Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

ブロードウェイ♪ブロードウェイ コーラスラインにかける夢

2009-09-17 | 外国映画(は行)
★★★★☆ 2008年/アメリカ 監督/ジェームズ・D・スターン、アダム・デル・デオ

「奇跡的な出会い」


ミュージカル「コーラスライン」の出演者を決めるオーディション風景をカメラが追ったセミ・ドキュメンタリー。最近見た同様の手法の作品「ヤング@ハート」を思い出しました。1本道を突き進む姿がとても感動的。動物モノや子どもモノなんかより、この手の作品の方が何倍も泣けますね。ごまかしがないもの。

ある審査員が言う。「好感度が大事」と。この発言は、ある意味矛盾している。だったら、基本審査の後は、ドアを開けて少しおしゃべりをするだけで決めれば良いと思うもの。でも、言わんとしていることはわかる。長い長い期間をかけて、ライバルとしのぎを削って、様々な要因が相互作用する中だからこそ、キラリと光るものが受験者と審査員の間に生まれれば、これぞ運命と思えるんじゃないだろうか。

オーディションの世界は確かに厳しい。何千人という規模、8ヶ月という期間。こうなりゃ、何が何でも相手を蹴倒して、私がその役を勝ち取るわ!って?いや、私には不思議とそうは見えなかった。他人のことなんて、構ってやいられはしない。要は、決められたその日、その時間に自分のベストのパフォーマンスができるかどうかなんだもん。「8ヶ月前の演技なんて忘れたわ」と嘆く女性の気持ちが痛いほどに伝わる。

何事も、「出会い」なんだなと。もちろん、それぞれの受験者がそれまでに凄まじいほどのトレーニングを積み上げてきた。その努力あってのものだけど。最後の最後は横一線。受験者と審査員、両者の間に不可視な「何か」が生まれるかどうか。役をつかみ取ることそのものが奇跡であり、そんな彼らが生み出す舞台に感動がないわけがない。私はミュージカルが苦手なんだけれども、これは見てみたいなあと心底思わされました。

各エピソードで印象的なシーンは多数あるのだけど、最も私の心に残ったのは、初代コニーを演じた審査員のバイヨーク・リー。沖縄出身の日本人ダンサー高良結香さんの演技終了後、好感触を示す他の審査員に彼女はこう言い放つ。「選ばれるべきは、5歳の頃からこのアメリカで舞台の切符を待つ行列に並んでいる者なのよ!」と。あまりに生々しい本音ではありませんか。だって公平に審査するからオーディション形式なんだもの。もし、そこが肝心なのなら、履歴書の段階でアメリカ在住歴の浅い者は落としてしまえばいい。

また、インド人の母と中国人の父を持つバイヨーク、小さい頃からアメリカ社会で偏見や差別に合ったことは想像に難くない。そんな彼女が高良さんをよそ者として排除するようなセリフを言うなんて。でもきっとこの差別的発言は、海千山千の業界でバイヨークがコニーの役を得るまでに数え切れないほどの苦難を乗り越えてきたことの裏返しなんだろう。そして、最後まで頑なだったバイヨーク(ラストの舞台審査でも彼女は渋面だった)の意向を乗り越えて、この役を得た高良結香さんに盛大な拍手を贈りたい。その後は「RENT」に出演とか。きっと、彼女もバイヨークのようにタフな業界で輝き続けるのだろう。いや、輝いて欲しいと心から思う。