日本の財務省は為替介入に踏み切り、日米の中央銀行はそれぞれ金融政策を変化させる兆しを見せています。終点が見えなかった円安のトレンドも変わるかもしれませんと、エミン・ユルマズ氏。
4月26日まで開催された日銀の金融政策決定会合では、円安への歯止めとなる施策が何も出なかったことで、そこから急激に円安・ドル高が進み、日本の祝日である4月29日には一時1ドル=160円を突破。そこで日本が1回目の為替介入に踏み切りました。
会合の前日時点では、ジャネット・イエレン米財務長官が為替介入に対し「まれに行われるもの」と否定的なニュアンスの発言をしており、「米国の了解を得られておらず、介入は実行できないのでは」という観測もありました。しかし実際には、29日に続いて5月2日の日本時間早朝に2回目の介入も実施。
ひとまずこれ以上の急激な円安を許容しない姿勢を示したことになりますと、エミン・ユルマズ氏。
いずれ遠くないうちに国債買い入れ額の縮小は行われるでしょうし、政策金利も0.25%までの追加利上げはあるでしょう。市場もそれを織り込み、2年物国債利回りが既に0.3%台まで上昇しています。
ならば、実際に追加利上げをしても景気へのマイナスのインパクトは少ないと思われ、日銀も実行しやすいとも。
一方の米国は、「年内はもう利下げしないのでは」との観測まで浮上していましたが、5月2日まで行われた米連邦公開市場委員会(FOMC)では政策金利が据え置かれた一方で、QT(量的引き締め)を市場予想以上に縮小するというサプライズがありました。米連邦準備理事会(FRB)が保有する国債を減らして(売って)いくペースをゆるめるという、ハト派的なサプライズですと、エミン・ユルマズ氏。
利下げ観測が後退し過ぎて米国債が売られていた状況を、FRBも放置しなかった。そこには日本への配慮もあったかもしれません。
中国をはじめとする新興国の中央銀行が米国債の保有を減らす中、日本は米国債にとって最も大事な買い手です。通貨安で苦しむ日本への助け舟だった可能性もありますと。
FRBが利下げできないのは、高金利にもかかわらず物価と雇用が強過ぎたためです。しかしここに来て、4月の米雇用統計は、失業率、非農業部門就業者数、平均時給、全てにおいて市場予想より大幅に悪い結果となりましたと、エミン・ユルマズ氏。
FRBのジェローム・パウエル議長は今回のFOMCで、直前の米雇用動態調査(JOLTS)において求人件数が悪化したことに言及。その翌日の雇用統計が悪い結果という流れを見る限り、雇用の弱さを理由とした利下げへの地ならしが始まったと見ていいでしょうとも。
資源価格は上昇の勢いが鈍ったもののまだ高く、米国のインフレが収まったとは言えない状況です。しかし今のFRBは雇用と物価なら雇用を優先し、インフレが高いままでも利下げを行う方針にシフトしたように見えますと。
日米それぞれで円安の流れを変え得る動きが出てきたことで、日本は一息つけるかもしれません。とはいえ、まだ安心できる状況ではありませんと、エミン・ユルマズ氏。
直近で起きていたのは円の独歩安だったので、ドルにはまだ買われる余地が残っていると言えます。日本は貿易赤字が定着し、構造的に円安になりやすいという状況も変わったわけではありませんと。
# 冒頭の画像は、エコノミストのエミン・ユルマズ氏
この花の名前は、ムシトリナデシコ
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米国経済の変調 年内2回利下げと「円安・ドル高終了」の現実味 エミン・ユルマズの未来観測 - 日本経済新聞 2024年5月16日
日米ともに、当局の姿勢に変化が出てきました。日本の財務省は為替介入に踏み切り、日米の中央銀行はそれぞれ金融政策を変化させる兆しを見せています。終点が見えなかった円安のトレンドも変わるかもしれません。
まずは日本側で起きていたことを振り返りましょう。4月26日まで開催された日銀の金融政策決定会合は、全会一致で金融政策の現状維持を決めました。円安への歯止めとなる施策が何も出なかったことで、そこから急激に円安・ドル高が進み、日本の祝日である4月29日には一時1ドル=160円を突破。そこで日本が1回目の為替介入に踏み切りました。
会合の前日時点では、ジャネット・イエレン米財務長官が為替介入に対し「まれに行われるもの」と否定的なニュアンスの発言をしており、「米国の了解を得られておらず、介入は実行できないのでは」という観測もありました。しかし実際には、29日に続いて5月2日の日本時間早朝に2回目の介入も実施したようです。
2回合計の介入規模は8兆円程度と見られ、「財務省に残された弾数はあまり多くないのでは」という懸念もありますが、ひとまずこれ以上の急激な円安を許容しない姿勢を示したことになります。
■国債購入はいずれ減る
その点では、4月26日の会合前に、「日銀が国債の買い入れ縮小の方法を検討する」という時事通信の報道があったことも注目できます。今回の会合では国債買い入れ額の変更は全くなかったのですが、こうしたリーク記事が出た以上、日銀の内部では実際に検討が行われていると思われます。ただの推測ですが、リーク記事への市場の反応が鈍かったため、「今回実施しても円安を止める効果は限られる」と判断し、今回は見送ったのではないでしょうか。
いずれ遠くないうちに国債買い入れ額の縮小は行われるでしょうし、政策金利も0.25%までの追加利上げはあるでしょう。市場もそれを織り込み、2年物国債利回りが既に0.3%台まで上昇しています。ならば、実際に追加利上げをしても景気へのマイナスのインパクトは少ないと思われ、日銀も実行しやすいでしょう。
1回目の為替介入が、自民党が3戦全敗した補欠選挙の翌日だったことも象徴的です。行き過ぎた円安が自分たちの支持率を下げていることを痛感し、対策に本気になり始めた可能性もあります。
■FRBのハト派シフト
一方の米国はどうでしょうか。市場の予想を超えて強い雇用とインフレ率が続いたために、「年内はもう利下げしないのでは」との観測まで浮上していましたが、5月2日まで行われた米連邦公開市場委員会(FOMC)では政策金利が据え置かれた一方で、QT(量的引き締め)を市場予想以上に縮小するというサプライズがありました。米連邦準備理事会(FRB)が保有する国債を減らして(売って)いくペースをゆるめるという、ハト派的なサプライズです。
利下げ観測が後退し過ぎて米国債が売られていた状況を、FRBも放置しなかったということでしょう。そこには日本への配慮もあったかもしれません。中国をはじめとする新興国の中央銀行が米国債の保有を減らす中、日本は米国債にとって最も大事な買い手です。通貨安で苦しむ日本への助け舟だった可能性もあります。
FRBが利下げできないのは、高金利にもかかわらず物価と雇用が強過ぎたためです。しかしここに来て、雇用には変調の兆しがあります。5月3日に発表された4月の米雇用統計は、失業率、非農業部門就業者数、平均時給、全てにおいて市場予想より大幅に悪い結果となりました。予想の外れ具合としても2021年12月以来の大きさです。
そもそも3月分までの雇用の強さは不自然でした。統計数は一見して強いものの、就業者数の中身を見ると事業所調査では強いが、家計調査では弱いという結果に。これは高収入の仕事が減り、低賃金のパートを複数掛け持ちする人が増えたことで、事業者から見た雇用者数が底上げされていたのだと思われます。雇用の実態としては決して強くなかったのです。
FRBのジェローム・パウエル議長は今回のFOMCで、直前の米雇用動態調査(JOLTS)において求人件数が悪化したことに言及しました。その翌日の雇用統計が悪い結果という流れを見る限り、雇用の弱さを理由とした利下げへの地ならしが始まったと見ていいでしょう。5月以降の雇用統計で弱い数字が続けば、年内の9月と12月に計2回の利下げというシナリオはあり得ると思います。
資源価格は上昇の勢いが鈍ったもののまだ高く、米国のインフレが収まったとは言えない状況です。しかし今のFRBは雇用と物価なら雇用を優先し、インフレが高いままでも利下げを行う方針にシフトしたように見えます。その結果、インフレ率に上昇圧力をかけてしまうとしてもです。
日米それぞれで円安の流れを変え得る動きが出てきたことで、日本は一息つけるかもしれません。とはいえ、まだ安心できる状況ではありません。22年に急激な円安・ドル高が進んだ時は、ドル指数は114と、足元の105程度と比べてはるかに高い水準でした。当時はドルの独歩高でしたが、直近で起きていたのは円の独歩安だったので、ドルにはまだ買われる余地が残っていると言えます。日本は貿易赤字が定着し、構造的に円安になりやすいという状況も変わったわけではありません。
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エミン・ユルマズ
トルコ出身。16歳で国際生物学オリンピックで優勝した後、奨学金で日本に留学。留学後わずか1年で、日本語で東京大学を受験し合格。卒業後は野村証券でM&A関連業務などに従事。2016年から複眼経済塾の取締役を経て、24年に独立。ポーカープレーヤーとしての顔も持つ。
日本側で起きていたことを振り返りましょうと、エミン・ユルマズ氏。日米ともに、当局の姿勢に変化が出てきました。日本の財務省は為替介入に踏み切り、日米の中央銀行はそれぞれ金融政策を変化させる兆しを見せています。終点が見えなかった円安のトレンドも変わるかもしれません。
まずは日本側で起きていたことを振り返りましょう。4月26日まで開催された日銀の金融政策決定会合は、全会一致で金融政策の現状維持を決めました。円安への歯止めとなる施策が何も出なかったことで、そこから急激に円安・ドル高が進み、日本の祝日である4月29日には一時1ドル=160円を突破。そこで日本が1回目の為替介入に踏み切りました。
会合の前日時点では、ジャネット・イエレン米財務長官が為替介入に対し「まれに行われるもの」と否定的なニュアンスの発言をしており、「米国の了解を得られておらず、介入は実行できないのでは」という観測もありました。しかし実際には、29日に続いて5月2日の日本時間早朝に2回目の介入も実施したようです。
2回合計の介入規模は8兆円程度と見られ、「財務省に残された弾数はあまり多くないのでは」という懸念もありますが、ひとまずこれ以上の急激な円安を許容しない姿勢を示したことになります。
■国債購入はいずれ減る
その点では、4月26日の会合前に、「日銀が国債の買い入れ縮小の方法を検討する」という時事通信の報道があったことも注目できます。今回の会合では国債買い入れ額の変更は全くなかったのですが、こうしたリーク記事が出た以上、日銀の内部では実際に検討が行われていると思われます。ただの推測ですが、リーク記事への市場の反応が鈍かったため、「今回実施しても円安を止める効果は限られる」と判断し、今回は見送ったのではないでしょうか。
いずれ遠くないうちに国債買い入れ額の縮小は行われるでしょうし、政策金利も0.25%までの追加利上げはあるでしょう。市場もそれを織り込み、2年物国債利回りが既に0.3%台まで上昇しています。ならば、実際に追加利上げをしても景気へのマイナスのインパクトは少ないと思われ、日銀も実行しやすいでしょう。
1回目の為替介入が、自民党が3戦全敗した補欠選挙の翌日だったことも象徴的です。行き過ぎた円安が自分たちの支持率を下げていることを痛感し、対策に本気になり始めた可能性もあります。
■FRBのハト派シフト
一方の米国はどうでしょうか。市場の予想を超えて強い雇用とインフレ率が続いたために、「年内はもう利下げしないのでは」との観測まで浮上していましたが、5月2日まで行われた米連邦公開市場委員会(FOMC)では政策金利が据え置かれた一方で、QT(量的引き締め)を市場予想以上に縮小するというサプライズがありました。米連邦準備理事会(FRB)が保有する国債を減らして(売って)いくペースをゆるめるという、ハト派的なサプライズです。
利下げ観測が後退し過ぎて米国債が売られていた状況を、FRBも放置しなかったということでしょう。そこには日本への配慮もあったかもしれません。中国をはじめとする新興国の中央銀行が米国債の保有を減らす中、日本は米国債にとって最も大事な買い手です。通貨安で苦しむ日本への助け舟だった可能性もあります。
FRBが利下げできないのは、高金利にもかかわらず物価と雇用が強過ぎたためです。しかしここに来て、雇用には変調の兆しがあります。5月3日に発表された4月の米雇用統計は、失業率、非農業部門就業者数、平均時給、全てにおいて市場予想より大幅に悪い結果となりました。予想の外れ具合としても2021年12月以来の大きさです。
そもそも3月分までの雇用の強さは不自然でした。統計数は一見して強いものの、就業者数の中身を見ると事業所調査では強いが、家計調査では弱いという結果に。これは高収入の仕事が減り、低賃金のパートを複数掛け持ちする人が増えたことで、事業者から見た雇用者数が底上げされていたのだと思われます。雇用の実態としては決して強くなかったのです。
FRBのジェローム・パウエル議長は今回のFOMCで、直前の米雇用動態調査(JOLTS)において求人件数が悪化したことに言及しました。その翌日の雇用統計が悪い結果という流れを見る限り、雇用の弱さを理由とした利下げへの地ならしが始まったと見ていいでしょう。5月以降の雇用統計で弱い数字が続けば、年内の9月と12月に計2回の利下げというシナリオはあり得ると思います。
資源価格は上昇の勢いが鈍ったもののまだ高く、米国のインフレが収まったとは言えない状況です。しかし今のFRBは雇用と物価なら雇用を優先し、インフレが高いままでも利下げを行う方針にシフトしたように見えます。その結果、インフレ率に上昇圧力をかけてしまうとしてもです。
日米それぞれで円安の流れを変え得る動きが出てきたことで、日本は一息つけるかもしれません。とはいえ、まだ安心できる状況ではありません。22年に急激な円安・ドル高が進んだ時は、ドル指数は114と、足元の105程度と比べてはるかに高い水準でした。当時はドルの独歩高でしたが、直近で起きていたのは円の独歩安だったので、ドルにはまだ買われる余地が残っていると言えます。日本は貿易赤字が定着し、構造的に円安になりやすいという状況も変わったわけではありません。
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エミン・ユルマズ
トルコ出身。16歳で国際生物学オリンピックで優勝した後、奨学金で日本に留学。留学後わずか1年で、日本語で東京大学を受験し合格。卒業後は野村証券でM&A関連業務などに従事。2016年から複眼経済塾の取締役を経て、24年に独立。ポーカープレーヤーとしての顔も持つ。
4月26日まで開催された日銀の金融政策決定会合では、円安への歯止めとなる施策が何も出なかったことで、そこから急激に円安・ドル高が進み、日本の祝日である4月29日には一時1ドル=160円を突破。そこで日本が1回目の為替介入に踏み切りました。
会合の前日時点では、ジャネット・イエレン米財務長官が為替介入に対し「まれに行われるもの」と否定的なニュアンスの発言をしており、「米国の了解を得られておらず、介入は実行できないのでは」という観測もありました。しかし実際には、29日に続いて5月2日の日本時間早朝に2回目の介入も実施。
ひとまずこれ以上の急激な円安を許容しない姿勢を示したことになりますと、エミン・ユルマズ氏。
いずれ遠くないうちに国債買い入れ額の縮小は行われるでしょうし、政策金利も0.25%までの追加利上げはあるでしょう。市場もそれを織り込み、2年物国債利回りが既に0.3%台まで上昇しています。
ならば、実際に追加利上げをしても景気へのマイナスのインパクトは少ないと思われ、日銀も実行しやすいとも。
一方の米国は、「年内はもう利下げしないのでは」との観測まで浮上していましたが、5月2日まで行われた米連邦公開市場委員会(FOMC)では政策金利が据え置かれた一方で、QT(量的引き締め)を市場予想以上に縮小するというサプライズがありました。米連邦準備理事会(FRB)が保有する国債を減らして(売って)いくペースをゆるめるという、ハト派的なサプライズですと、エミン・ユルマズ氏。
利下げ観測が後退し過ぎて米国債が売られていた状況を、FRBも放置しなかった。そこには日本への配慮もあったかもしれません。
中国をはじめとする新興国の中央銀行が米国債の保有を減らす中、日本は米国債にとって最も大事な買い手です。通貨安で苦しむ日本への助け舟だった可能性もありますと。
FRBが利下げできないのは、高金利にもかかわらず物価と雇用が強過ぎたためです。しかしここに来て、4月の米雇用統計は、失業率、非農業部門就業者数、平均時給、全てにおいて市場予想より大幅に悪い結果となりましたと、エミン・ユルマズ氏。
FRBのジェローム・パウエル議長は今回のFOMCで、直前の米雇用動態調査(JOLTS)において求人件数が悪化したことに言及。その翌日の雇用統計が悪い結果という流れを見る限り、雇用の弱さを理由とした利下げへの地ならしが始まったと見ていいでしょうとも。
資源価格は上昇の勢いが鈍ったもののまだ高く、米国のインフレが収まったとは言えない状況です。しかし今のFRBは雇用と物価なら雇用を優先し、インフレが高いままでも利下げを行う方針にシフトしたように見えますと。
日米それぞれで円安の流れを変え得る動きが出てきたことで、日本は一息つけるかもしれません。とはいえ、まだ安心できる状況ではありませんと、エミン・ユルマズ氏。
直近で起きていたのは円の独歩安だったので、ドルにはまだ買われる余地が残っていると言えます。日本は貿易赤字が定着し、構造的に円安になりやすいという状況も変わったわけではありませんと。
# 冒頭の画像は、エコノミストのエミン・ユルマズ氏
この花の名前は、ムシトリナデシコ
↓よろしかったら、お願いします。
遊爺さんの写真素材 - PIXTA