Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

モーターサイクル・ダイアリーズ

2006-11-18 | 外国映画(ま行)
★★★★ 2003年/アメリカ・イギリス 監督/ウォルター・サレス

「刻々と変わるガエルの表情がステキ」



キューバ革命の指導者チェ・ゲバラ。その若き日の放浪の旅を描いたロード・ムービー。ガエル・ガルシア・ベルナルがチェ・ゲバラを演じた。

革命家チェ・ゲバラと聞くと、暴力的な荒々しいイメージを想像してしまいがちだ。「ゲバラの顔」プリントTシャツを着た若者も日本でもよく見かける。そう、ゲバラは革命の象徴だ。

しかし、今作のゲバラ(エルネスト)は、道中で何度も「バカ正直」な行動に出て、相棒のアルベルトに諭される。もっとうまくやれよ、と。若き日のゲバラは、とても純朴で素直な青年だったのだ。その最も象徴的なシーンは、旅の資金もないボロボロの身なりの彼らに飯と宿を世話してくれた教授が書いた小説の感想を求められるシーンだ。相棒のアルベルトは「すばらしい作品でした」と適当に褒める。しかし、エルネストは「陳腐な表現が多く、つまらなかった」とバカ正直な感想を述べる。

一事が万事この調子のエルネストに対して相棒のアルベルトはお調子者。時にはぶつかり合うも、長旅を共にするのにはいいコンビだ。実際の旅と同じ行程で撮影した、という南米の風景がすばらしい。砂塵をあげて走り抜けるバイク、銅山の荒々しい光景、マチュピチュの遺跡…。特に我々日本人にとっては、見たこともない景色が多く、非常に新鮮だ。その道程で巡り会う貧しい人々。自分の土地を追い出されたアンデスの先住民族や革命思想で追われて銅山で働く夫婦、そしてハンセン氏病患者たち。

お気楽にスタートした旅が彼らとの出会いによって、かけがえのない体験へと変わってゆく。まじめで正直なエルネストは「人々の役に立ちたい」という気持ちを固めていく。南米の現実を突きつけられ、次第に心に秘めたる思いを膨らませていくガエルの表情の移り変わりがいい。特に、終盤ハンセン氏病病棟での滞在で、うっすらと髭が伸び伏し目がちで思慮深くなった顔が素敵。

南米の貧困層との出会いは、ドキュメンタリータッチで撮影されており、我々も共に旅をしているような気持ちになる。旅は人を変える。優しく正直でダンスの苦手なエルネストは、この旅を経て革命家を目指した。その心の移ろいがじわじわと染みてくるいい映画です。