Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

ONCE ダブリンの街角で

2009-03-18 | 外国映画(や・ら・わ行)
★★★★☆ 2006年/アイルランド 監督/ジョン・カーニー
「こりゃ、たまらん。涙が止まらない」

男は穴の開いたギターで毎日のように街角に立つストリート・ミュージシャン。そんな男の前に現われ、あれやこれやと話しかける花売りの若い女。彼女はチェコからの移民で、楽しみは楽器店でピアノを弾かせてもらうこと。彼女のピアノに心動かされた男は、一緒にセッションしてみないかと持ちかける…


エンディングの「FALLING SLOWLY」が未だに頭から離れません。しがないストリートミュージシャンとチェコ移民の花売りの女性。知り合って間もないふたりのハーモニーが、まるで無くしたピースがぴたっと合ったような輝きを放つ。寂しいふたりが引かれ合うのは運命にすら思え、その恋の行方を見守りたくなります。ふたりの間に静かに沸き立つ感情、相手を思いやる余りに口に出せないもどかしさが心に染みて、染みて、たまりませんでした。どうも最近、「我慢する恋愛」にひどく感情移入してしまうのです。

全編中、かなりの時間音楽が流れています。次々と繰り出される切ないメロディに、それぞれの心境や状況が歌詞としてのせられていく。音楽のジャンルは全く異なりますが「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」を思い出しました。今、目の前に横たわる悲しみ、苦しみを歌詞にのせ、歌うことで乗り越え、自分の道を切り開いていく。「歌うということ」。これ、そのものが自浄作用であり、自己解放なんですね。ああ、歌ってすばらしい!

低予算ゆえにか、わざとなのかわかりませんが、ダブリンの雑踏の音をマイクがたくさん拾っています。セリフが聞こえづらいほどに、車の音がうるさい時もあります。人によっては耳障りかも知れませんが、私にはこの街の音がとても心地よかった。ダブリンの街の息づかい、手触り、それらが音を通じて伝わってくる、そんな感じなのです。

冒頭、恋愛と言いましたけど、ふたりの結末から導き出されるのは、むしろ、恋愛を超えた、人と人との出会いのすばらしさだろうと思います。ほんの少し交わした会話がきっかけ。しかし、そこから始まる人生でかけがえのない日々。その期間があまりにわずかだからこそ、2人の心に永遠の宝物として残る。2人の選択、そして、メロディそのものが放つ切なさに涙が止まらないのでした。