国産ジェット旅客機開発では、「スペースジェット(旧MRJ)」を開発した三菱重工業が最大のライバルとなるブラジルの航空機メーカー、エンブラエルを過小評価して敗北しました。
実は、ドイツの航空機メーカー、ハインケルの技術者たちにルーツを持つエンブラエルを、過小評価していたことが原因だと、元日本航空機長で航空評論の、杉江弘氏。
日本航空(JAL)で長年「ボーイング747」に乗務した後、2008年秋からJALのグループ会社、ジェイエアで日本に初導入となる「エンブラエルE170」の訓練に入り、導入時から3年間、実乗務を体験された杉江氏が、三菱重工の「スペースジェット(旧MRJ)」と、ブラジルの航空機メーカー、エンブラエルとの競合顛末について、日の丸ジェット旅客機が成功する日の為に語っていただいています。
ボーイング747やエンブラエルに乗務した経験から言えば、スペースジェットの最大巡航高度が3万9000フィート、速度がマッハ0.78に制限されていることに驚いたと、杉江氏。
パイロットは乱気流を避けるため、時に4万1000フィートまで高度を上げることも少なくないのだそうです。
国内線や近距離国際線でも同様で、スペースジェットではそれができないとなると快適性でのハンディが生じる。エンブラエルは、他の航空機と同様、最大巡航高度は4万1000フィート。
巡航速度もマッハ0.82とスペースジェットより速い。この違いは3時間くらいのフライトとなると、飛行時間で約10分の差となり、ダイヤ上も不利だと。
更に、視界が悪い時に安全に着陸するため必須の装備・自動着陸装置がスペースジェットには無い。後付けは難しく、コストもかかるのだそうです。
なぜこのような設計になったのか。
それは設計段階で、民間航空のパイロットではなく、自衛隊出身のパイロットが参画し、テストパイロットも兼務したからではないだろうか。三菱重工は軍用機中心の歴史が長く、民間航空の空の実態をよく理解していなかったと思えると、杉江氏。
また、機内の快適性について言えば、スペースジェットは空気抵抗を少なくするため、胴体が細長いペンシル型である。
一方のエンブラエルは胴体に「ダブルバブル構造」を採用して横幅を広く取って、頭上の窮屈感の低減に努めるなど、機体が小さいリージョナルジェットの課題を解消する設計となっている。
また、スペースジェットはその翼型によって、着陸時に空港へ進入する際、カナダの「ボンバルディアCRJ」と同様に、機首下げの状態になる。
これは私自身の経験から言って、着陸操作でのフレアー(機首上げ)が難しく、実際、CRJに乗務していた同僚からの評判も良くなかった。これに対し、エンブラエルは多くの航空機と同じように空港への進入時には機首上げの状態となっているのだそうです。
そして、エンブラエルE170の価格が約35億円とされるのに対し、スペースジェットは約42億~53億円!
エンブラエルは価格が安いわりには、安全面で革新的な設計とオペレーションが導入されていると、杉江氏。
コクピット内の仕様や自動操縦システム、飛行管理装置(FMS)などは、設計面で随所に工夫がなされている。過去に世界で起きた大事故の教訓を生かしたもので、ボーイングやエアバスではあまり見られないものなのだそうです。
御巣鷹山で墜落したJAL123便の事故からは、全ての油圧が失われて操縦不能になったことから、スタビライザーを電動にして、万が一、全ての油圧を失っても最低限のコントロールを残すようにした等々。実に様々なヒューマンエラー防止のための工夫もなされているのだそうです。
開発当初、三菱の最大の売りは、P&Wのギヤードファンエンジン搭載によって燃費を約20%減少させることであったが、6度にわたって納入を延期しているうちにエンブラエルも同型エンジンを新型のE2ジェットに採用してしまい、もはや売りではなくなったと、杉江氏。
仮に私が三菱側のスタッフだとしたら、ライバルのエンブラエルのことは当然気になり、実際に操縦しているパイロットに参考になる話を聞こうとするだろうと、杉江氏。
しかし、私を含め同僚のエンブラエル機を操縦するパイロットには誰ひとりとして接触はなかったのだそうです。
競合に打ち勝つためには、「敵」の実態を正確に把握することが欠かせないはずなのに、それを怠ったのはなぜなのか。
ブラジル勢に負けるわけはないとする根拠の乏しいプライドと、上から目線の存在があったと思わざるを得ない。メディアを含む日本全体が時代の変化に鈍感になって、「メイド・イン・ジャパン」というブランドへの過信があったからではないかと、杉江氏。
多額の公費を補助金として投入しながら事業全体を三菱重工に任せ、適切な協力や指導が行われなかった国交省はどうしたことか!
耐空証明を得られるようにサポートすべきであったのに、できなかったことは残念だ。その原因が国土交通省の能力の問題だとしたら今後、職員のスキルをどう向上させていくのかと、杉江氏。
日の丸ジェット旅客機が成功する日の為には、問題の総括がなされなくてはならないと、鍵絵氏。
いつの間にか音沙汰が無くなった国産ジェット旅客機の話。こんな顛末だったとは。。。!
技術の日本はいずこへ!その復活には、何が必要??
# 冒頭の画像は、スペースジェット(旧MRJ)
パンジー
2月 7日は、北方領土の日
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実は、ドイツの航空機メーカー、ハインケルの技術者たちにルーツを持つエンブラエルを、過小評価していたことが原因だと、元日本航空機長で航空評論の、杉江弘氏。
延期繰り返し「売り」を失ったスペースジェット、なぜ国は支援できなったのか 【後編】頓挫した「日本の翼」、どう出直せばいいのか | JBpress (ジェイビープレス) 2023.2.1(水) 杉江 弘::航空評論家、元日本航空機長
前回の記事「『塩漬け』にされた国産ジェット旅客機開発、三菱重工に欠けていた視点とは」では、「スペースジェット(旧MRJ)」を開発した三菱重工業が最大のライバルとなるブラジルの航空機メーカー、エンブラエルを過小評価していたのではないかと述べた。ブラジル製の航空機よりも日本製の航空機の方が優れていると多くの人が思っていたが、実はエンブラエルのルーツはドイツの航空機メーカー、ハインケルの技術者たちにあった。では、スペースジェットと、競合するエンブラエルとは性能や快適性でどこが違うのか。私自身の操縦経験を含めて具体的に解説したい。
「塩漬け」にされた国産ジェット旅客機開発、三菱重工に欠けていた視点とは 【前編】頓挫した「日本の翼」、どう出直せばいいのか | JBpress (ジェイビープレス)
高度、速度ともにエンブラエルに劣る
私は日本航空(JAL)で長年「ボーイング747」に乗務した後、2008年秋からJALのグループ会社、ジェイエアで日本に初導入となる「エンブラエルE170」の訓練に入り、導入時から3年間、実乗務を体験した。その過程でわかったことを述べる。
お断りしておくと、一般的にパイロットは自分が乗務する、あるいは乗務した航空機のことを良い飛行機だと言う傾向がある。理由の一つに、自身が厳しい訓練を経たこともあるだろう。以下で私は可能な限り客観的に評価することに努めたのをご理解いただきたい。
ボーイング747やエンブラエルに乗務した経験から言えば、スペースジェットの最大巡航高度が3万9000フィート、速度がマッハ0.78に制限されていることに驚いた。
というのも、パイロットは乱気流を避けるため、時に4万1000フィートまで高度を上げることも少なくないからだ。
国内線や近距離国際線でも同様で、スペースジェットではそれができないとなると快適性でのハンディが生じる。エンブラエルは、他の航空機と同様、最大巡航高度は4万1000フィートである。
巡航速度もマッハ0.82とスペースジェットより速い。この違いは3時間くらいのフライトとなると、飛行時間で約10分の差となり、ダイヤ上も不利だ。
さらにスペースジェットには自動着陸装置がないようだが、それは視界が悪い時に安全に着陸するため必須の装備であり、後付けが難しく、コストもかかる。
なぜこのような設計になったのか。
軍用機開発の歴史は長いが・・・
それは設計段階で、民間航空のパイロットではなく、自衛隊出身のパイロットが参画し、テストパイロットも兼務したからではないだろうか。三菱重工は軍用機中心の歴史が長く、民間航空の空の実態をよく理解していなかったと思えるのだ。
次に、機内の快適性について言えば、スペースジェットは空気抵抗を少なくするため、胴体が細長いペンシル型である。一方のエンブラエルは胴体に「ダブルバブル構造」を採用して横幅を広く取って、頭上の窮屈感の低減に努めるなど、機体が小さいリージョナルジェットの課題を解消する設計となっている。公平に見て、スペースジェットの売りは客室内で荷物の収納スペースを広くしたくらいであろう。
スペースジェットはその翼型によって、着陸時に空港へ進入する際、カナダの「ボンバルディアCRJ」と同様に、機首下げの状態になる。これは私自身の経験から言って、着陸操作でのフレアー(機首上げ)が難しく、実際、CRJに乗務していた同僚からの評判も良くなかった。これに対し、エンブラエルは多くの航空機と同じように空港への進入時には機首上げの状態となっている。
加えて、エンブラエルE170の価格が約35億円とされるのに対し、スペースジェットは約42億~53億円と言われ、最初に導入する予定のANAでの定価は約51億6600万円と伝えられていた。
エンブラエルが採用した革新的な設計とは
エンブラエルは価格が安いわりには、安全面で革新的な設計とオペレーションが導入されている。コクピット内の仕様や自動操縦システム、飛行管理装置(FMS)などは、ボーイングやエアバスのハイテク機と変わらないが、設計面で随所に工夫がなされている。
それは、いずれも過去に世界で起きた大事故の教訓を生かしたもので、ボーイングやエアバスではあまり見られないものである。
例えば、御巣鷹山で墜落したJAL123便の事故では、全ての油圧が失われて操縦不能になったが、エンブラエルでは、一般に油圧で動かす水平安定板(スタビライザー)を電動にして、万が一、全ての油圧を失っても最低限のコントロールを残すようにした。
さらには、2000年1月に水平安定板のトラブルによって急降下し、海上に墜落したアラスカ航空の事故を受けて、水平安定板を動かすジャックスクリューを二重に装備したのも初めてのことだ。
この事故は、2013年に公開された映画「フライト」のモデルになっており、どのようなパイロットでも生還が困難な水平安定板の異常が原因であった。
そのほかにも離陸時に誤操作を発生させないための音声による警告システムの採用、警報音スピーカーの共用廃止、運航モードの誤操作を防ぐために、いわゆる「窓」と呼ばれるパネルを廃止したことなど、実に様々なヒューマンエラー防止のための工夫がなされているのだ。
実際、私自身それらを知って、日々安心して乗務できたものである。
また、搭載している米ゼネラルエレクトリック(GE)製の「CF34-8」エンジンは性能も良く、トラブルの少なさで際立っていた。
国土交通省が毎年7月に発表する国内航空会社の安全上のトラブルに関するデータによると、トラブルの総件数を機材数で割ると、フジドリームエアラインズ(FDA)が運航上のトラブルが最も少ない会社としてランクされている(2018年)。これは同社がエンブラエルのみで運航している結果とも言えよう。
スペースジェットは国産といっても、機体に使われる部品は輸入品が7割を占め、自動操縦システムなどはほかの航空機とほとんど差はない。あえて言えば、国産の部品や部材が使われているのは主に翼やペンシル型の細長い胴体部分である。
6度の納入延期で最大の「売り」が消滅
開発当初、最大の売りは前回も述べた米プラット・アンド・ホイットニー(P&W)のギヤードファンエンジン搭載によって燃費を約20%減少させることであったが、6度にわたって納入を延期しているうちにエンブラエルも同型エンジンを新型のE2ジェットに採用してしまい、もはや売りではなくなった。
そもそも航空機のエンジンは、GE、P&W、ロールスロイスなど、メーカーを自由に選べるので、中長期的に見ればどの航空会社も効率や整備経験などから、だいたい同程度の性能のエンジン採用に落ち着くのが現状である。
なぜライバル機のパイロットに話を聞かないのか
私がエンブラエルに乗務していた場所は県営名古屋空港で、三菱航空機の生産開発拠点は、ジェイエアの会社からわずか数百メートルの場所にあった。
仮に私が三菱側のスタッフだとしたら、ライバルのエンブラエルのことは当然気になり、実際に操縦しているパイロットに参考になる話を聞こうとするだろう。
しかし、私を含め同僚のエンブラエル機を操縦するパイロットには誰ひとりとして接触はなかった。後に三菱側のスタッフに聞いたところ、「JAL本社で一度お話を伺ったことがある」とのことであった。
私自身、初の国産ジェットへの期待もあり、日本国民の1人として成功を願い、何か聞かれれば協力したいと考えていた。
一例を挙げれば、2人乗務制のハイテク機の弱点でもある与圧システム(降下時に特に日本人は耳が痛くなりやすい)の改善やエンブラエルの良い点などもアドバイスしようと準備していた。
前者は、以前のように航空機関士によるきめ細かい与圧の調整がなく自動化されているので、航空機がいったん降下を始めると、目的地の地上の気圧に近づけようとして高度3000メートル前後で耳が痛くなる。これは今のハイテク機の宿命とも言えるもので、健康でも高齢者や子供にはきついものだ。
このような自動システムのプログラムを改善できれば、「スペースジェットMRJは耳に優しい」などと宣伝ができて、大きな売りになったと思うのである。
競合に打ち勝つためには、「敵」の実態を正確に把握することが欠かせないはずなのに、それを怠ったのはなぜなのか。やはり何度も言っているように、国産だからブラジル勢に負けるわけはないとする根拠の乏しいプライドと、上から目線の存在があったと思わざるを得ない。
それを許したのは、メディアを含む日本全体が時代の変化に鈍感になって、「メイド・イン・ジャパン」というブランドへの過信があったからではないか。
耐空証明取得をサポートできなかった国交省
最後にもうひとつ。初の国産ジェット旅客機を官民一体で推進するはずの国、とりわけ国土交通省の責任についてである。
多額の公費を補助金として投入しながら事業全体を三菱重工に任せ、適切な協力や指導が行われなかったのはどうしたことか。特に耐空証明を得られるようにサポートすべきであったのに、できなかったことは残念だ。その原因が国土交通省の能力の問題だとしたら今後、職員のスキルをどう向上させていくのか。
以上、2回に分けて述べてきたような問題の総括がなされなくては、日の丸ジェット旅客機が成功する日は、さらに遠のくことになるだろう。
前回の記事「『塩漬け』にされた国産ジェット旅客機開発、三菱重工に欠けていた視点とは」では、「スペースジェット(旧MRJ)」を開発した三菱重工業が最大のライバルとなるブラジルの航空機メーカー、エンブラエルを過小評価していたのではないかと述べた。ブラジル製の航空機よりも日本製の航空機の方が優れていると多くの人が思っていたが、実はエンブラエルのルーツはドイツの航空機メーカー、ハインケルの技術者たちにあった。では、スペースジェットと、競合するエンブラエルとは性能や快適性でどこが違うのか。私自身の操縦経験を含めて具体的に解説したい。
「塩漬け」にされた国産ジェット旅客機開発、三菱重工に欠けていた視点とは 【前編】頓挫した「日本の翼」、どう出直せばいいのか | JBpress (ジェイビープレス)
高度、速度ともにエンブラエルに劣る
私は日本航空(JAL)で長年「ボーイング747」に乗務した後、2008年秋からJALのグループ会社、ジェイエアで日本に初導入となる「エンブラエルE170」の訓練に入り、導入時から3年間、実乗務を体験した。その過程でわかったことを述べる。
お断りしておくと、一般的にパイロットは自分が乗務する、あるいは乗務した航空機のことを良い飛行機だと言う傾向がある。理由の一つに、自身が厳しい訓練を経たこともあるだろう。以下で私は可能な限り客観的に評価することに努めたのをご理解いただきたい。
ボーイング747やエンブラエルに乗務した経験から言えば、スペースジェットの最大巡航高度が3万9000フィート、速度がマッハ0.78に制限されていることに驚いた。
というのも、パイロットは乱気流を避けるため、時に4万1000フィートまで高度を上げることも少なくないからだ。
国内線や近距離国際線でも同様で、スペースジェットではそれができないとなると快適性でのハンディが生じる。エンブラエルは、他の航空機と同様、最大巡航高度は4万1000フィートである。
巡航速度もマッハ0.82とスペースジェットより速い。この違いは3時間くらいのフライトとなると、飛行時間で約10分の差となり、ダイヤ上も不利だ。
さらにスペースジェットには自動着陸装置がないようだが、それは視界が悪い時に安全に着陸するため必須の装備であり、後付けが難しく、コストもかかる。
なぜこのような設計になったのか。
軍用機開発の歴史は長いが・・・
それは設計段階で、民間航空のパイロットではなく、自衛隊出身のパイロットが参画し、テストパイロットも兼務したからではないだろうか。三菱重工は軍用機中心の歴史が長く、民間航空の空の実態をよく理解していなかったと思えるのだ。
次に、機内の快適性について言えば、スペースジェットは空気抵抗を少なくするため、胴体が細長いペンシル型である。一方のエンブラエルは胴体に「ダブルバブル構造」を採用して横幅を広く取って、頭上の窮屈感の低減に努めるなど、機体が小さいリージョナルジェットの課題を解消する設計となっている。公平に見て、スペースジェットの売りは客室内で荷物の収納スペースを広くしたくらいであろう。
スペースジェットはその翼型によって、着陸時に空港へ進入する際、カナダの「ボンバルディアCRJ」と同様に、機首下げの状態になる。これは私自身の経験から言って、着陸操作でのフレアー(機首上げ)が難しく、実際、CRJに乗務していた同僚からの評判も良くなかった。これに対し、エンブラエルは多くの航空機と同じように空港への進入時には機首上げの状態となっている。
加えて、エンブラエルE170の価格が約35億円とされるのに対し、スペースジェットは約42億~53億円と言われ、最初に導入する予定のANAでの定価は約51億6600万円と伝えられていた。
エンブラエルが採用した革新的な設計とは
エンブラエルは価格が安いわりには、安全面で革新的な設計とオペレーションが導入されている。コクピット内の仕様や自動操縦システム、飛行管理装置(FMS)などは、ボーイングやエアバスのハイテク機と変わらないが、設計面で随所に工夫がなされている。
それは、いずれも過去に世界で起きた大事故の教訓を生かしたもので、ボーイングやエアバスではあまり見られないものである。
例えば、御巣鷹山で墜落したJAL123便の事故では、全ての油圧が失われて操縦不能になったが、エンブラエルでは、一般に油圧で動かす水平安定板(スタビライザー)を電動にして、万が一、全ての油圧を失っても最低限のコントロールを残すようにした。
さらには、2000年1月に水平安定板のトラブルによって急降下し、海上に墜落したアラスカ航空の事故を受けて、水平安定板を動かすジャックスクリューを二重に装備したのも初めてのことだ。
この事故は、2013年に公開された映画「フライト」のモデルになっており、どのようなパイロットでも生還が困難な水平安定板の異常が原因であった。
そのほかにも離陸時に誤操作を発生させないための音声による警告システムの採用、警報音スピーカーの共用廃止、運航モードの誤操作を防ぐために、いわゆる「窓」と呼ばれるパネルを廃止したことなど、実に様々なヒューマンエラー防止のための工夫がなされているのだ。
実際、私自身それらを知って、日々安心して乗務できたものである。
また、搭載している米ゼネラルエレクトリック(GE)製の「CF34-8」エンジンは性能も良く、トラブルの少なさで際立っていた。
国土交通省が毎年7月に発表する国内航空会社の安全上のトラブルに関するデータによると、トラブルの総件数を機材数で割ると、フジドリームエアラインズ(FDA)が運航上のトラブルが最も少ない会社としてランクされている(2018年)。これは同社がエンブラエルのみで運航している結果とも言えよう。
スペースジェットは国産といっても、機体に使われる部品は輸入品が7割を占め、自動操縦システムなどはほかの航空機とほとんど差はない。あえて言えば、国産の部品や部材が使われているのは主に翼やペンシル型の細長い胴体部分である。
6度の納入延期で最大の「売り」が消滅
開発当初、最大の売りは前回も述べた米プラット・アンド・ホイットニー(P&W)のギヤードファンエンジン搭載によって燃費を約20%減少させることであったが、6度にわたって納入を延期しているうちにエンブラエルも同型エンジンを新型のE2ジェットに採用してしまい、もはや売りではなくなった。
そもそも航空機のエンジンは、GE、P&W、ロールスロイスなど、メーカーを自由に選べるので、中長期的に見ればどの航空会社も効率や整備経験などから、だいたい同程度の性能のエンジン採用に落ち着くのが現状である。
なぜライバル機のパイロットに話を聞かないのか
私がエンブラエルに乗務していた場所は県営名古屋空港で、三菱航空機の生産開発拠点は、ジェイエアの会社からわずか数百メートルの場所にあった。
仮に私が三菱側のスタッフだとしたら、ライバルのエンブラエルのことは当然気になり、実際に操縦しているパイロットに参考になる話を聞こうとするだろう。
しかし、私を含め同僚のエンブラエル機を操縦するパイロットには誰ひとりとして接触はなかった。後に三菱側のスタッフに聞いたところ、「JAL本社で一度お話を伺ったことがある」とのことであった。
私自身、初の国産ジェットへの期待もあり、日本国民の1人として成功を願い、何か聞かれれば協力したいと考えていた。
一例を挙げれば、2人乗務制のハイテク機の弱点でもある与圧システム(降下時に特に日本人は耳が痛くなりやすい)の改善やエンブラエルの良い点などもアドバイスしようと準備していた。
前者は、以前のように航空機関士によるきめ細かい与圧の調整がなく自動化されているので、航空機がいったん降下を始めると、目的地の地上の気圧に近づけようとして高度3000メートル前後で耳が痛くなる。これは今のハイテク機の宿命とも言えるもので、健康でも高齢者や子供にはきついものだ。
このような自動システムのプログラムを改善できれば、「スペースジェットMRJは耳に優しい」などと宣伝ができて、大きな売りになったと思うのである。
競合に打ち勝つためには、「敵」の実態を正確に把握することが欠かせないはずなのに、それを怠ったのはなぜなのか。やはり何度も言っているように、国産だからブラジル勢に負けるわけはないとする根拠の乏しいプライドと、上から目線の存在があったと思わざるを得ない。
それを許したのは、メディアを含む日本全体が時代の変化に鈍感になって、「メイド・イン・ジャパン」というブランドへの過信があったからではないか。
耐空証明取得をサポートできなかった国交省
最後にもうひとつ。初の国産ジェット旅客機を官民一体で推進するはずの国、とりわけ国土交通省の責任についてである。
多額の公費を補助金として投入しながら事業全体を三菱重工に任せ、適切な協力や指導が行われなかったのはどうしたことか。特に耐空証明を得られるようにサポートすべきであったのに、できなかったことは残念だ。その原因が国土交通省の能力の問題だとしたら今後、職員のスキルをどう向上させていくのか。
以上、2回に分けて述べてきたような問題の総括がなされなくては、日の丸ジェット旅客機が成功する日は、さらに遠のくことになるだろう。
日本航空(JAL)で長年「ボーイング747」に乗務した後、2008年秋からJALのグループ会社、ジェイエアで日本に初導入となる「エンブラエルE170」の訓練に入り、導入時から3年間、実乗務を体験された杉江氏が、三菱重工の「スペースジェット(旧MRJ)」と、ブラジルの航空機メーカー、エンブラエルとの競合顛末について、日の丸ジェット旅客機が成功する日の為に語っていただいています。
ボーイング747やエンブラエルに乗務した経験から言えば、スペースジェットの最大巡航高度が3万9000フィート、速度がマッハ0.78に制限されていることに驚いたと、杉江氏。
パイロットは乱気流を避けるため、時に4万1000フィートまで高度を上げることも少なくないのだそうです。
国内線や近距離国際線でも同様で、スペースジェットではそれができないとなると快適性でのハンディが生じる。エンブラエルは、他の航空機と同様、最大巡航高度は4万1000フィート。
巡航速度もマッハ0.82とスペースジェットより速い。この違いは3時間くらいのフライトとなると、飛行時間で約10分の差となり、ダイヤ上も不利だと。
更に、視界が悪い時に安全に着陸するため必須の装備・自動着陸装置がスペースジェットには無い。後付けは難しく、コストもかかるのだそうです。
なぜこのような設計になったのか。
それは設計段階で、民間航空のパイロットではなく、自衛隊出身のパイロットが参画し、テストパイロットも兼務したからではないだろうか。三菱重工は軍用機中心の歴史が長く、民間航空の空の実態をよく理解していなかったと思えると、杉江氏。
また、機内の快適性について言えば、スペースジェットは空気抵抗を少なくするため、胴体が細長いペンシル型である。
一方のエンブラエルは胴体に「ダブルバブル構造」を採用して横幅を広く取って、頭上の窮屈感の低減に努めるなど、機体が小さいリージョナルジェットの課題を解消する設計となっている。
また、スペースジェットはその翼型によって、着陸時に空港へ進入する際、カナダの「ボンバルディアCRJ」と同様に、機首下げの状態になる。
これは私自身の経験から言って、着陸操作でのフレアー(機首上げ)が難しく、実際、CRJに乗務していた同僚からの評判も良くなかった。これに対し、エンブラエルは多くの航空機と同じように空港への進入時には機首上げの状態となっているのだそうです。
そして、エンブラエルE170の価格が約35億円とされるのに対し、スペースジェットは約42億~53億円!
エンブラエルは価格が安いわりには、安全面で革新的な設計とオペレーションが導入されていると、杉江氏。
コクピット内の仕様や自動操縦システム、飛行管理装置(FMS)などは、設計面で随所に工夫がなされている。過去に世界で起きた大事故の教訓を生かしたもので、ボーイングやエアバスではあまり見られないものなのだそうです。
御巣鷹山で墜落したJAL123便の事故からは、全ての油圧が失われて操縦不能になったことから、スタビライザーを電動にして、万が一、全ての油圧を失っても最低限のコントロールを残すようにした等々。実に様々なヒューマンエラー防止のための工夫もなされているのだそうです。
開発当初、三菱の最大の売りは、P&Wのギヤードファンエンジン搭載によって燃費を約20%減少させることであったが、6度にわたって納入を延期しているうちにエンブラエルも同型エンジンを新型のE2ジェットに採用してしまい、もはや売りではなくなったと、杉江氏。
仮に私が三菱側のスタッフだとしたら、ライバルのエンブラエルのことは当然気になり、実際に操縦しているパイロットに参考になる話を聞こうとするだろうと、杉江氏。
しかし、私を含め同僚のエンブラエル機を操縦するパイロットには誰ひとりとして接触はなかったのだそうです。
競合に打ち勝つためには、「敵」の実態を正確に把握することが欠かせないはずなのに、それを怠ったのはなぜなのか。
ブラジル勢に負けるわけはないとする根拠の乏しいプライドと、上から目線の存在があったと思わざるを得ない。メディアを含む日本全体が時代の変化に鈍感になって、「メイド・イン・ジャパン」というブランドへの過信があったからではないかと、杉江氏。
多額の公費を補助金として投入しながら事業全体を三菱重工に任せ、適切な協力や指導が行われなかった国交省はどうしたことか!
耐空証明を得られるようにサポートすべきであったのに、できなかったことは残念だ。その原因が国土交通省の能力の問題だとしたら今後、職員のスキルをどう向上させていくのかと、杉江氏。
日の丸ジェット旅客機が成功する日の為には、問題の総括がなされなくてはならないと、鍵絵氏。
いつの間にか音沙汰が無くなった国産ジェット旅客機の話。こんな顛末だったとは。。。!
技術の日本はいずこへ!その復活には、何が必要??
# 冒頭の画像は、スペースジェット(旧MRJ)
パンジー
2月 7日は、北方領土の日
政府広報(北方領土問題) - YouTube
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