遊爺雑記帳

ブログを始めてはや○年。三日坊主にしては長続きしています。平和で美しい日本が滅びることがないことを願ってやみません。

プーチン新大統領の北方領土に関する発言の真意と日本の誤解

2012-03-09 23:59:14 | ロシア全般
 プーチン次期大統領が外国メディアと会見し、北方領土問題の最終解決を目指したいとの考えを示したこしは、既に諸兄がご承知の通りで、遊爺も触れさせていただきました。その時は、まだ湯気がでているホットな時期でマイコミの論評はまだ出ていませんでしたが、その後いろいろ出てきた中に、遊爺の論に近いものがありましたので、抜粋・転載させていただき備忘録とさせていただきます。

 
プーチン次期大統領が北方領土問題の最終解決を目指したいと - 遊爺雑記帳

 抜粋しても長文ですから、お急ぎでしたら、終盤の『領土問題を棚上げにしてガスを売り、技術を導入する』が肝ですからそこだけご覧いただければと存じます。
 

ロシア高官が驚いた日本のナイーブさ:日経ビジネスオンライン

北方領土に関するプーチン発言の真意と日本の誤解  袴田 茂樹

<前略>
 
3月4日にはロシアで大統領選挙が行われた。予想どおりプーチン首相が任期6年の大統領に復帰する。日本は今後、プーチン大統領を相手として北方領土をはじめとする対露政策を遂行することになる。
 本稿ではまず、北方領土についてのプーチン発言について、分析を行う。我が国では、大きく誤解されて報道されている。

北方領土に関するプーチン発言は、きわめて厳しいもの

<中略>
 プーチン首相は、各国マスコミ代表との記者会見で、実際にどのような発言をしたのか。首相の公式サイトがこれを掲載している。早速ロシア語の原文を読んで、私は驚いた。北方領土に関するプーチン発言は、日本のマスコミのトーンと大きく異なるのだ。いや、日本にとってきわめて厳しい発言をしている。
そのことを、朝日新聞も他の日本のマスコミも、まったく伝えていない。

「我々の交渉はすべてが振り出しに戻った」~2島返還さえリセット

 その典型が、平和条約締結後に歯舞、色丹の2島を日本に引き渡すと合意した
1956年の日ソ共同宣言に関する発言
である。少し長いがプーチン発言を引用する。

 「私たちは、柔道家として、勇気ある一歩を踏み出さなくてはなりません。しかしそれは、勝つためであって、負けるためではありません。この状況では、奇妙に思えるかもしれませんが、私たちは勝利を得ようとしてはなりません。この状況では、私たちは受け入れ可能な妥協が必要です。何か『ヒキワケ』に類するものです」
 「……ソ連は、日本との長い交渉の末に、1956年に共同宣言に調印しました。この宣言には、2島を平和条約締結後に引き渡す――ここに注目してほしいのですが――と書かれています。つまり平和条約が意味することは、日本とソ連との間には、領土に関する他の諸要求は存在しないということです。
そこ(56年宣言)には、2島がいかなる諸条件の下に引き渡されるのか、またその島がその後どちらの国の主権下に置かれるかについては、書かれていません。
……これ(56年宣言)は日本の国会とソ連の最高会議で批准されました。つまり、基本的にこの宣言は、法的効力を有するようになったのです」
 「……森(本誌注:喜朗)総理は私に、今のロシアは1956年宣言に復帰するつもりはあるか、と尋ねました。私は次のように言いました。『ダー、……復帰する用意がある』と。しばらくして日本側は、『56年宣言への復帰は結構だが、ただ宣言には2島のみで平和条約と書かれている、しかし
我々は4島が返還された後、平和条約を結びたい』と述べました。これはもはや56年宣言ではありません。こうして我々の間ではすべてが再び振り出しに戻ったのです

 「……
私が大統領になったら、私たちは両国の外務省を招集して、『ハジメ!』の指令を出しましょう


「引き渡し」は「返還」ではない

 ここでプーチン首相が述べたことは明確である。

◆歯舞、色丹2島の引き渡しに合意した日ソ共同宣言のみが法的拘束力のある取り決めである。日本とロシアの間にはそれ以外の領土問題は、存在しない。(国後、択捉の帰属問題も交渉の対象とした東京宣言は、法的拘束力のある合意とみなさない)

 実は日本のマスコミが報じていないもっと強硬な発言をプーチンはしている。それは、太字の部分
(ここでは紺色の太字で表示)
の発言から帰結する次の2点である。

◆平和条約締結後に歯舞、色丹を引き渡すとしても、無条件ではない。
◆平和条約締結後に歯舞、色丹を日本に「引き渡す」ということは、必ずしも主権を日本に渡すことを意味しない

 ロシアはこれまで、日ソ共同宣言で述べられているのは「引き渡し」であって、「返還」ではないと述べてきた

<中略>

…国後・択捉の返還交渉は論外
<中略>

 ロシアでは数年前から様々な最強硬論が浮上していた。「日露平和条約は不要」「日ソ共同宣言は履行する必要がない」。さらには「日ソ共同宣言を履行したとしても、平和条約締結後、日本に歯舞、色丹を返還する必要はない」というものがある。今回のプーチンの発言はこの後者の強硬論に沿ったものである。読売新聞や産経新聞が報じる「プーチンの硬い姿勢」が、むしろたいへん甘い見方だということがお分りだろう。
<中略>

 プーチンは国後、択捉は問題にならないと断言している
のだ。となると、彼の考える領土交渉の「ハジメ」とは何を意味するのか。「2島では不十分だ」との若宮氏の発言に対してプーチンがこの言葉を述べたとしても、彼の今回の発言の論理的な道筋から言うと、「日ソ共同宣言で明確にされていないこと」――つまり歯舞、色丹の引き渡しの条件とか、その2島の主権の問題――を考えていることは当然だろう。
 それを超えて、国後、択捉の返還交渉をプーチン首相が本気で考えていると見るのは、あまりにもナイーブで素人的だ。これらの甘さは、私が指摘した56年宣言に関するプーチン首相の強硬発言に注意を向けていないために起こる。このこと自体が異様である。

「双方の妥協」が意味するもの

 もうひとつ、プーチン発言の重要な部分を引用しよう。
 「……・私は日本との間で領土問題を最終的に閉じることを望んでいます。そして、それが両国に、そして両国民に受け入れ可能な形でなされることを望んでいます。私は、結局のところ、その解決は両国の協力関係を拡大する中で、可能になると思っています。私たちは次のような状況を達成する必要があると思います。つまり、領土問題の解決が本質的な意味を持たなくなり、ニ義的な課題となり(後景に退き)、私たちが…真の友人になることです。そして、この流れにおいて、両国にとって妥協による解決が容易になるのです。……ご存じのように、私たちは中国との国境線問題の解決(уреглирование)の交渉を40年も続けました! そして、両国関係の水準が、またその質が今日の状況に到達して、我々は妥協による解決を見出したのです。私は、日本との間でも、同様のことが進むことを大いに期待しています。私はそれを強く望んでいます」

 
日本のマスコミは領土問題に「最終解決」「終止符」と大きく報じた。しかし、プーチン首相は領土問題を最終的に「解決するрешить」ではなく「閉じるзакрыть」という言葉を使っている。これには「蓋をする」というニュアンスがある。続いて、ロシアが目標としている状況として、経済関係や友好関係が発展して、「領土問題が本質的な意味を持たなくなり後景に退く」状況としている。これらが意味することは結局、ロシア側が従来述べてきたように、領土問題は棚上げして、まず経済関係その他の諸関係を発展させよう、との論
に他ならない。
 中露間での国境問題の解決が引き合いに出されたので、中露間で行ったような「面積折半論」を念頭に置いていると早合点した者も我が国にいる。しかし、この文脈であきらかなように、プーチンが中露関係を引き合いにして言わんとすることは、両国関係を高い水準にもっていくこと、つまり経済その他の関係を発展させること、以外ではない。

 「双方の妥協」という言葉をロシア側が使うとき、通常意味することは、「ロシアは日ソ共同宣言承認まで譲歩した、日本も4島論を取り下げて2島論まで譲歩しなさい」ということであり、これが
ロシアの意味する「ヒキワケ」だ。
<中略>


領土問題を棚上げにしてガスを売り、技術を導入する

 プーチン首相が述べていることは、バザール的な交渉の「ふっかけ」で、額面通りに取る必要はないと見ることはもちろん可能だ。ただ、私は、日本のマスコミや識者が、彼の発言の最も肝心な言葉を見落としていること、プーチン発言にたいして余りにもナイーブな期待を抱いて、楽観論をまき散らしていることに強い警鐘を鳴らしているのである。

 結論として次のことを指摘しておこう。これは、「では
なぜ記者会見で、プーチン首相の方から口火を切って北方領土問題に言及したか」という問への回答でもある。
 3月4日の選挙で大統領に当選したプーチン首相が、アジアに強い関心を向けているのは紛れもない事実だ。特に、日本との経済、技術交流への期待は高い。
最大の狙いは、天然ガスの輸出、ハイテクの導入、資本や企業誘致
である。
 その背景としては、
欧州の経済不調及びエネルギー輸入の多元化政策により、ロシアからの資源輸入が頭打ちという状況がある。さらに、2011年10月にプーチン首相が北京を訪問した時以来、期待した中国へのエネルギー輸出は価格面で折り合わず袋小路に陥っている。米国もシェールガスの開発で、ガス輸出国
に転じた。
 この状況の下で、原発事故で天然ガス需要が高まっている
日本は、エネルギー輸出の最大のターゲットとなった。また、資源輸出国からハイテク立国への産業転換を国家戦略としているロシアにとって、資源に依拠しない日本のハイテク産業はロールモデルとして重大な意味を持っている。さらに、中国をにらんだ国家戦略
からしても、日本との協力関係は重要だ。
 ただ、日露関係を発展させるためには、どうしても北方領土問題に触れないわけにはいかない。目標は、領土問題が後景に退く形での関係強化、つまり
領土問題を実質的に棚上げした経済関係の拡大だ。ただし、この北方領土問題の解決に関心を抱いているというポーズだけは示す必要がある。そこで、十分に考え抜かれた発言――すなわち、問題解決に関心を抱いているというポーズを示しながら、本質的な部分では何も譲歩しない(あるいはこれまで以上に強硬な)――発言を練ったのである。そして、日本のマスコミ、識者、政界が狙い通りの反応を示した
。プーチン首相は大いに満足していることだろう。

 文中にも書かれている、数年前からのロシア国内のナショナリズムの高まりによる強硬論があり、支持率が低下している中、プーチン氏から北方領土問題を話題に出したのはなぜか!
 答えは遊爺と同じで、欧州のエネルギーのロシア依存からの脱却による販売の低迷、シェールガスの発掘による市場の軟化、袴田氏は挙げておられませんが、主力ガス田の枯渇に伴う、北極圏や極東での高度な技術を要する新たなガス田開発への技術&リスクのある投資導入、そのガスの日本への販売と、ロシアの今日の経済発展を支えてきた資源輸出の苦しい台所事情なのです。
 
 しかし、プーチン氏が唱えているのは、1956年の「日ソ共同宣言」の二島返還(引き渡し)論です。
 袴田氏は、会見に参加した朝日新聞をはじめ日本のメディアや識者、政界のこのプーチン氏の発言への反応が甘いと驚いておられるのです。
 結論は、プーチン氏は日本へのガスの販売や、技術支援を主とする経済交流を進めたいために、北方領土問題に関心があるゼスチャーをしているだけだというのです。

 メドベージェフ氏が国後島を訪問して、これまで積み重ねてきた両国の交渉の歴史をご破算にしまた。もちろんプーチン氏同意の下の行動でしたから、プーチン氏が大統領になったからといって、急にここまでの姿勢が変わるのは不自然です。
 遊爺は、上述のロシアの台所事情から辛抱すればロシアから擦り寄ってくると述べてきましたが、こんなに早く来るとは、驚くと同時に、台所の苦しさ(支持率回復の経済向上も必要)が深刻になっている証拠かと考えました。

 ただ、内容は1956年の「日ソ共同宣言」のレベルですし、袴田氏によれば、ロシア流の解釈では返還ではなく引き渡しで、ロシアの主権は維持するものとの内容です。
 一時の、北方領土問題そのものの無視の姿勢からは変わったとは言え、プーチン氏が首脳会談した、イルクーツク声明(2001年)とも、日露行動計画(2003年)ともかけ離れた内容です。
 台所が苦しく、日本の支援が欲しいのなら、エリツィン氏の様に素直に交渉に臨むべきでしょう。
 日本政府も、目先の利益に眼を奪われ、開発商談に望もうとしている企業も、ここはじっと待つ一手です。
 サハリン1, 2で飲まされた煮え湯も忘れてはいけません。




 この実はカリン

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ソ連が満洲に侵攻した夏 (文春文庫)
誰がメドベージェフを不法入国させたのか-国賊たちの北方領土外交





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