落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

子ヤギが踊れば子羊も踊る

2017年03月20日 | movie
『汚れたミルク/あるセールスマンの告発』

製薬会社の営業マン・アヤン(イムラン・ハシュミ)は新妻(ギータンジャリ)の勧めで大手多国籍食品メーカーに転職。粉ミルクを産婦人科病院に売ってトップセールスマンになるが、不潔な水で薄めた粉ミルクを与えられた乳児の死亡事故が頻発している事実を知り、内部告発に踏みきる。
パキスタンで起きた実際の事件を題材にした社会派サスペンス。

エンディングに、劇中の患児の映像は一部が1989年、それ以外は2013年に撮影されたというテロップが表示される。
映画の舞台は2000年代。つまりアヤンが決死の覚悟で告発した腐敗は決して新しい話ではなく、かつ現在も解決していない問題だということである。モデルになったネスレの粉ミルク問題は60年代に東南アジアなどの貧困国で始まり、80年代には世界保健機関が採択した「母乳代用品の販売流通に関する国際基準」にネスレも合意している。ところがこれがまもられていないとして、いまもボイコットなどの抗議は続いているという。

問題は粉ミルクの製品そのものにはなんら害はないという点である。
だが相手は生まれたばかりの赤ん坊、親が与えるもの以外の何も口にできず、免疫力は低い。たとえば親が貧しかったり文字が読めなかったり、清潔な水にアクセスできなかったりすれば、それはそのまま子どもの命取りになる。そもそもそういう地域で売るべき商品ではない。ところが西欧文化への無批判な憧れや病院ぐるみの収賄が、そんなリスクをなかったことにしてしまう。犠牲になるのはいつも、いちばん弱い存在だ。

映画は、ドキュメンタリー映画の製作チームがカナダに亡命したアヤンにビデオ会議でインタビューをする中で過去を回想するという形で描かれている。
この手法がものすごくうまい。
彼の視点だけにしぼった物語にすれば下手なヒロイズムに偏ってしらじらしいメロドラマになってしまいそうなのを、とにかく法的なリスクを排除したがりエビデンスにこだわりまくる現実派の西欧人たちの密談が合間に差し挟まれることで、多国籍企業相手の内部告発がいかに難しいものか、そうした権力を相手に社会問題の解決を目指すたたかいの困難さが、非常にリアルにドライに伝わるしくみになっている。
相手には力もある。カネもある。どう転んでも勝ち目はない。あるのは世論を味方につけるための完全無欠な理論武装だけ。それにもひとつたりとも穴はゆるされない。

劇中に大手多国籍食品メーカーの上司が「水道を整備しない政府が悪い」という台詞がある。
おそらくそう思う人はたくさんいるだろう。
でも、現状水道がないところで使えば危険な商品でも、儲かるのならいくら強引に売ってもいいという企業倫理は、少なくともこの21世紀には通用しないし、させてはいけない。
であれば消費者にできることから、やっていくしかないんだよね。



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