない。
特に、リードされているバイデン大統領にとっては挽回のチャンスであり、山荘に一週間こもって準備に専念したと報じられた。
そんな討論会の軍配はどちらに上がったのか。
過去の討論会では、発言の中身もさることながら、発言のスタイル、表情、所作がより大きな評価のポイントとなってきた。今回、両者の発言やパフォーマンスは有権者にどんな印象を与えたのだろう。選挙のカギを握る無党派層や態度未定者にアピールできたのはどちらだろう。
討論会後に米国内から出て来た反応はトランプ勝利である。生中継したCNNの視聴者調査では、67%がトランプのパフォーマンスの方が良かったと答え、バイデンの方が良かったと回答した33%を大きく上回った。
払拭どころか強まったバイデン氏の健康不安
最大の理由は、バイデン氏が見せるべき力強さやスタミナを見せられなかったことである。
81歳になったバイデン氏の健康問題は2期目を目指すと公言して以来、大きな懸念材料として頻繁に取り上げられてきた。本人は、年齢より実績を見て欲しいと訴えてきたが、衰えは隠せず、大統領という重職をさらに4年務めることができるのか、不安がつきまとう。
これまでトランプ氏は、「スリーピージョー」を連発し、年齢によるバイデン氏の衰えを強調してきた。バイデン氏としては、この直接対決の場で、何としても高齢による健康不安を吹き飛ばすパフォーマンスを見せたかっただろう。しかし、そんな不安は払拭されるどころか、より大きなものとなった。
老化による身体能力の低下は隠せず
第一に、演台に登場する際の足取りはやはり不安を感じさせた。
バイデン氏はこれまでも転んだり、転びそうになったりしたことがある。それだけに筆者は注意深く彼の登場シーンを見つめた。残念ながら、そこに力強く颯爽と現れる大統領の姿はなかった。
よろめくようなことはなかったものの、老化による身体能力の低下は隠せなかった。一方、78歳のトランプ氏はそんな不安を感じさせなかった。
第二に、バイデン氏の声はしわがれ、張りがなかった。トランプ氏がよく通る声で力強く発言していたのとは対照的であった。
発言の中身やスタイルにおいては、トランプ氏がより攻撃的であり、バイデン氏はより防御的であった。そのこともあってか、全体的な印象としてバイデン氏には力強さでトランプ氏に及ばなかった。
トランプ氏は討論会の前に、「(バイデン氏の側近たちが)バイデン氏のお尻に注射して、彼を興奮させるだろう」と揶揄していた。そんな揶揄をものともしないパフォーマンスが期待されたが、結果は惨憺たるものであった。
討論会後に大統領周辺からは、バイデン氏が少し前に風邪を引いていたとの情報が流れた。バイデン氏の声がしわがれたことへの釈明であろうが、それは却って低調なパフォーマンスを認める格好となった。
第三に、最初のテーマとなった経済や移民の問題について答える中で、バイデン氏が言い淀んでしまう場面があり、発言が尻切れトンボに終わってしまった。この失敗をトランプ氏は見逃さず、こう指摘して、視聴者の不安を募らせた。
≪私には彼が最後のセンテンスで何を言ったのか分からなかった。彼自身も何を言ったか分からなかったのだと思う≫
トランプ氏の指摘が正しかったように思えるシーンであり、今後、このシーンは認知機能に不安があるとしてトランプ氏と共和党に利用されるかもしれない。筆者の心配が的中するかのように、その後、この場面は「サウンドバイト」的にメディアやSNSで繰り返し流された。
ゴルフの「実力」で主導権を握ったトランプ
一方、トランプ氏は、認知能力テストを2回受けたと主張し、ゴルフのハンディにまで言及して自らの健康状態がすこぶるよいことをアピールした。ゴルフの試合で 2回優勝した実績も披歴して、頭脳明晰で、球を遠くまで飛ばせる力がなければ達成できない記録だと自慢した。
その時のやり取りを取り上げてみよう。
トランプ「彼(バイデン)は球を50ヤード飛ばせない」
バイデン「バッグを担いで回るなら、喜んで試合に応じよう。私はハンディキャップを持っている。副大統領時代のベストスコアは平均して6オーバーだった」
トランプ「それは、まったくもって最大の嘘だ。私は彼のスイングを見たことがある」
トランプ氏は先の大統領時代もゴルフをする光景がよく報じられた。安倍晋三首相(当時)はそんな大統領とゴルフを通じて親交を深めた。その一方で、大統領の任にある者としては、ゴルフに費やす時間が多過ぎるとの批判も出た。
しかし、そんな批判にこそ、トランプ氏がバイデン氏よりゴルフが上手で健康だと思わせる効果があったかも知れない。討論会でのトランプ氏の自慢話にどれだけの人が納得したかは不明だが、バイデン氏がトランプ氏のように、愛好するスポーツを持ち出して、自らの健康をアピールできなかったことは戦術的失敗と言えるのではないか。
異例の高齢者対決において、健康を競ったやりとりはトランプ氏に軍配が上がったようだ。
「マイク・ミュート」はトランプ有利に?
今回のテレビ討論会では、2020年の討論会でトランプ氏が頻繁に行った割り込みや妨害の発言を防ぐために、発言が終わればマイクをミュートにするルールが導入された。これがバイデン大統領に有利に働くだろうとの見方もあったが、結果はむしろトランプ氏に有利に働いたようだ。
4年前には、トランプ氏の錯乱気味のパフォーマンスが無党派層の不興を買ったとの指摘があった。今回、新しいルールの下で、トランプ氏が静かにバイデン大統領の発言を聴かざるを得なくなった。
だが、そんなトランプ氏の姿は4年前の正気を失したような興奮状態とは対照的で、見る者に落ち着いた印象さえ与えたのではないか。トランプ氏の過激さが抑えられたことは無党派層に影響を与えた可能性がある。
かつて共和党の大統領候補となったレーガン氏(当時、カリフォルニア州知事)は、その「戦闘的な反共主義者」(キッシンジャー 『外交』)のイメージで支持を集めたが、そこに危うさを感じた有権者には理性や正気を印象付ける必要にも迫られた。
1980年のカーター大統領との討論会で、レーガン氏は「過激主義者」や「戦争屋」と呼ばれ、戦争か平和かを選択する選挙だと詰め寄られたが、それに激しく反応しないで、カリフォルニア州での実績を強調し、軍縮の必要性にも触れるなど、過激さを封印し、討論に勝利した。
トランプ陣営が「マイク・ミュート」方式を受け入れた背景には、そんなイメージチェンジの効果を狙った戦術的計算があったのかもしれない。
一方、バイデン氏は、トランプ氏の発言にあきれ返るとでもいうような驚きの表情を何度も見せた。そこに、トランプ氏の嘘と不誠実さを印象付けようとする意図があったとしても、そのポカンとした表情は力強さや鋭敏さを欠いて、なすすべなしとの弱さを露呈しているようにも感じられた。
発言の内容やスタイルがより攻撃的なトランプ氏に比較して、防御的なバイデン氏のスタイルも影響したであろう。全体的に「独裁者」に挑んでいく覇気と力強さに欠けた印象を持たざるを得なかった。
トランプが繰り返した嘘とミスリード
討論会の中身はと言えば、事実かどうか疑わしい発言や聴衆に誤解を与える発言が多く、双方の主張はかみ合わなかった。討論会後、バイデン氏は、「嘘つきとの論争は難しい」と釈明したが、トランプ氏の嘘を交えた一方的な主張に対し、効果的に反論できたとはとても言えないだろう。
トランプ氏の発言には、明らかな嘘が多く、CNNは30回以上の事実でない主張を行ったと発表した。
いくつか挙げてみよう。
民主党主導の州では、生まれた後でも赤ん坊を殺すことが許される。
トランプ政権下では、テロ攻撃もイランによる武装勢力への資金提供もなかった。
米国は欧州よりも多くの支援をウクライナに供与している。
バイデン氏は何年にもわたって黒人を「とてつもない略奪者」と呼んできた。
バイデン氏は国民の税金を4倍にしようと計画している。
(トランプ支持者による米議会襲撃事件のあった)2021年1月6日、ナンシー・ペローシ下院議長(当時)は1万人の国家警備隊の議会警護を断った。
米国民は中国や他国に科された関税のコストを払わされてはいない。
欧州は米国車を受け入れていない。
不正手段が2020年の選挙結果を台なしにした。
こうした事実に反する主張に対し、バイデン氏は時間の制約もあったであろうが、効果的な反論ができなかった。また、CNNの2人の司会進行役が訂正することもしなかった。
大統領候補の発言が正確な事実に基づいているのかどうかを聴衆が即座に判断するのは難しいだろう。CNNや主要メディアは、討論会後に、発言の真偽を発表したが、その発表を確認した聴衆がどれだけいたであろうか。即座に真偽確認されない発言が多くの聴衆の認識を形づくることになれば、民主主義は失敗する。
それが超大国の指導者を選ぶための討論会なら、世界にとっても深刻である。偽情報を防ぎ、デマゴーグに居場所を与えないためにも、発言は直ちに「ファクトチェック」され、それが画面上にテキスト表示されるような措置が導入されるべきだろう。
「惨憺たる結果」と動揺する民主党
討論会直後、民主党内から、「惨憺たる結果」との声が出た。
そんな声を代弁するかのように、ある予想では、バイデン氏を民主党大会で指名する掛け率が26%も低下し、60%となった。『ニューヨークタイムズ』は、民主党内の反応を紹介しながら、バイデン氏に代わる候補の選出について動きが出る可能性を報じた。
しかし、この時点での交代は、現実的にもルール上も難しい。あるとすれば、バイデン大統領が自主的に辞退することだが、本人にその気はないようであり、討論会の翌日、バイデン氏はこう語った。
≪自分は若くないことは分かっている。以前ほど楽に歩けない、以前ほど流暢に話せない、以前ほどうまく討論できない。・・・しかし、この仕事をやり遂げられると心の底から信じていなければ、再出馬はしない≫
バイデン氏の頑固さには定評がある。トランプ氏を破って民主主義を救えるのは自分しかいないと思い定めているかのようだ。そんな彼の堅い意志を変えられるとすれば、バイデン夫人のジルさんしかいないとも言われるが、ジルさんは熱烈なバイデン続投支持者であると見られてきた。
ここに至って、『ニューヨークタイムズ』は、バイデン大統領に撤退を促す社説を掲載して、こう明言した。
≪今、バイデン大統領にできる最大の公的奉仕は、再選に向けての立候補をしないと発表することである≫
こうした声を受けて、バイデン氏は態度を変えるであろうか。夫人のジルさんは最愛の夫に引退を勧めるだろうか。
いずれにせよ、バイデン氏が立候補を辞退しない限り、討論会が印象付けたトランプ勝利の構図は変わらないまま、11月に流れ込む可能性が高い。そうなれば、トランプ氏がホワイトハウスの主に返り咲き、米国や世界の混迷がさらに深まる公算が高まる。
バイデンに代わる新たな候補は生まれるか?
6月29日付英『エコノミスト』誌は、「今、バイデン氏は自らに代わる候補者に道を譲るべきだ」と題する記事を掲載した。
バイデン氏に代わる候補として、トランプ氏を退ける、若く力強い政治家がいるだろうか。欧米主要メディアに名前が挙がるのは、次のような顔ぶれである。
まず、副大統領のカマラ・ハリスである。ハリス氏は、バイデン大統領が任期中に退任した場合には、自動的にその後任になるが、11月の大統領選挙の民主党候補になるためには、代議員の過半数の支持が必要である。
しかし、3月の世論調査が示す通り、ハリス氏がトランプ氏に勝てると答えた有権者は3分の1に止まる。チャンスは小さいと見られる。
バイデン氏に代わる大統領候補の筆頭として米主要紙が真っ先に名前を挙げるのが、カリフォルニア州知事のギャビン・ニューサム(56歳)やイリノイ州知事のJ.B.プリツカー(59歳)である。ケンタッキー州知事のアンディ・ベシア(46歳)、ペンシルベニア州知事のジョシュ・シャピロ(51歳)、ミシガン州知事のグレッチェン・ホィットマー(52歳)らの名前も出る。
バイデン政権の閣僚にも有能な人物は少なくない。運輸長官のピート・ブティジェッジ(42歳)や商務長官のジーナ・レモンド(57歳)への期待は大きい。また、ジョージア州選出上院議員のラファエル・ワーノック(54歳)の評価も高い。
選挙戦が一変、民主党優位に転じる可能性も
こう見て来ると、民主党には、バイデン氏より30歳以上も若い有能な人材が少なくない。民主党全国大会(8月19日~22日)前にバイデン氏が立候補を取り下げれば、これらの人物がバイデン氏に代わる候補として名乗り出るだろう。
それは、メディアや国民の関心をトランプ氏から遠ざけ、民主党に引き寄せることを意味する。時間が限られる中での新たな候補の選出は民主党内の混乱や対立を招く恐れもあるが、トランプ氏よりはるかに若く、進取の気性に富んだ候補者が民主党から誕生すれば、選挙戦は一変し、民主党優位に転じる可能性が十分ある。
民主党全国大会まで2カ月を切り、大統領選挙まで4カ月余りとなった。民主党はこのままバイデン氏を担いで大統領選挙に進むのか、それとも、バイデン氏に翻意を促して新たな候補を指名することになるのか。
この先何が起きるか、まだまだ予断を許さない。一つだけ確かなことは、バイデン氏に代わる大統領候補もまたトランプ氏に勝てる保証はないということだ。国家の命運がかかる選挙が近づく中、民主党はとてつもなく悩ましい選択に直面している。
---------------------------------------------------------------------
小原 雅博(こはら・まさひろ)
東京大学名誉教授。国際関係学博士。現在、名城大学特任教授や立命館アジア太平洋大学客員教授などの他、企業のアドバイザーなどを務める。1980年~2015年、外務省勤務。2015年~21年、東京大学大学院法学政治学研究科教授。
・バイデン大統領とトランプ前大統領のテレビ討論会が開かれ、生中継したCNNの視聴者調査では、67%がトランプのパフォーマンスの方が良かったと答え、33%だったバイデンを大きく上回った。
・以前から懸念材料と指摘されてきた健康不安の払拭を目指したバイデン大統領だったが、年齢による衰えは隠せず、民主党からも「(討論会は)惨憺たる結果」との声が出ている。
・メディアからはバイデン大統領の辞退を促す論調も聞かれる。本人の決断次第だが、仮に若くて進取の気性に富んだ候補者が登場すれば、選挙戦が一変する可能性もある。
(小原 雅博:東京大学名誉教授、元外交官)
討論会の軍配はトランプに
6月27日夜(日本時間28日午前)、バイデン大統領とトランプ前大統領との最初のテレビ討論会がCNNを通じて行われた。
11月の大統領選挙で誰に投票するかを尋ねた各種世論調査の結果によれば、トランプ氏がわずかにリードする形で大接戦を繰り広げている。討論会での出来不出来は選挙戦の流れを変えかねない。
特に、リードされているバイデン大統領にとっては挽回のチャンスであり、山荘に一週間こもって準備に専念したと報じられた。
そんな討論会の軍配はどちらに上がったのか。
過去の討論会では、発言の中身もさることながら、発言のスタイル、表情、所作がより大きな評価のポイントとなってきた。今回、両者の発言やパフォーマンスは有権者にどんな印象を与えたのだろう。選挙のカギを握る無党派層や態度未定者にアピールできたのはどちらだろう。
討論会後に米国内から出て来た反応はトランプ勝利である。生中継したCNNの視聴者調査では、67%がトランプのパフォーマンスの方が良かったと答え、バイデンの方が良かったと回答した33%を大きく上回った。
払拭どころか強まったバイデン氏の健康不安
最大の理由は、バイデン氏が見せるべき力強さやスタミナを見せられなかったことである。
81歳になったバイデン氏の健康問題は2期目を目指すと公言して以来、大きな懸念材料として頻繁に取り上げられてきた。本人は、年齢より実績を見て欲しいと訴えてきたが、衰えは隠せず、大統領という重職をさらに4年務めることができるのか、不安がつきまとう。
これまでトランプ氏は、「スリーピージョー」を連発し、年齢によるバイデン氏の衰えを強調してきた。バイデン氏としては、この直接対決の場で、何としても高齢による健康不安を吹き飛ばすパフォーマンスを見せたかっただろう。しかし、そんな不安は払拭されるどころか、より大きなものとなった。
老化による身体能力の低下は隠せず
第一に、演台に登場する際の足取りはやはり不安を感じさせた。
バイデン氏はこれまでも転んだり、転びそうになったりしたことがある。それだけに筆者は注意深く彼の登場シーンを見つめた。残念ながら、そこに力強く颯爽と現れる大統領の姿はなかった。
よろめくようなことはなかったものの、老化による身体能力の低下は隠せなかった。一方、78歳のトランプ氏はそんな不安を感じさせなかった。
第二に、バイデン氏の声はしわがれ、張りがなかった。トランプ氏がよく通る声で力強く発言していたのとは対照的であった。
発言の中身やスタイルにおいては、トランプ氏がより攻撃的であり、バイデン氏はより防御的であった。そのこともあってか、全体的な印象としてバイデン氏には力強さでトランプ氏に及ばなかった。
トランプ氏は討論会の前に、「(バイデン氏の側近たちが)バイデン氏のお尻に注射して、彼を興奮させるだろう」と揶揄していた。そんな揶揄をものともしないパフォーマンスが期待されたが、結果は惨憺たるものであった。
討論会後に大統領周辺からは、バイデン氏が少し前に風邪を引いていたとの情報が流れた。バイデン氏の声がしわがれたことへの釈明であろうが、それは却って低調なパフォーマンスを認める格好となった。
第三に、最初のテーマとなった経済や移民の問題について答える中で、バイデン氏が言い淀んでしまう場面があり、発言が尻切れトンボに終わってしまった。この失敗をトランプ氏は見逃さず、こう指摘して、視聴者の不安を募らせた。
≪私には彼が最後のセンテンスで何を言ったのか分からなかった。彼自身も何を言ったか分からなかったのだと思う≫
トランプ氏の指摘が正しかったように思えるシーンであり、今後、このシーンは認知機能に不安があるとしてトランプ氏と共和党に利用されるかもしれない。筆者の心配が的中するかのように、その後、この場面は「サウンドバイト」的にメディアやSNSで繰り返し流された。
ゴルフの「実力」で主導権を握ったトランプ
一方、トランプ氏は、認知能力テストを2回受けたと主張し、ゴルフのハンディにまで言及して自らの健康状態がすこぶるよいことをアピールした。ゴルフの試合で 2回優勝した実績も披歴して、頭脳明晰で、球を遠くまで飛ばせる力がなければ達成できない記録だと自慢した。
その時のやり取りを取り上げてみよう。
トランプ「彼(バイデン)は球を50ヤード飛ばせない」
バイデン「バッグを担いで回るなら、喜んで試合に応じよう。私はハンディキャップを持っている。副大統領時代のベストスコアは平均して6オーバーだった」
トランプ「それは、まったくもって最大の嘘だ。私は彼のスイングを見たことがある」
トランプ氏は先の大統領時代もゴルフをする光景がよく報じられた。安倍晋三首相(当時)はそんな大統領とゴルフを通じて親交を深めた。その一方で、大統領の任にある者としては、ゴルフに費やす時間が多過ぎるとの批判も出た。
しかし、そんな批判にこそ、トランプ氏がバイデン氏よりゴルフが上手で健康だと思わせる効果があったかも知れない。討論会でのトランプ氏の自慢話にどれだけの人が納得したかは不明だが、バイデン氏がトランプ氏のように、愛好するスポーツを持ち出して、自らの健康をアピールできなかったことは戦術的失敗と言えるのではないか。
異例の高齢者対決において、健康を競ったやりとりはトランプ氏に軍配が上がったようだ。
「マイク・ミュート」はトランプ有利に?
今回のテレビ討論会では、2020年の討論会でトランプ氏が頻繁に行った割り込みや妨害の発言を防ぐために、発言が終わればマイクをミュートにするルールが導入された。これがバイデン大統領に有利に働くだろうとの見方もあったが、結果はむしろトランプ氏に有利に働いたようだ。
4年前には、トランプ氏の錯乱気味のパフォーマンスが無党派層の不興を買ったとの指摘があった。今回、新しいルールの下で、トランプ氏が静かにバイデン大統領の発言を聴かざるを得なくなった。
だが、そんなトランプ氏の姿は4年前の正気を失したような興奮状態とは対照的で、見る者に落ち着いた印象さえ与えたのではないか。トランプ氏の過激さが抑えられたことは無党派層に影響を与えた可能性がある。
かつて共和党の大統領候補となったレーガン氏(当時、カリフォルニア州知事)は、その「戦闘的な反共主義者」(キッシンジャー 『外交』)のイメージで支持を集めたが、そこに危うさを感じた有権者には理性や正気を印象付ける必要にも迫られた。
1980年のカーター大統領との討論会で、レーガン氏は「過激主義者」や「戦争屋」と呼ばれ、戦争か平和かを選択する選挙だと詰め寄られたが、それに激しく反応しないで、カリフォルニア州での実績を強調し、軍縮の必要性にも触れるなど、過激さを封印し、討論に勝利した。
トランプ陣営が「マイク・ミュート」方式を受け入れた背景には、そんなイメージチェンジの効果を狙った戦術的計算があったのかもしれない。
一方、バイデン氏は、トランプ氏の発言にあきれ返るとでもいうような驚きの表情を何度も見せた。そこに、トランプ氏の嘘と不誠実さを印象付けようとする意図があったとしても、そのポカンとした表情は力強さや鋭敏さを欠いて、なすすべなしとの弱さを露呈しているようにも感じられた。
発言の内容やスタイルがより攻撃的なトランプ氏に比較して、防御的なバイデン氏のスタイルも影響したであろう。全体的に「独裁者」に挑んでいく覇気と力強さに欠けた印象を持たざるを得なかった。
トランプが繰り返した嘘とミスリード
討論会の中身はと言えば、事実かどうか疑わしい発言や聴衆に誤解を与える発言が多く、双方の主張はかみ合わなかった。討論会後、バイデン氏は、「嘘つきとの論争は難しい」と釈明したが、トランプ氏の嘘を交えた一方的な主張に対し、効果的に反論できたとはとても言えないだろう。
トランプ氏の発言には、明らかな嘘が多く、CNNは30回以上の事実でない主張を行ったと発表した。
いくつか挙げてみよう。
民主党主導の州では、生まれた後でも赤ん坊を殺すことが許される。
トランプ政権下では、テロ攻撃もイランによる武装勢力への資金提供もなかった。
米国は欧州よりも多くの支援をウクライナに供与している。
バイデン氏は何年にもわたって黒人を「とてつもない略奪者」と呼んできた。
バイデン氏は国民の税金を4倍にしようと計画している。
(トランプ支持者による米議会襲撃事件のあった)2021年1月6日、ナンシー・ペローシ下院議長(当時)は1万人の国家警備隊の議会警護を断った。
米国民は中国や他国に科された関税のコストを払わされてはいない。
欧州は米国車を受け入れていない。
不正手段が2020年の選挙結果を台なしにした。
こうした事実に反する主張に対し、バイデン氏は時間の制約もあったであろうが、効果的な反論ができなかった。また、CNNの2人の司会進行役が訂正することもしなかった。
大統領候補の発言が正確な事実に基づいているのかどうかを聴衆が即座に判断するのは難しいだろう。CNNや主要メディアは、討論会後に、発言の真偽を発表したが、その発表を確認した聴衆がどれだけいたであろうか。即座に真偽確認されない発言が多くの聴衆の認識を形づくることになれば、民主主義は失敗する。
それが超大国の指導者を選ぶための討論会なら、世界にとっても深刻である。偽情報を防ぎ、デマゴーグに居場所を与えないためにも、発言は直ちに「ファクトチェック」され、それが画面上にテキスト表示されるような措置が導入されるべきだろう。
「惨憺たる結果」と動揺する民主党
討論会直後、民主党内から、「惨憺たる結果」との声が出た。
そんな声を代弁するかのように、ある予想では、バイデン氏を民主党大会で指名する掛け率が26%も低下し、60%となった。『ニューヨークタイムズ』は、民主党内の反応を紹介しながら、バイデン氏に代わる候補の選出について動きが出る可能性を報じた。
しかし、この時点での交代は、現実的にもルール上も難しい。あるとすれば、バイデン大統領が自主的に辞退することだが、本人にその気はないようであり、討論会の翌日、バイデン氏はこう語った。
≪自分は若くないことは分かっている。以前ほど楽に歩けない、以前ほど流暢に話せない、以前ほどうまく討論できない。・・・しかし、この仕事をやり遂げられると心の底から信じていなければ、再出馬はしない≫
バイデン氏の頑固さには定評がある。トランプ氏を破って民主主義を救えるのは自分しかいないと思い定めているかのようだ。そんな彼の堅い意志を変えられるとすれば、バイデン夫人のジルさんしかいないとも言われるが、ジルさんは熱烈なバイデン続投支持者であると見られてきた。
ここに至って、『ニューヨークタイムズ』は、バイデン大統領に撤退を促す社説を掲載して、こう明言した。
≪今、バイデン大統領にできる最大の公的奉仕は、再選に向けての立候補をしないと発表することである≫
こうした声を受けて、バイデン氏は態度を変えるであろうか。夫人のジルさんは最愛の夫に引退を勧めるだろうか。
いずれにせよ、バイデン氏が立候補を辞退しない限り、討論会が印象付けたトランプ勝利の構図は変わらないまま、11月に流れ込む可能性が高い。そうなれば、トランプ氏がホワイトハウスの主に返り咲き、米国や世界の混迷がさらに深まる公算が高まる。
バイデンに代わる新たな候補は生まれるか?
6月29日付英『エコノミスト』誌は、「今、バイデン氏は自らに代わる候補者に道を譲るべきだ」と題する記事を掲載した。
バイデン氏に代わる候補として、トランプ氏を退ける、若く力強い政治家がいるだろうか。欧米主要メディアに名前が挙がるのは、次のような顔ぶれである。
まず、副大統領のカマラ・ハリスである。ハリス氏は、バイデン大統領が任期中に退任した場合には、自動的にその後任になるが、11月の大統領選挙の民主党候補になるためには、代議員の過半数の支持が必要である。
しかし、3月の世論調査が示す通り、ハリス氏がトランプ氏に勝てると答えた有権者は3分の1に止まる。チャンスは小さいと見られる。
バイデン氏に代わる大統領候補の筆頭として米主要紙が真っ先に名前を挙げるのが、カリフォルニア州知事のギャビン・ニューサム(56歳)やイリノイ州知事のJ.B.プリツカー(59歳)である。ケンタッキー州知事のアンディ・ベシア(46歳)、ペンシルベニア州知事のジョシュ・シャピロ(51歳)、ミシガン州知事のグレッチェン・ホィットマー(52歳)らの名前も出る。
バイデン政権の閣僚にも有能な人物は少なくない。運輸長官のピート・ブティジェッジ(42歳)や商務長官のジーナ・レモンド(57歳)への期待は大きい。また、ジョージア州選出上院議員のラファエル・ワーノック(54歳)の評価も高い。
選挙戦が一変、民主党優位に転じる可能性も
こう見て来ると、民主党には、バイデン氏より30歳以上も若い有能な人材が少なくない。民主党全国大会(8月19日~22日)前にバイデン氏が立候補を取り下げれば、これらの人物がバイデン氏に代わる候補として名乗り出るだろう。
それは、メディアや国民の関心をトランプ氏から遠ざけ、民主党に引き寄せることを意味する。時間が限られる中での新たな候補の選出は民主党内の混乱や対立を招く恐れもあるが、トランプ氏よりはるかに若く、進取の気性に富んだ候補者が民主党から誕生すれば、選挙戦は一変し、民主党優位に転じる可能性が十分ある。
民主党全国大会まで2カ月を切り、大統領選挙まで4カ月余りとなった。民主党はこのままバイデン氏を担いで大統領選挙に進むのか、それとも、バイデン氏に翻意を促して新たな候補を指名することになるのか。
この先何が起きるか、まだまだ予断を許さない。一つだけ確かなことは、バイデン氏に代わる大統領候補もまたトランプ氏に勝てる保証はないということだ。国家の命運がかかる選挙が近づく中、民主党はとてつもなく悩ましい選択に直面している。
---------------------------------------------------------------------
小原 雅博(こはら・まさひろ)
東京大学名誉教授。国際関係学博士。現在、名城大学特任教授や立命館アジア太平洋大学客員教授などの他、企業のアドバイザーなどを務める。1980年~2015年、外務省勤務。2015年~21年、東京大学大学院法学政治学研究科教授。
討論会後に米国内から出て来た反応はトランプ勝利である。生中継したCNNの視聴者調査では、67%がトランプのパフォーマンスの方が良かったと答え、バイデンの方が良かったと回答した33%を大きく上回った。
最大の理由は、バイデン氏が見せるべき力強さやスタミナを見せられなかったことである。
81歳になったバイデン氏の健康問題は、大きな懸念材料として頻繁に取り上げられてきた。
バイデン氏としては、この直接対決の場で、何としても高齢による健康不安を吹き飛ばすパフォーマンスを見せたかっただろう。しかし、そんな不安は払拭されるどころか、より大きなものとなったと、小原名誉教授。
第一に、演台に登場する際の足取りはやはり不安を感じさせた。
第二に、バイデン氏の声はしわがれ、張りがなかった。トランプ氏がよく通る声で力強く発言していたのとは対照的。
第三に、最初のテーマとなった経済や移民の問題について答える中で、バイデン氏が言い淀んでしまう場面があり、発言が尻切れトンボに終わってしまった。
この失敗をトランプ氏は見逃さず、次の様に指摘。
≪私には彼が最後のセンテンスで何を言ったのか分からなかった。彼自身も何を言ったか分からなかったのだと思う≫
トランプ氏は、認知能力テストを2回受けたと主張し、ゴルフのハンディにまで言及して自らの健康状態がすこぶるよいことをアピール。
今回のテレビ討論会では、2020年の討論会でトランプ氏が頻繁に行った割り込みや妨害の発言を防ぐために、発言が終わればマイクをミュートにするルールが導入された。
これがバイデン大統領に有利に働くだろうとの見方もあったが、結果はむしろトランプ氏に有利に働いたようだと、小原名誉教授。
トランプ氏の姿は4年前の正気を失したような興奮状態とは対照的で、見る者に落ち着いた印象さえ与えたのではないか。トランプ氏の過激さが抑えられたことは無党派層に影響を与えた可能性があるとも。
一方、バイデン氏は、トランプ氏の発言にあきれ返るとでもいうような驚きの表情を何度も見せた。そこに、トランプ氏の嘘と不誠実さを印象付けようとする意図があったとしても、そのポカンとした表情は力強さや鋭敏さを欠いて、なすすべなしとの弱さを露呈しているようにも感じられたと、小原名誉教授。
討論会の中身はと言えば、事実かどうか疑わしい発言や聴衆に誤解を与える発言が多く、双方の主張はかみ合わなかった。討論会後、バイデン氏は、「嘘つきとの論争は難しい」と釈明したが、トランプ氏の嘘を交えた一方的な主張に対し、効果的に反論できたとはとても言えないだろう。
トランプ氏の発言には、明らかな嘘が多く、CNNは30回以上の事実でない主張を行ったと発表した。
討論会直後、民主党内から、「惨憺たる結果」との声が出たのだそうです。
『ニューヨークタイムズ』は、民主党内の反応を紹介しながら、バイデン氏に代わる候補の選出について動きが出る可能性を報じた。
『ニューヨークタイムズ』は、バイデン大統領に撤退を促す社説を掲載。
≪今、バイデン大統領にできる最大の公的奉仕は、再選に向けての立候補をしないと発表することである≫
と。
6月29日付英『エコノミスト』誌は、「今、バイデン氏は自らに代わる候補者に道を譲るべきだ」と題する記事を掲載したのだそうです。
バイデン氏に代わる大統領候補の筆頭として米主要紙が真っ先に名前を挙げるのが、カリフォルニア州知事のギャビン・ニューサム(56歳)やイリノイ州知事のJ.B.プリツカー(59歳)である。ケンタッキー州知事のアンディ・ベシア(46歳)、ペンシルベニア州知事のジョシュ・シャピロ(51歳)、ミシガン州知事のグレッチェン・ホィットマー(52歳)らの名前も出る。
バイデン政権の閣僚にも有能な人物は少なくない。運輸長官のピート・ブティジェッジ(42歳)や商務長官のジーナ・レモンド(57歳)への期待は大きい。また、ジョージア州選出上院議員のラファエル・ワーノック(54歳)の評価も高いと、小原名誉教授。
民主党には、バイデン氏より30歳以上も若い有能な人材が少なくない。民主党全国大会(8月19日~22日)前にバイデン氏が立候補を取り下げれば、これらの人物がバイデン氏に代わる候補として名乗り出るだろう。
それは、メディアや国民の関心をトランプ氏から遠ざけ、民主党に引き寄せることを意味する。
トランプ氏よりはるかに若く、進取の気性に富んだ候補者が民主党から誕生すれば、選挙戦は一変し、民主党優位に転じる可能性が十分あると、小原名誉教授。
民主党はこのままバイデン氏を担いで大統領選挙に進むのか、それとも、バイデン氏に翻意を促して新たな候補を指名することになるのか。
民主党はとてつもなく悩ましい選択に直面していると、小原名誉教授。
共和党候補の指名獲得レースでドナルド・トランプ前大統領に次ぐ2位だったヘイリー氏は、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)とのインタビューで、共和党としては、バイデン氏が候補を外れればそれだけでトランプ氏が有利になると考えるべきではないと述べた。
共和党でトランプ氏と戦ったヘイリー氏は「民主党はこの件で賢い判断を下すだろう。より若い候補、活力のある候補、経験もある候補を出すはずだ」とし、「ジョー・バイデン氏を引き続き候補にすれば民主党の存続はありえないため、共和党としても次の一手に向けて準備を進めるべき時だ」と警告を発していますね。
ヘイリー氏、トランプ氏に警告 民主候補交代に備えよ - WSJ
# 冒頭の画像は、ジル夫人とともに討論会場を後にするバイデン氏(写真:ロイター/アフロ)
この花の名前は、ダイヤーズカモミール
↓よろしかったら、お願いします。
遊爺さんの写真素材 - PIXTA
月刊Hanada2024年2月号 - 花田紀凱, 月刊Hanada編集部 - Google ブックス