落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

さらば友よ

2008年05月17日 | movie
『マンデラの名もなき看守』

1962〜90年の28年間、国家反逆罪で収監されていた南アフリカ初の黒人大統領ネルソン・マンデラ(デニス・ヘイスバート)。
マンデラの故郷に近い地域の出身で彼らの部族の言語を解するグレゴリー(ジョセフ・ファインズ)は68年から釈放までの20余年にわたってマンデラ担当の検閲官をつとめた。後に出版された彼の回顧録『Goodbye Bafana』を映画化したのがこの作品である。
Bafanaとはグレゴリーの黒人の幼馴染みの名前。

グレゴリーはもともとごくふつうの南アフリカ人だった。大多数の南アフリカの白人同様、白人と黒人は分離されて暮すべきで、白人だけに与えられた利権は神の意志によるものと当然のように考えていた。仕事は仕事、大切なのは家族を守ることと昇進。とくに理知的でもなければ野心家でもない。どこにでもいる平凡な小役人である。コーサ語が話せるという特技を除けば。
物語の中でも彼はとりたてて活躍はしない。変わったことは何もしない。黙って自らの心に忠実に働いていただけだ。彼が南アフリカの民主化に寄与したことなどほぼ皆無に等しい。彼がしたことはすべて、少しの誠意さえあれば誰にでもできることでしかない。
それでも彼はマンデラと当局両方からの信頼を得た。あるいはそれが、人としての「心」に忠実であること、誠意こそが誰にでも理解しうる強さであることの証明なのかもしれない。

主人公がまったく活躍しないので、映画もさっぱりと盛り上がらない(爆)。良くも悪くもヒジョーに地味な映画です。予告編観ると盛り上がってるみたいにみえるけど、もうほぼアレだけです。あとはとにかくひたすら淡々としている。
まあでも逆にそれはそれでリアルでいいです。悲劇のヒーローがイヤというほど活躍しまくるドラマチックな熱い人権運動物語なんて、今さら誰も共感なんかしないんじゃないかなー。ヘタに涙とか感動とか押しつけられないぶん、素直に好感は持てましたよ。
ただやっぱしね、全体に退屈なのは否めない。もっと主人公の子どもたちを物語の前面に出すとか、構成に勢いを感じさせる工夫は欲しかったです。地味すぎるもん。映画として。地味な割りに中途半端にあざとい演出はちょこちょこ目につくし、結局どーしたいのかがようわからん。

南アフリカは1994年にアパルトヘイト政策を全廃し、民主国家としての歴史を歩み始めたばかりである。
マンデラ氏は釈放されて大統領になったものの既に齢70を過ぎていて、99年には引退している。アパルトヘイトによって荒廃した国土と国民の疲弊は甚大なもので、悲劇的なほどの経済格差やインフラの整備の遅れ、犯罪率の高さや絶望的なエイズ問題など、アパルトヘイトの負の遺産は今現在に至るまでまったく解決の糸口をみつけるレベルにすら至っていない。南アフリカの真の解放への道はまだまだ険しい。
そのことを思えば、この物語が地味なのも納得はいく。マンデラが釈放されたからといって、何もかもすべてめでたしというわけではない。看守はほんとうに、単なる「名もなき看守」でしかなかったのだ。
それにしては奥さん(ダイアン・クルーガー)が非現実的に美しすぎるのはめちゃくちゃひっかかるけどね(爆)。ははははは。

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