落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

やがて悲しき生ゴミ日

2008年05月12日 | diary
船場吉兆:アユは二度揚げ、刺身のツマは洗う……使いまわし手口明らかに

大学生のころ、日本料理店でアルバイトをしていたことがある。
夕方は5時に出勤。出勤してすぐみんなで賄いの夕食を食べ、片づけて宴会の準備をする。宴会は大抵7時からと9時からで、一日に多いときは3〜4組くらい入っていた。アルバイトの仕事は板さんを手伝って野菜を剥いたり切ったりすりおろしたり、皿を並べて盛りつけたりして膳を整えるところから、出来たお料理を段取りに従って客席にお出しして接客しつつ─お酒の注文をとったり、料理の説明をしたり、お酌をしたり、カラオケの相手をしたり─、空いた食器を下げて洗って片づけるというもので、飛びこみの個人客もいるにはいたが予約の宴会が主だったので、飲食店といってもごく気楽な職場だった。宴会は出す料理が事前にみんな決まっていて、決まった通りにやれば問題なく終わる。一度覚えてしまえば難しいことは何もないし、運が良ければチップをもらえることもあった。賄いはおいしかったし、ご主人も奥さんも優しかったし、板さんやアルバイト仲間(大半が主婦)とも仲がよく、年に何度か慰労会といってピクニックに行ったりカラオケ大会やボーリング大会をしたのがいい思い出になっている。

団体の宴会では出席者全員に同じ献立が出されるから、人によっては食べられないものがあるのは当り前である。宴会だから飲む方に忙しくて料理にはまったく手をつけないなんて人もいる。お客さまがみんな帰った後で座敷に上がり、ざるを重ねたバケツに食べ残しをあけていくのだが、誰に教わることもなく手つかずの皿を一ヶ所に寄せ集めて板場に下げた。きれいに盛りつけたまま残されたおいしいお料理がただかわいそうで、もったいなかった。
それがそのまま再び客席に出されることはないが、大葉をご主人が集めていたのは覚えている。大葉は他の食材と比較すると食べ残されることが多いうえに安いものではないから、もったいない、使いまわしたいという発想はごく自然なものだと思っていた。それ以外の食べ残しは板場の夜食か、アルバイトのお土産になった。当時ぐりは妹と同居していてお土産は大抵彼女が食べていたのだが、妹はえびしんじょがお気に入りでしばらく持って帰らないと催促までした。ぐりは蓮根や筍が好きで、その季節になると食べ残しが出るのを楽しみにしていた。

吉兆といえば高級日本料理店というブランドイメージばかりが有名だが、実際にHPをみていると店によって価格設定に相当の開きがあり、かなり幅広い層を相手にサービスしているお店というのが実情のようである。たとえば東京本店はお任せ懐石コース¥85,000〜しかメニューはないが、大阪帝国ホテル店では¥8,400〜、昼は¥5,000のメニューもある。今回問題になっている船場や天神のお店についてはどのクラスなのかはちょっとわからない。
ただ、個人的にいえば、ぐりはこの食材の使いまわしがそれほど悪いことだとは思わない。確かに高級店のやることではない。セコいといえばセコいし、衛生上も多少問題はあるかもしれない。でも実際に飲食店で働いたことのある人ならわかると思うけど、飲食店というのはほんとうに利益率の低い商売だし、世の中の景気にも振り回されやすい、経済的に安定しにくい業種である。少しでも節約したいと考えるのは経営者として当り前の心情だし、経営者でなくても、出したままの状態で下げられた料理をそのままゴミ箱に捨てるのは誰でも躊躇する。高級懐石にふさわしい立派な食材を使い、一流の職人が手をかけた料理ならなおさらである。決してお客さまを騙そうとか、そういう悪意があってしたわけじゃないと思う。
大体、この問題で健康被害とか出てましたっけ?出てないよね?

日本では年間1940万トンの食べ物が残飯として捨てられている。
食糧自給率が低い日本では年間5800万トンの食糧を輸入しているが、その3分の1にあたる量がゴミになるのだ。国内で供給される食料エネルギーに換算すると26%が捨てられているという。もちろんこの数字はぶっちぎりで世界第1位である。
世界には栄養不足で生命の危機に瀕している人が8億人いるという。日本国内でだって、格差の広がりに伴って日々の食事に困る人たちは増えている。去年は北九州市で生活保護を打ち切られた男性が「おにぎりが食べたい」と書き残して餓死した事件もあった。それでも欧米でポピュラーなフードバンク(余剰食糧を無償で生活困難者に支給する非営利団体)のシステムは日本では90年代に始まったばかりで、まだまだ手の行き届かない地域も多い。

吉兆や赤福のことを責める以前に、日本人みんなが、食べ物に対してあまりに不真面目すぎることを自覚すべきではないだろうか。「もったいない」という精神は日本独自の美徳だといわれるけれど、そんな美意識がある国でなぜこんなにたくさんの食べ物が捨てられなくてはならないのか。
食べ残しを出さない、出たら有効活用する効率的なシステムを普及させることに、もっと日本は真剣になるべきだ。
去年からセブンイレブンが、今年からはデイリーヤマザキが、売れ残りのコンビニ弁当を飼料に転用する事業を実用化し始めたけど、ぐり的にはこういうことは飲食に関わる業界全体でやってほしいと思う。ホテルやファストフードやファミレスなんかはコンビニなんかよりもっと大量に食べ残しが出ているはずだ。

ぐりは小さいときから絶対に食べ物を残さないように躾けられて育った。今も、体調が悪くてどうしてもというときを除けば、出されたものは全部残さず食べなくては気が済まない。
朝、繁華街を歩くと通りに出されている残飯のゴミ袋の巨大さに悲しくなることもある。日本だってつい何十年か前までは、みんな貧しくていつもおなかを空かせてたはずなのに、どうしてこういうことができるんだろう?
なんでだろうね。


ベゴニア。掛川花鳥園にて。