落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

この愛のすべて

2008年05月16日 | movie
『CLEAN』
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爆音映画祭前夜祭での鑑賞。吉祥寺バウスシアター、めちゃひさびさに行きましたよ。このために。10年ぶりくらい?ビックリするくらい変わってなかったけど。
『CLEAN』は2004年の作品だが、その年のカンヌ国際映画祭で張曼玉(マギー・チャン)が主演女優賞を受賞したせいもあって配給権が高騰してしまい、結局日本では公開できなかったという気の毒な映画である。ぐりも非常に楽しみにしていたので今回ビデオ上映でも観られてとても嬉しい。画質も音質もかなりひどかったが、この際ゼータクはいいません。ハイ。

物語はカナダのある地方都市から始まる。
エミリー(マギー)は旅先でスランプ中のミュージシャンの夫(ジェームズ・ジョンストン)と言い争いになり、クルマの中で一夜を過ごして明け方モーテルに戻ってくると、救急隊や警官が群がっていて室内では夫がオーバードーズで死んでいた。その場でエミリーも違法薬物所持で逮捕。半年後に刑期を終えた彼女は夫と出会う前に住んでいたパリに移り、生活を立て直そうとする。すべては夫の実家に預けた息子(ジェームズ・デニス)と再び暮すためだった。

テーマは「回復」、あるいは「復活」とでもいおうか。
しょっぱなからヒロインはいきなり何もかもをいっぺんに失ってしまう。夫。自由。子ども。思い出、夢、キャリア、ドラッグ。
映画はそこから彼女が生きる道を捜して必死に這い上がろうとする姿を、実に生々しくヴィヴィッドに描き出す。そこに安い涙や愁嘆場はない。ドラッグで人生をダメにしてしまったら何が待っているか、そしてそれを克服するのがどれほど厳しくつらいものかを、ただただ淡々と静かに語っている。
幸いなことに彼女には音楽の才能と、そして友人と家族がいた。べたべたと甘ったるい友情や家族愛ではなく、差し伸べられた手をそっと握り返すような爽やかな人間愛。抱きしめて髪を撫でて「大丈夫よ」なんていう人は出てこない。ほんとうにヒロインを慰めることができるのは死んでしまった夫だけなのだ。でもそれ以外にも周囲の人にできることはある。
逆境にある女性への応援歌とでもいえるような物語だが、メロドラマによくあるムダな暑苦しさがまったくないのがいい。きりりと鋭く引き締まったスリリングなストーリーに時折、人の優しさや弱さ、脆さ、希望の淡く儚い光が、かすかに利かせたスパイスのように差し挟まれる。オシャレなシナリオである。
人間はその気さえあればいつでもやり直せる。くよくよと泣いて自分を憐れんでいてもしょうがない。どんなにつらくても悲しくても淋しくても、自分自身を信じることなら誰にでもできる。言葉にしてしまえば陳腐だけど、そんなメッセージがシーンごとに強烈に伝わって来て、観ていて何度も涙が出た。感動しました。こんなに感動するなんて、自分でも意外なくらい。

画面からはヒロインに対する溢れんばかりの愛が眩しいほどにほとばしる。いや、これはマギーに対する愛なのだろう。
監督のオリヴィエ・アサヤスはこの映画を撮影した当時既にマギーとは離婚していたはずだが、この作品を観ていると、結婚だけが男女の愛の結論ではないことを思い知らされる。互いの才能を認めあい、最大のリスぺクトを以て与えあう愛もある。
そんな監督の愛に相応しく、やはりマギーは素晴しい。ブラボー。てゆーかこのエミリーはもうマギー自身にしかみえない。演技してるよーにみえません。ハマり過ぎて。
この映画は初めはカナダ、次にフランスに舞台が移るのだが、劇中で彼女は英語とフランス語と広東語を喋っている。彼女この他に北京語も話せるけど、3ヶ国語はトライリンガル?4ヶ国語を喋る人はなんていうんだっけ?
夫の父親役はニック・ノルティ、パリの友人役にベアトリス・ダル、元カノ(!)役はジャンヌ・バリバールなど、メジャーなスターもけっこう出てるし、カナダ・イギリス・パリ・アメリカと4ヶ国でロケしてるし、たぶん見た目以上に大作なんだろうと思う。そら配給権も高くて当り前だわな。
ポンポンポンポンと弾むようなテンポで展開していくストーリー構成と、不安定なヒロインの心情に沿ったフレキシブルなカメラワークも秀逸。マギーの歌声もシブくてクールでしたです。